2538話 シュガーバの危機

部屋に着いたら、即寝てしまった……


アレクがちらちらと私を見ていたような気もするが、眠気に勝てなかったんだよ……むしろアレクも眠いからいつもみたいに襲ってこなかったんじゃないのかな……


外が薄暗い。もう日が暮れたのか。アレクもカムイもよく眠っている。コーちゃんはどうしたのかな? まだ飲んでるんだろうか。ちょっと様子見てくるかな。


酒場に移動。コーちゃんもシュガーバもいないじゃん。部屋に行ったのかな? まさかコーちゃんもシュガーバの部屋に?


「あーっ! 護衛さん! やっと降りてきたんですね! 長いことお楽しみだったようでぇ!」


さっきの姉さんか。


「ああ、いい夢見たよ。ところでうちの白蛇ちゃんとキャフィティン知らない? 部屋?」


「あー、それがですねぇー。駱駝騎士ラクミジャールが来て連れてっちゃいましたよぉ? 蛇ちゃんはキャフィティンさんの首に巻きついてましたぁ」


マジかよ……今度は憲兵じゃなくて騎士かよ。あいつもついてないなぁ。でもなぜ私の部屋には誰も来なかったんだ? むしろシュガーバより私達が本命じゃないのか?


「シュガ、いやキャフィティンは抵抗しなかったのかい?」


「しようとはしたみたいですけどぉ、あれだけ酔ってたら無理でしょお? ふらふらだしぃ何言ってるか全然分からなかったですしぃ。あれじゃあ連行しても取り調べできないんじゃないですかぁ?」


そりゃそうか……にしてもなぜコーちゃんは同行したんだ? 私を起こしにくればよかったろうに。まあいいや。面倒だけど助けに行ってやるかな。


「じゃあ悪いけどさ、二つ頼みがあるんだよ。」


もちろん銅貨を握らせながら言う。


「あぁーん! ごめんなさい! 私もう出ないといけないんですぅ! ラワ・ザウレってお店で踊ってますからぁよかったら来てくださいねぇ!」


律儀に銅貨を返しながら言うじゃないの。この姉さんはいい子だね。それより、踊ってる? つまり踊り子なのか? もしかしてそっちが本業ってこと? なのに昼からこの店でも働いてるわけか。偉い!


「姉さん、あんた偉いな。これは返さなくていい。お仕事がんばっておくれ。」


「もおぅ、護衛さんたら気前がいいんだからぁ。じゃあお店に来てくれたらぁうんとイイコトしてあげるからね!」


それはいらないんだけど……あぁ、もう行ってしまったか。やれやれ仕方ない。他のホール係に聞いてみるとしよう。どうせ客は少ないんだから。


頼みたかったのは二つ。

駱駝騎士の詰め所への案内と、アレクが起きた時の伝言でんごんだ。こんなことで安眠しているアレクを起こす気はないからね。




結局伝言は引き受けてくれたが道案内する暇はないそうで、店を出る客に頼んでくれた。なんでも駱駝騎士団の本部は駱駝の顎ラクミジョウと呼ばれ恐れられているらしい。どうもピンと来ないけどね……


「ほおら、あの先だあ。しっかし兄ちゃんも酔狂なことすんなあ? なんでわざわざあんなとこ行くかねえ」


「色々あってさ。じゃ、道案内ありがとな。これで一杯飲んでよ。」


もちろん銅貨を握らせる。ローランドの銅貨だからね。希少品だぜ?


「おっ、おお、気をつけろよ……」


さて、シュガーバは無事かねぇ。連行されてから二時間ってとこか。酷い拷問なんか受けてないといいんだけど。大怪我なら治せても欠損は無理だからなぁ。切断された部位が残ってれば別だけど。


「こんばんは。シュガーバはいるかい?」


ノックせずもしもし。正面の扉は生意気に頑丈そうな木材を使ってやがる。贅沢しやがって。


「キサマ! 妙な術を使うそうだな! 調べはついておる! よくここまで出向いてきたな! ん? キサマ一人か?」


「見れば分かるだろ。シュガーバは返してもらうぜ? 必要ならそれなりの金を払ってもいい。それとも抵抗してみるか?」


「くくくっ、バカめが! のこのこと一人で来おって! つまりあの娘は一人なのであろう!? 行けい! 確保してくるのだ!」


バカはお前だよ。そのぐらい私が想定してないわけないだろう。カムイが一緒なんだからさ。だから私は何の心配もしてないわけだ。

つまり、先ほど私達の部屋に来なかったわけは私と一緒だろうから警戒してたってことか。シュガーバより私を警戒してたとはね。そんなに目立つことしたっけ?


「護衛のくせに傍を離れるとは迂闊な奴め! その様でどうするつもりだ!? あやつも女もこちらの手中にあるぞ! それでも抵抗するか!?」


抵抗するか、は私のセリフだろ……


「分かった。抵抗はしない。だからシュガーバに会わせてくれ。」


正直なところシュガーバなら見捨てても全然問題ないんだけどね。一応手遅れかどうかぐらいは確かめてやらないとな。


「くくくっ、それでいい! よおし! あのキャフィティン様を連れてこおい! どうせ此奴ともども痛めつけるがなあ!」


おや? もしかしてまだシュガーバは無傷? こいつら甘いなぁ。たぶん余裕ぶっこいてるんだろうなぁ。まあ、シュガーバが泥酔しすぎて痛めつける気にもならなかったんだろうなぁ。


「痛めつける? 痛めつけてどうするんだ?」


「くくくっ、恐ろしいか! ヘンク様のみならずファンヤーサ様まで蔑ろにしたキサマが無傷でこの街を出られると思うなよ!?」


んん? 痛めつけるだけ? 痛めつけて終わり? 投獄とか奴隷落ちとかないの? こいつら正気か? 甘すぎるだろ……

ヘンクにしてもファンヤーサにしても、痛めつけるだけでいいのか? それで満足なのか? 分からん奴らだなぁ……

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