2531話 舌戦アレクサンドリーネ

おっ、シュガーバが戻ってきた。ようやく全部運び終えたのか。ずらっと並んだ大ジョッキを見たコーちゃんのご機嫌がすごくいい。


「んだこら? なんだあてめえ? うちのお嬢様に何か文句でもあるんかあ、おお?」


テーブルに着いてビールを飲んで一息ついてからのシュガーバだ。アレクよりビール優先かい。ぼけーっと黙ってる私が言うことじゃないけどさ。ビールうめー。


「おやあ? ババアのお手伝いは終わったのかあい? いい歳して女の仕事なんざして恥ずかしくないのかねえ?」


そうなの? 給仕とか配膳ってそうなの? この国らしいぜ。


「てめえこそ質問に答えろやあ? うちのお嬢様に文句でもあんのかよお?」


「ふふっ、無知な男は早死にするよお? ファンヤーサ様の恐ろしさを知らないなんてねえ。というわけで文句じゃなくて忠告さあ。早死にしたくなけりゃあさっさとその服は脱ぐんだねえ。この街で素肌を晒して許される女はアタシみたいにファンヤーサ様に認められたモンだけなのさあ」


恐ろしさねぇ……まあ女伊達らに夫と踊り子の首を取ったのは評価してやろう。問題は剣の腕が立つのか手勢の中に腕利きがいたのか分からないってことだよなぁ。噂的には本人がやったっぽいニュアンスだけどさぁ。そんなの信じられるかっての。


「あら? じゃあファンヤーサとやらは実力でこの街の頂点に立っているわけなのね? 代官の奥方と親友であることとは関係なしに?」


おろろ、アレクのツッコミが入ったねぇ。それは私も気になってた。カカア天下の代官なわけだし、その奥さんの親友ともなるとねぇ。どうなんだい?


「あははは! ファンヤーサ様がマダーディン様の威を借る灰犬ハイエナとでも言いたいのかぁい? 逆だねえ! マダーディン様こそがファンヤーサ様の薫陶を受けて代官の妻にまで登り詰めたのさあ」


だめだこりゃ。こいつの言うことはさっぱり当てにならない。まるで信者じゃん。

それよりマダーディンってのが代官の奥さんなのね。


「ふふっ、微笑ましいものね。あなた、もう行っていいわよ。底が知れたから。」


おおっ? アレクの煽りが入った! 今のどこに微笑ましいポイントがあったんだ!?


「分からないことを言う小娘だねえ? 虚勢張るのもいい加減にしたらどうだぁい? たった二人の男で身を守れるとでも思ってんなら大間違いだよお?」


「虚勢? おかしなことを言うわね。たかが代官の妻程度で『登り詰めた』なんて言うから思わず笑ってしまっただけのことなのに。あぁ、それから私は身を守る必要なんかないわよ? 今私は世界で一番安全な場所にいるんだもの。」


おおー、そういうことか。確かに代官の奥さん程度じゃなぁ。国王妃とかならともかく。

それより世界で一番安全だって? 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。私が隣にいるからだね。じゃあせっかくだし、そろそろ終わりにしてくれようか?


「ふぅん? 大して強そうにも見えないうらぶれた男と凡庸な若造でえ? そこまで護衛に自信があるってんなら一つ腕比べといこうじゃないかあ。アタシの護衛に勝ったらファンヤーサ様に取りなしてあげてもいいねえ?」


「ふふふっ、やはり底が知れたわね。護衛の腕比べ? 何をぬるいこと言っているのかしら。女には女の生き様があるのよ? 私を知りたければあなた自身が舞台に立ちなさい。」


うーん、やっぱアレクは役者が違うね。聞いてるだけで惚れ惚れしちゃうよ。声だって凛としてるしさぁ。もう蕩けてしまいそうだよ。アレク素敵。


「こっ、小娘え……調子に乗って……アタシが手出ししないとでも思ってんのかい!」


「あら? 相手してくれるのかしら? なら表へ出ようかしら。それともここでやるの?」


「こっ、小娘ぇぇぇ……!」


なんだこのおばさん? 護衛には自信があっても自分では戦えないのか? まあそれが普通な気もするけど。アレクとは役者も器も違いすぎて比べものにならないね。ドンマイ。


「やるの? やらないの? さっさと決めて欲しいわね。やらないのならここの勘定を置いていきなさいよ?」


ぷぷっ、アレクにしてはちゃっかりしてるね。珍しい。


「いいわよ! やってやろうじゃない! 裏に来るがいいわあ!」


へぇ。このおばさんやるんだ。可哀想に……どんな目に遭うことやら。


「あ、カース来なくていいわよ。すぐ戻るから。」


「そ、そうなんだ……」


んもぉーー! コーちゃんと私が楽しく飲んでるものだから気を遣ってくれちゃって……アレクが勝つのは間違いないけどさぁ! 気になるじゃん!


「分かったよ。さっさと終わらせてきてね。でもシュガーバには行かせるよ?」


「すぐ帰るからいいのに。まあいいわ。行くわよシュガーバ。」


「へいへーい……」


ビールをうまそうに飲んでいただけに、めちゃくちゃ嫌そうな顔して立ち上がりやがった。


ちなみにコーちゃんはもう四杯ほど空にしてる。カムイは平皿に入れられた何かの乳を飲んでご満悦だ。


アレクに追随するおばさん、に追随する護衛たち。


ん? 全員じゃないのか。二、三人の護衛はここに残ってる。つーかおばさん一人に何人護衛が付いてんだろ?

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