2411話 愛と青春の旅立ち

宿に払った金は無駄になったがもういい。迷惑料ってことで諦めてやるよ。てくてく歩いて村を出た。この大陸ってどこもこんな感じなんだろうか。クソみたいな男尊女卑って言うかさ。あんなのマジで奴隷じゃん。いや、女だけじゃない。子供まで奴隷扱いじゃん。父親の罪を子供が償うって正気じゃないぞ?


『風壁』


遠巻きにぞろぞろ付いてきやがるから道に風壁を張ってやった。本当に街を出るの見張ってるつもりか? こっちは息をするように皆殺しにできるってことを分かってんのかな。度し難い奴らだわ。

あ、迷惑料として香辛料が欲しかったなぁ。クロブの実って言ったかな。どんな味なんだろう。でももう面倒だしな。他の村でもどうにかなるだろ。

振り返ってみれば……おーおー、どいつもこいつも見えない壁にぶつかって不思議そう、かつ憎々しげな顔してやがる。そんなに広範囲に張ってるわけじゃないから回り込むことは難しくないのにね。


『風壁』


ついでだから村の出口にも張ってやった。今度は広め。たぶん夕方まで消えないだろうね。これは完全に嫌がらせだ。




ようやく村が視界から消えた。やれやれだったなぁ。


「兵士の数人ぐらい追ってくるかと思ったけど全然来ないね。」


「いくらカースの風壁だからってその気になれば突破できないとも思えないわね。そうなると兵士がさっきので全員だったか、それとももう心が折れてしまったか、かしらね?」


「そんなところだろうね。それにしても変な村だったね。女性を何だと思ってんだか。」


「ああいった考えはローランドでも地方によっては珍しくないとは思うけど、それにしたって酷いと思うわ。女の人が外に出られなかったら仕事もできないのに。」


それはそうだよな……香辛料とか育ててるんじゃないんだろうか? もしくは採集してるだけ? いや、それにしたって人手は要るだろうに。分からんなぁ。家の中のことしかさせてないとか? やはり意味が分からん。


「シュガーバ達に聞いてみてもいいかもね。あいつらはこれが当たり前だと思ってるから僕らに何も言わなかったんだろうしね。」


「きっとそうね。やっぱり旅はしてみるものだわ。色々な不思議に出会えるもの。」


「そうだね。不思議だね。」


出会いたい不思議と出会いたくない不思議があるよなぁ。




街道に沿って南下することおよそ三十分。来たか。


「おい魔王……何やってんだ?」


「おおシュガーバか。ここら辺にいたのか。あの村があまりにもムカついてな。泊まるのをやめたってわけだ。」


木の陰からひょっこり顔を出しやがったな。


「ああ? ムカついた? 何に?」


「散歩してたらな。子供が縛られててな。そんで…………」


一連の出来事を歩きながら説明。




「どこの村もそんなもんだな。カラバじゃ当たり前だと思うぜ」


やっぱそうなのか……


「父親の罪を子供が身代わりになるのも当たり前なのか?」


「まあ珍しくねえな。一家の主は身代わりを用意してもいいんだよ。そりゃ罪にもよるけどよ? そいつの場合は日暮れまで縛られてるだけだったよな? そういった軽いやつは身代わりで済ますことが多いぞ」


珍しくないのかよ……


「重い罪ってどんなのがある?」


「自分より上のモンに対する反逆とかだな。同格のモンでも殺したりしたら結構重いな。指とか腕とか落とすぜ?」


上の者? 身分の話だよな?


「さっき話したのはただの村人に見えたが、そいつより上ってのはどんな奴らがいるんだ?」


「そんなもん普通に兵士連中だな。あとそいつが普通の村人だってんなら村役とかな。村長以下、村の幹部連中だ。そんな上の奴らに逆らうと面倒なことになるだろうぜ。下のモンがどうなろうが知ったこっちゃねえって奴らばっかりだからな」


「不正は軽い罪で逆らう方が重いのかよ。よく分かんないことになってんなぁ。逆に奴隷っていないのか?」


「もちろんいるけどよ。意外と高えからな。こんな村にはいるかどうか分かんねえぞ? カラバにはよくいるな。」


やっぱいるのか。


「何をしたら奴隷に落ちるんだ?」


「大半が借金だな。家族に売られるって場合もあるけどな。後は拐われて売り飛ばされるとかな。」


「犯罪では奴隷にならないのか?」


「あー、あんまならねえな。例えば殺人の場合だと相手にもよるが死刑だったり腕を切ったりだからな」


こいつら欠損させるのが好きだな……一眼で罪人だと分かるようにしてるってことだろうか。それにしても死刑もあんのかよ。野蛮だわぁ……ローランド王国みたいに奴隷として使った方が有益だろうに。鉱山奴隷って死刑の方がましとも聞くけど。どうなんだろうね。


「借金で奴隷になるってことはいつか解放されるのか?」


額に応じて年季が決まりそうなもんだが。


「一応期間は決まってんだがよ。主人になった奴次第だな。大抵は無理難題ふっかけてずるずると伸ばすのが定番だな。そんで怪我とか病気とかで使えなくなるまで使い潰すって感じかあ? 奴隷になんてなるもんじゃねえなあ」


やっぱクソか。奴隷法とかないのかよ。この大陸ってもしかしてヒイズルより遅れてんじゃないの? もしかして香辛料やコーヒーの育て方さえ分かればさっさと植民地にしてやった方がいいんじゃないの? 私が考えることじゃないけどさ。


もしかしてだけど、全部まわらないうちに途中で嫌になって旅を終える可能性も出てきたな……そうならなければいいのだが……

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