2558話 代官の妻マダーディン
代官は奥さんに何やら説教をされてるらしい。もっとも、聞く耳持たないって顔してるけどさ。
「あちらの坊やが賞金首? はて、宝貨十枚の大物なのにワタシが知らないとは妙なこともあるものですえ?」
「う、うるさい、宝貨十枚と言ったら十枚だ! それより何とかしろ!」
夫婦喧嘩か? いい気なもんだなぁ。私が凶暴な魔物だったら二人とも死んでるぞ? 代官の奴はまだ起き上がってないし。
「無理ですえ? いくらメタリックサンドスライムメタルの鎧が軽くてもお前様ごと抱き起こせるほどの力はありませんえ? この細腕をご覧おくんなさい」
そりゃそうだ。この奥さんさっきから正論ばっかりだなぁ。代官への愛情が感じられないね。政略結婚か?
「だったら誰か呼んでこい! こいつらが使いものにならんのだ!」
あーあ、そんなこと言っていいのかなぁ。騎士たちは動けないだけで意識はあるんだぜ?
「よいのかえ? ワタシがこの場を離れたら、誰がお前様を守るのかえ?」
へー、一応は守る気なんだ。意外。
「マダーディン、お前……」
「お前様も男なら自力で立ち上がってくださいえ? 夫と仰いだお前様を見殺しにする気はないにしても、一人で立つこともできない情けない男の妻になった覚えはありませんえ?」
清々しい正論だね。どうもこの街の女性ってのは苛烈な人が多いのかな。カラバとかだと女性は見下される存在っぽいのに。この街はやたら女性が強いぞ……身分によるのかな?
「くっ、ま、待っておれ……いま、立って……」
「ワタシは待ててもあちらの坊やが待ってくれるかは分かりませんえ? ねえ坊や?」
「誰が坊やだよおばさん。でもおばさんに免じてあと十秒だけ待ってやるよ。」
坊や呼ばわりをそう何度もスルーしてはやらんぞ。
そんなことより今回の戦利品は何がいいかなぁ。代官のフルプレート鎧でもいただいておくかねぇ。外す手間を考えてもセティアン砂漠で『鉄塊』を使うより割がいいはずだしね。ミスリルはいくらあっても困らないもんね。いい加減そろそろ鉄板焼き用のミスリル板を別に作りたいと思ってたところなんだよな。なんせ普段飛ぶ時に乗るミスリルボードの裏面を使ってるんだもんなぁ。フライパンも欲しいしね。それがいいな。よし、そうしよう。
「おばさん? ふん、口の利き方を知らぬ坊やじゃないかえ。ワタシをそんな風に呼んだ男はみんな死んでいったえ?」
この奥さん二十代中盤ってとこだろうな。どう見てもおばさんじゃないのに売り言葉に買い言葉以外でおばさんなんて呼ぶやつがいるのか?
「どうでもいいけど十秒経ったぞ。悪いがお喋りはここまでだ。それともおばさんが相手してくれるのか?」
「ふっ、坊やのようなイキのいい若い男の相手は嫌いではないえ? だが、ダフファタ族の女を……舐めるでないわえ!」
奥さんはどこかで見たような短い曲刀を抜いて突撃してきた。切れ味よさそうじゃん。でもだめー。
『金操』
「あぎっぃぃいっ……」
足の甲を刺させてやった。なんとなく憎めないから命までは取る気はないよ。勢い余ってごろごろ転げちゃったね。うわぁ痛そう……
「そこで大人しく見てな。心配しなくても旦那を殺しはしないさ。」
奥さんに免じてね。
「ぼ、坊や……何を……」
「鎧を貰う。命の対価にはしては安いだろ?」
「きっ、キサマあ! 私の鎧を奪うだと!? ふざけるな! この鎧がいくらしたと思っておるかあ! 商都随一の職人による完全オーダーメイドだぞお!」
知らねーよ。むしろフルプレートでオーダーメイドじゃないのがあるのか? 総ミスリルだとしたらかなり高いんだろうね。
うーんと、どうやって外すんだっけな……ムラサキメタリックのフルプレート鎧とかも何度かこうやって手作業で外したわけだし、たぶんできると思うんだけどなぁ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます