2532話 裏庭にて
ん? 何だこいつら? アレクとシュガーバがいなくなった席に座りやがった、だけじゃなくアレクとシュガーバが飲み残したビールを飲んでやがる。蛮族かお前ら……
「よぉーワカゾー? お前ら何よ? うちの奥様に楯突いてよぉ? お前ら終わったぜえ、んん?」
「ひゃはっ、っぷはぁ! ふぃー、朝から飲むギーヤは効くぜえ!」
「役に立たねえ護衛は来るなってよお! ぎゃははあ!」
ふぅん……こいつらには私がそう見えてるんだ。ふぅん……
「なあお前らさぁ。これ欲しくないか?」
ミスリルコインを弾いて見せる。贋金じゃないぜ? 私が作った芸術品だぜ?
「おお? お前護衛のくせに金だけゃ持ってんのかあ!? たらふく小遣い貰ってんなあ!?」
「ひゃはっ! よおく分かったぜえ! それで勘弁してくれってことだろお!?」
「なーるほどなあ! そんなら勘弁してやっかあ! ただし三枚出せよお?」
なんてお気楽な奴らだ……
「賭けようか。お前らが勝ったらこれやるぜ? お前らが賭けるのは有り金でいい。約束するぜ?」
「おお? なぁに調子こいてんだああがっあああっ……」
「ぎゃっはぁ! 表え出ろやっああばばっびびっぼ……」
「無理すんじゃねっげべれれっあええ……」
よし、かかった。まあこいつらの有り金なんてたかが知れてるけどね。
「そんじゃ行くぜ。表でも裏庭でもよ。」
「何だあ今のは?」
「ぎゃっははぁ! せっかく無傷で帰れるはずだったのによお!」
「バカだぜなあ!? オレらも裏あ行くぜえ!」
ちょろいねぇ。小遣いゲットだな。では行くぜ裏庭。
おっ、アレクと護衛が対峙してる。おばさんと対戦するんじゃなかったんかい?
「今なら勘弁してやるぜえお嬢様よお?」
「かわいい顔に傷でも付いたら大変だぜえ?」
「意地張らねえで奥様に詫び入れなあ?」
おばさんは素知らぬ顔してやがる。やっぱその程度か。
「あら? 結局自分では戦えないのね。はぁ……情けないわね。それでも女なのかしら。」
「奥様あ! 先にオレらにやらせてくださいよお! こいつ宝貨を持ってやがるんですよ! 全部いただきですから!」
あらあら。そんなに私と対戦したいのか。金に目が眩んでるねぇ。
「あら、あんたらもやるのかい? それなら景気付けといこうかい。先にやっていいさね」
「ありがとうございます! そんじゃあワカゾー! 来いやあ! オレが相手してやん『風球』っごぼぁ!」
とりあえず吹っ飛ばしてみた。
「てっ、てめえ! 何しやがっ『風球』たがおごっ!」
見えないだろうね。私にだって見えないんだからさ。飛んでいきなよ。
「残りはお前だぞ。来いよ。」
「なめっ『風球』んなぎいっ!」
来いとは言ったけど待つとは言ってないからね。では、こいつら三人の有り金をいただくとしようか。
「シュガーバ、あの三人の有り金と手持ちの金目のものを取ってこい。」
「へいへい。野郎の懐を漁るなんざだるくて仕方ねえぜよお。ったくよお……」
「てめえ! 何しやがる! ふざけんじゃねえぞ!」
やれやれ。
「ふざけてんのはお前だ。俺はこいつら三人と有り金を賭けたからな。どう見ても俺の勝ちだろ? 文句があるなら来いよ。」
「ざけんなワカゾーが『風斬』あっ……あ、え……手、え……いぎぃぃぃいやぁぎゃああおおおおおお!」
バカが。せっかく三人は穏便に吹っ飛ばすだけで済ませてやったのに。剣を抜きやがった。だからその右腕を斬り飛ばした。
「あなたの護衛は役に立たない男ばかりね。で、どうするの? 頭を下げて許しを乞うなら勘弁してあげるわよ? さっさとあの男を介抱してあげなさい。」
風斬でスパッと切ったから治癒魔法使いに普通程度の腕があれば簡単に治る。だが、ここにそんな奴はいないだろ。可哀想に、もう治らないね。むしろ放置しとくと死んでしまうぞ? あ、シュガーバがそいつからも金を抜いてる。仕事熱心で偉いね。
「ふん、まだ終わってもないのに気の早いことだわ。アタシの護衛に手を出したんだからねえ? もう穏便に済ますわけにはいかないさあ。どこのお嬢様か知らないが罰を受けてもらわないとねえ?」
「あなた恥ずかしくないの? おまけに一人じゃ戦えない弱者だったとわね。あなたがその様じゃあファンヤーサとやらの勇猛な噂も話半分かしらね?」
それにしてもこのおばさんも口だけだなぁ。一生懸命強気に出てるけどアレクとは器量が違いすぎるよね。
「ファンヤーサ様とお呼び! この小娘があ!」
おっ、やっと動いた。大きな動作でアレクにビンタ。もちろんアレクは避け、避けないんかーい! うおい! どうした!?
「アレク!? どうしたの!? 大丈夫!?」
「ええカース。平気よ? 大丈夫。でも、とっても痛かったわ。だから次は私の番ね?」
おおっ、やるねアレク。豪快なフォームで全力ビンタ。アレクより重そうなおばさんがずしりと倒れたじゃないの。
避けようともしなかったなぁ。自分は叩いてもいいけど他人が自分を叩くなんて想像もしてないタイプか?
「あら? 口ほどにもないわね。文句があるなら来なさい。でも私達は明日にはここを立つから来るなら早めに来ることね?」
「あ、ああ、し、知らねえからな……覚えてやがれ!」
なんてありがちな捨て台詞なんだ。
「あぁ待て。ついでだからお前らも有り金置いていけ。楽しい時間を邪魔した罰だ。」
『風球』
全員吹っ飛ばした。後はシュガーバが集めるだろう。大して広くもない裏庭だし方々に散ってるということもない。
おっと、そうそう。
さっき腕を飛ばした奴に……
「あらカース、治してあげるの?」
「まあね。ほんの気まぐれかな。」
こいつらから集めた金額より高級ポーションの方が高いだろうけどね。明日には商都に向かうことだし変なケチがついても面倒だしね。
何もなかった、で済ますのが一番だよね。
でもまあ、しつこそうなおばさんだけどさ。
「ふふ、カースらしいわね。じゃ、飲みなおしましょ。ちょうどいい運動になったことだし。」
「そうだね。次は何を飲もうかなぁ。」
注文しなおしだな。料理はカムイが全部食べてるか、もしくは冷めてるだろうしね。
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