2540話 コーネリアス捜査網

シュガーバは無事に有り金を二倍程度に増やしたらしい。つまり駱駝騎士たちの中に宝貨を持っている者が何人もいたってことだ。 大金を持ち歩くとこんな目に遭うんだろうなぁ。可哀想に。


「さてお前ら。俺らのことはもう放っておけ。明日には街を出ることだしな。相手にならないことも分かっただろう?」


「くっ、ああ……」


「あと、宿に行った奴らのことは諦めるんだな。」


運が良ければ生きてるだろうけど、カムイの機嫌が悪かったら終わりだからなぁ。


「くっ……」


「じゃあな。」


「お前ら命があってよかったなあ? オレんとこはこいつに手え出して皆殺しにされたからよお?」


お前とアッシリは生きてるじゃん。カラバ領内でも極力殺さずに済ませたし。


「なっ……キサマらはいったい……」


どんな関係だって聞きたそうだな。まあスルーでいいだろ。


それにしてもカラバ領での出来事はこっちに伝わってないのだろうか? かなり遠いみたいだがそろそろ伝わっていてもいい頃だと思うんだけどなぁ。やっぱ自分とこの恥だけに知らせる気はないんだろうか?

まあ知らせがなくてもシュガーバがボーイェのキャフィティンだってこともそろそろ伝わるだろうし。この街にだってボーイェはいるんだろうからさ。


そんなことよりコーちゃんだよ。どこに行ってしまったんだろう? とりあえず宿に戻ってからカムイに探してもらおう。大まかな居場所でも分かれば『伝言つてごと』の魔法で問いかけられるんだけどなぁ。




「しっかし魔王よお。まさか一人で来るとは思わなかったぜえ?」


「そうか? 俺の方は手遅れだったら嫌だなーとか思ってたけど。」


「どうも奴らは殺す気はなかったみたいだぜて? お嬢様の身分についてもなんとなく分かってるみたいだったしよお。それよりオレが言ってんのはお嬢様も狼ちゃんも連れずに一人で来たのが驚きだって話だあ」


「あぁ、よく寝てたからな。わざわざ起こすほどのことじゃないさ。それよりお前、今からまた飲む気か?」


「ああーん? 悪いかあ?」


「いや、別に構わん。が、飲むのはコーちゃんと合流してからな?」


「へいへい。放っておきゃあ帰ってくるだろうによお。魔王も過保護なとこあんなあ?」


「お前だって放っておいてもよかったんだぜ? それを迎えに行ってやったんだがな?」


「おーっとそうだったなあ。オレなんぞをわざわざ迎えに来てくれてよお? ありがてえこったぜ。どうだあ? お嬢様にやらされてるオイルマッサージお前にもやってやろうかあ?」


「いや、いい……」


アレクにやってもらうならともかくアレ系のマッサージを粗野な野郎にやられたくはないなぁ。


「そんでえ? 蛇ちゃん探しに行くんだろお? オレあどっち方面に行くかあ?」


「まあ待て。探すにはカムイが必要なんだよ。まずは宿に帰るぜ。」


「ほおーん」


なんせカムイと来たら何千キロルも離れたエルフの村にまでコーちゃんの気配を感知して来れたぐらいだからな。でもあの時って、もしコーちゃんがイグドラシルに登ってたら……いくらカムイでも感知不可能だったんだろうなぁ。神域って外と隔絶されるもんなぁ。




おっ、いたいた。酒場の方に。


「ただいまアレク。夕食かい?」


「待ってたわカース。いいえまだよ。軽く飲んでるだけ。夕食はカースと一緒がいいもの。」


ぬふふ。だよねだよね。

でもカムイは大きめの肉にかぶり付いてるけど。


「いやー実はね…………」


ざっくりと説明。


「…………という感じなんだよ。だからカムイに探してもらおうと思ってさ。いいだろカムイ?」


「ガウガウ」


急いで肉を食べるカムイ。かわいいとこあるじゃないの。


よし、食べ終わったな。それじゃあ行こうか。コーちゃん捜査網だ。まあカムイがいればすぐ見つかるだろうけど。


道中はお喋りしてたのだが、アレクを狙った駱駝騎士どもはアレクの氷散弾によって穴だらけにされたらしい。その後窓からぶん投げたため、生きてるか死んでるかは知らないようだ。カムイに首を食いちぎられるよりは生きてる可能性が高いよね。




ここ? 人んちだね。しかもこれどう見ても豪邸じゃん。お偉いさんか、それとも豪商か。

とりあえず正面に回ってみよう。もう日が沈んでしまったが仕方ないな。


門番がいる。しかも衛兵って感じ? こりゃあお偉いさんか? こんな時間までご苦労だねぇ。


「何用かっ!」


「こんばんは。私はカース・マーティン。マルキンの吟遊詩人です。」


とりあえず最初だから印象よくしておかないとね。吟遊詩人ギルドの身分証を見せながら。


「なんだ推参か! えぇーい帰れ帰れ! 間に合っておるわ!」


あぁ、勘違いしてるな。別に歌を押し売りしに来たわけじゃないってのに。


「ああ違う違う。要件は尋ね人な。まあ人じゃなくて白い蛇なんだけどさ。探させてもらえないかな?」


もう敬語を使う気がなくなってしまった。代わりに銅貨をじゃらじゃらと握らせてやるぜ?


「しっ、知らん知らん! 白い蛇など見たこともないわ!」


あらぁ? 怪しいねぇ? 入らせてくれって言ってるのに「いない」だってぇ? ふぅーん。


「いるかどうかは問題じゃないんだぜ? いるのは確定してるんだからさぁ。入らせてくれって頼んでるんだけどなぁ?」


今度は宝貨をちら見せ。ほぉら、目の色が変わった。銅貨を握って離さないような門番ごときが宝貨の魅力に抗えるはずがないよなぁ?


さあ、どうする?

視線は釘付けになってるぜ?

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