2539話 わがまま奥さん

「おら! さっさと歩けえ!」


おっ、シュガーバか?


「ぐっ、ぐふっおお……」


なーんだ。もうそこそこ痛めつけられてるじゃん。顔なんかボッコボコになってんな。どうにか鼻は折れてないぐらいか? ロープでぐるぐる巻きにされてるし。


「おいシュガーバ、お前らしくもないな。どうした?」


「ぐっふ、ま、魔王かよ……来るのが遅えんだよ……さっさと助けろや……おえっ……」


まだ酔ってんのかよ……

助けろと言われたなら助けてやるけどさぁ。


『麻痺』

『水壁』


はい終わり。今いる奴ら全員に麻痺をかけてから水壁に閉じ込めた。頭は出してあるけどね。もう身動きできないし一言も喋れないぜ。


『風斬』


シュガーバのロープを切ってやる。あ、倒れた。呑気な奴だなぁ。とりあえずポーションを飲ませてやるかな。


『水操』


一口だけな?


「ふうぅーい。もう治ったんかよ……すげえな……もうどこも痛くねえぞ……酔いまで消えちまったのは残念だがよお」


「それよりコーちゃんは? お前と一緒に飲んでたんじゃないのか?」


「あー、この建物に入るまではオレの首に巻きついてたんだけどよお。いつの間にやらいなくなっちまったぜえ? てっきり助けを呼びに行ってくれたんだと思ったんだがよお」


コーちゃんが助けを呼びに動いたのなら確実に私のところに来ているはずだ。カムイも同じ部屋で寝てるんだから迷うはずがない。

じゃあ何やってんだって話になるな……


誘拐? 無理だよなぁ……そもそもここはローランドじゃないんだしフォーチュンスネイクだなんて知られてないだろ。誰が狙うってんだ。そりゃあコーちゃんはつぶらな瞳が可愛らしいし、ピュイピュイ鳴く声も愛らしい。純白の胴体だって眩しいぐらいにきれいだ。

だからってなぁ……コーちゃんを捕まえて閉じ込めるなんて神業レベルの難易度だもんなぁ。


よし。心配はいらないと見たね。コーちゃんだし。


『麻痺一部解除』


さっきまで話してた奴を喋れるようにしてやった。


「お前らって騎士だよな? それがお偉いさんの奥さんなんかの命令で動くのか?」


「そ、それがどうした!」


「いや、別に。そんなのお前らの勝手だしな。こいつに手を出したことは許してやるよ。もっとも、宿の方にも人を向かわせたんだったか? そいつらは可哀想なことになるぜ。不運だったな。」


「なんだと!?」


「うぉーい魔王お! オレあやられっぱなしかよお!?」


うるさいのが二人になった……


「だったら有り金抜いてやれよ。お前が持ってた金は取られたりしてないか?」


「おお! そうだったあ! 全部取られたんだぜ!? 許せんよなあ!」


まあシュガーバが持ってる金は大半が奪ったもんだしなぁ。あ、でも私の芸術品も持ってたしね。あれ一枚で銅貨何万枚に匹敵することか。


「待っててやるから取り返してこいよ。どうせこいつらが持ってんだろ。」


『水壁解除』


少しばかり拘束は緩むけど、動けないことに変わりはないしね。


「ったくよお……人様の金え盗むとは許せねえ悪党だぜこいつらよお」


うーん……なぜか耳が痛いぞ。シュガーバだってブーメランだろうに。


「それで、宿には何人ぐらい行ったんだ? むしろシュガーバを連行した時はなぜ部屋まで来なかったんだ?」


「き、キサマがいたからに決まっておるだろうが!」


なんだ。やっぱそうだったんだ。こいつらちゃんと警戒してたのね。


「痛めつけるって話だったがシュガーバ一人を連行してそれで終わるつもりだったのか?」


「できればそうしたかったのだがな……とりあえず一人だけでも痛めつけてみせればファンヤーサ様のお心も鎮まるやも知れんからな」


なんだそれ……つまり女のご機嫌取り的な? 同情を禁じ得ないぜ……いきなり冷静になっちゃってるし。


「ヘンクってのはどこかのキャフィティンの奥さんなんだろ? じゃあファンヤーサは何者なんだよ?」


そいつの夫だってそこそこ権力持ってただろうに殺しても許されるなんてさ。


「ファンヤーサ様は商王様のご親戚筋だ……」


あー……納得。そりゃあ無罪になるわな。国王とどの程度近いのかは知らんがさぁ。

むしろその夫、よく踊り子に手を出したな……自分より身分の高そうな奥さんもらっておいてさぁ。

むしろそのせいでストレスがとんでもなかったとか?


「夫の方は? それなりに身分が高かったんだろ?」


「タフキン族の三男だ。族長サールーキのな」


ん? いわゆる地方豪族って感じか? シュガーバの所でも同じ言葉を聞いた気がするな。


「シュガーバ、聞いたことあるか?」


「知らねえなあ。この辺りのことなんざ知らねえことの方が多いからよお。しっかし頭領サールーキ様の三男が殺されたんだろお? よく戦争にならなかったなあ?」


ああ、聞いたことがあるのはサールーキの方だったか。シュガーバの所、カラバ領の領主って意味だったよな。


「三男だからな。おまけに奴に非があり過ぎる。お代官様とあちらの族長サールーキ様が話し合って終わったと聞いている」


ふーん。どうにか揉めずに解決したのか。

だからか? ファンヤーサが調子に乗ってるのは。

元夫と間女の首を取ったんだろう? その上実家にまで嫌がらせするとはね。器小さいわぁー。

そんなんだから元夫も嫌気が差したとか?

だからって離婚の翌日に新しい女を自宅に連れ込むとか弁護の余地がないよなぁ。いや、離婚前からだっけ? 女の恨みは怖いねぇ。


うん、帰ろ……


宿に一泊したら、明日はいよいよ商都行きだな。

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