2557話 代官マジスターレと妻マダーディン

ぷるぷると震えはするものの、その場から動けなくなった騎士達。代官の近習だけあってそれなりに凄腕なんだろうけどね。こいつら魔法耐性がないから麻痺や睡眠系の魔法がすごくよく効くんだよなぁ。効率いいわぁ。たぶん『微毒』や『痛痒』とかもめっちゃ効くんだろうね。


「ほれ、一対一だ。相手してやるぞ?」


「くっ、ぐぬぅ……」


「さっさと起きろ。いつまでも待ってやるほどお人好しじゃないぞ?」


そもそもこうして待ってる時点でお人好しなんだけどさ。駱駝の高さから落ちたら意外とダメージでかいよな。ローランド王国じゃあそうそうあり得ないことだけどさ。


「お、おのれぇぇぇえええ!」


こいつすぐイケメン面が剥がれるよな。自分が優位だと思えば余裕ぶっこいた喋り方するくせに、ちょっと逆境になるとすぐキレる。こんなのでよく代官になれたよなぁ。駱駝の扱いはまともだけどさぁ。切り返しとか鋭かったもんな。カムイの動きに慣れてなかったら意外とあっさり撥ねとばされてたかもね。


「まだか? そんなに暇じゃないんだぞ? お前と違ってな。売れっ子吟遊詩人は辛いぜ。」


もちろん暇は暇だが、こんな奴に付き合ってやれる暇などない。何の予定にも縛られない自由な旅がテーマなんだからさ。


「ぐぬぬぬぬぅ……かくなる上は……聴こえるか! ナーガバの者どもよ! 私は代官マジスターレだ! ここに賞金首がいるぞ! 宝貨十枚の大物だ! 早い者勝ちだぞお!」


うわぁ……ドン引きだわ。こいつ一般市民を巻き込もうとしてやがる……うっわ、もう来た。暴徒の群れが……欲の皮が突っ張りすぎじゃない? いくらなんでも早すぎるだろ。そりゃあ宝貨十枚は美味しすぎるんだろうけどさぁ。それにここって城門の外だぞ? よくきこえたな……


「どいつだあ!

「こいつかあ!」

「どこ行ったあ!」

「いたぞお! オレだ! オレが見つけたんだからなあ!」

「死ねやあ! オレのもんだあ!」

「ざけんなどけやあ! そいつはオレが目え付けてたんだからなあ!」

「よっしゃあ! いただきだぜえ!」

「死ねこらあ! オレの得物を盗るんじゃねえ!」


こいつら何やってんだ?


「カース、お疲れだったわね。幻影まぼろかげの魔法を使ったわ。あんな愚民どもなんて相手にする価値ないもの。」


やるねぇ。さすがアレク。


「ありがとね。助かったよ。じゃあもう少しだけ待っててね。」


「ええ、急がなくていいわよ。」


「お嬢様何やったんだよ……」


シュガーバには分からんだろうなぁ。まあ私にもどんな幻を見せているかまでは分からないんだけどね。後で聞いてみよう。


「お前って代官のくせに情けないなぁ。しかもまだ起き上がってないのかよ。だっさ。」


意味は通じなくても悪意は伝わるだろ。


「くぬぅおおおおおお! 誰がおらんのかあ! こやつを仕留めた者には宝貨十枚だぞお!」


「お前様。宝貨十枚とは剛毅な話ではないか。どうしたことかじっくりと聞かせてくれぬかえ?」


なんだこの女は? 飾り気のない服装のくせに顔がデーハー系だ。口紅のせいか?


「ま、マダーディン……ち、違う、私の私財から出すのだ……何の問題もない……」


「へえ? 私財から宝貨を十枚もですかえ。ますます剛毅なことですえ。で、その使い道は何事ですかえ?」


マダーディン? どこかで聞いた覚えがあるなぁ。


「おう魔王、あいつだぶん代官の嫁だぜえ。ちなみに代官は先代商王の孫だとよお」


マジかよ。イケメンと美女のいい夫婦じゃん。中身までは釣り合ってない気がするけどね。先代商王の孫ねぇ……てことは今の商王の甥っ子だったりするのか? こんなのが王族だなんて情けないねぇ。

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