2559話 ダフファタ族の生き様
あー疲れた。代官の野郎ったら途中で暴れやがるもんだからさぁ。手間かけさせるなっての。麻痺させてやったけどね。
奥さんはこっちを興味深そうに見るだけで邪魔はしてこなかったんだよね。まあ痛みでそれどころじゃなかったんだろうけどさ。それでもじーっと見てやがったなぁ。
「足の甲を刺されると、こんなにも痛いとは知らなかったえ……」
刺されるっていうか自分で刺した形だよな。
「そりゃあ痛いだろ。これに懲りたら軽々しく剣を抜かないことだな。切れ味よさそうだしな。」
あ、思い出した。この奥さんが持ってる曲刀ってあのおばさんのと同じなんだ。ファンヤーサだっけ? あのおばさんのは刃こぼれしまくってたけどさ。
「誇りを汚されたなら、いつでも抜くに決まっておるえ。坊や、名を名乗れ。我が夫を子供同然に無力化し服を脱がせるように鎧を奪われた屈辱……忘れはせぬえ!」
「つーかおばさんさぁ。足の甲に剣が刺さったぐらいで大袈裟なんだよ。文句があるなら今この場で立ち上がってこい。それから俺の名前が知りたいならお前から名乗れ。」
足の甲を貫かれたら歩けないのは分かるけどね。経験済みだよ。スティード君に両足とも貫かれたからなぁ。めちゃくちゃ痛いくせにすぐ痺れが襲ってきてさぁ、立てなくなるんだよなぁ……
「くっ……小賢しい坊やだえ……ならば聞かせてやるえ! ワタシはダフファタ族の
族長の娘……やっぱ政略結婚か。
「カース・マーティン。十級吟遊詩人だ。機会があれば歌ってやるよ。」
私も父上の名前から言おうかとも思ったけど、こいつらに偉大な父上の名を聞かせるのが何だかもったいなくなったんだよな。
「名が……二つあるのかえ? どこの領の者なのだえ……」
ん? 二つ?
「なあシュガーバ、お前らって家名とかないの?」
言われてみればどいつもこいつも名しか名乗ってなかったな。
「カメイって何だよ……名前は名前だろ」
あらま、そういうことね。
どうでもいいけどマーティンとマダーディンって響きが似てるね。
「まあいいや。お前と同じ曲刀を持ってたおばさん、ファンヤーサだっけ? あいつの仇がとりたいならいつでも来い。」
この場は勘弁してやるよ。この奥さんは何となく嫌いになれない感じがするもんな。
「何を言っておるのだえ? ファンヤーサは生きておるえ? あぁ、
あれ? 生きてんの? てっきり生き埋めになってるものかと思ったら。
「魔王お……お前あんとき生きてる者は外に出せって命令したじゃねえか。当然あいつも外にぶん投げたぜえ?」
あ、そういえばそうだったか。
「まあいいや。俺らは今から商都に行くからな。俺を狙うのはいいけど次は殺すからな? お前も、代官もな。」
むしろ今回見逃してやることを感謝して欲しいね。
「後悔させてやるえ……」
「そんなことよりこいつらをしっかり弔ってやりな。そのためにわざわざ運んでやったんだからな。」
『麻痺解除』
せっかく生き残った奴もいるんだし無駄に命を散らすこともあるまい。
「動く! 動くぞお! 今だお前たち! あいつらを殺せえい!」
この代官はとことん小物だねぇ。さっきまで身動きできずにぷるぷる震えてたくせに。
「お代官様……我々は使いものになりませんか……」
「命をかけて……ナーガバのために働いているのに……」
「
ぷぷっ、やっぱこいつらバッチリ話を聞いてやがったね。代官の心無い言葉から無様な呼びかけまで。そこらの民衆まで利用しようとしたんだもんなぁ。騎士が役に立たないから平民でも使い捨ててやれ、的な考えがすっかりバレちゃったね。さあどうする?
「それに比べて……あの男は我らを介抱してくれましたよ……」
「戦いが終われば敵も味方もないと……なんと清々しい男の生き様じゃないですか……」
「それなのにお代官様ときたら……動けるとなったら第一声がそれですか……何と情けない……」
これは笑いが止まらんな。たぶんこうなるだろうと思って麻痺を解いたんだけど……予想以上じゃん。
「それに比べて……奥方様は戦ってくれましたよ……」
「あの細腕で……なんと猛々しいダフファタ族の生き様じゃあないですか……」
「それなのにお代官様ときたら……今頃ようやく立ち上がって……何と情けない……」
なんかこいつら面白いぞ……三人でガン詰め?
代官の前途は多難だねぇ。特注の鎧もなくなったし今後どうするんだろうねぇ。がーんば。
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