2408話 がっかりカース
だいぶイライラがおさまってきたことだし、この辺で勘弁してやってもいいんだけどなぁ……この子が無事に目を覚ましたらの話だけど。
「まあ落ち着けよ。聞きたいことがあるんだがな。」
「何だ! 今さら命乞いしても無駄だぞ!」
命乞いする必要があるのはお前だろ……
「この村はやけに女がいないが何か理由でもあるのか?」
「何の話だ? いるに決まっているだろう!」
ん?
「いるって、どこに? 俺らは昼前にここに来たけどまだババア一人しか見てないぞ?」
「当たり前だ! 女が外をうろつくわけないだろう!」
んん?
「意味が分からん。この村の女は外出しないのか?」
「何を当たり前のことを! するわけないだろう!」
話にならない……
「もういい。この子の母親を呼んでこい。もしくはこの子を家まで連れてってやれ。丁重にな?」
「ふざけるな! 我ら兵士がそのような下らぬことなどできるか! 無知なよそも『風弾』っがぼっ!」
相手にしてらんないや。何なんだこいつ……
「参ったね。さっぱり意味が分からないよ。この件は明日にでもシュガーバに聞いてみようか。」
「それがよさそうね。シュガーバにしてもこれが常識なものだから私達に特に注意しようなんて思わなかったのね、きっと。」
「そうみたいだね。とりあえず……」
『浮身』
倒れた奴らを端に寄せておく。実際には何もしてないが手当してやった感だけ出しておこう。一般村民に対するアピールってことで。そもそも目障りだしね。
それよりシュガーバの言うことが間違ってないとすると……こいつらの感覚では女は家族ではないってことか? 妻や母親ではなく、ただの下女とか
「ううっ……」
おっ、起きたかな?
「気分はどうだい?」
「えっ、ここは、お、お兄さんは、だれ?」
「ただの旅人さ。それより君、死ぬところだったぞ? 立てるか?」
「あっ! なんで!? 日が暮れるまで縛られてなきゃいけないのに!」
「悪いことしたのは君の父親だろ? 君がやることじゃない。そんなことより早く家に帰った方がいい。お母さんが心配してるんじゃないか?」
本当の母親ならこんなこと身を挺してでも止めそうな気がするけどさ。
「だめだよ! 僕がやらないといけないんだ!」
「いけないって……もう縄もないしみんな寝てるし。君も帰って休んだ方がいいと思うよ?」
「ええ!? で、でも僕がやらないと……」
会話にならねぇ……どうなってんだよこの村は……
「じゃあ少しだけ話してくれるかい? 君は何も悪いことをしてないよね?」
「うん」
「あそこに縛られるのは悪いことをした人だけなんだよね?」
「うん」
「じゃあ君はあそこに縛られないよ。何も悪いことしてないんだから。」
「違うよ! 僕は役に立つって言われたから! お父の役に立たないといけないんだ!」
なんだそりゃ……口車ですらない口車に乗せられてるのか? 意味が分からん……
「どうしてもやりたいの?」
「うん!」
だめだこりゃ……理解できない。できないが、ここまで言われたらなぁ……
「分かった。じゃあ縛ってあげる。おいで。」
「うん!」
「え、そんな、カース?」
さすがのアレクもそう言いたくなるよね。軽く頷いておく。
「はい、手を後ろに回して。」
「うん!」
さっきまでは何周もぐるぐるに巻かれていたが、今度はロープが足りないから一周だけ。この子を助けるのにぶち切ったからね。
「一応言っておくけど、辛くなったらここを引っ張ってね。縄が解けるから。見えないとは思うけど、手首を少し動かしたら届くようにしておくから。触ってみて、ここだよ。」
「平気だよ!」
そりゃあさっきポーション飲ませてあげたからね……
「無理しないようにね。」
「うん!」
私の好意は何だったんだ……むなしいぜ……
「アレク、帰ろうか。」
「そうね。もう休むのもいいわよね。」
「いやぁ……それにしても参ったね。良かれと思ってやったことが、何の意味もなかったなんてね。むしろあの子にしてみれば邪魔をされたとしか思ってないのかな。」
とてつもなくむなしいな……
「そうかも知れないわね。でも、私は嬉しかったわ。カースが止めてくれて。ありがとうカース。」
ああ、アレクったらあのままだと殺してたからね。そりゃあ止めるさ。かわいいアレクにはなるべく殺人なんてして欲しくないもんなぁ……今さらだけど。
「こっちの大陸の人間はなるべく殺さない方がいいらしいからね。手加減も楽じゃないね。」
「ふふっ、分かってる。カースの心優しい素敵な人柄は。大好きよ!」
そう言って抱きついてくるアレク。嬉しいなぁ。むなしい心が満たされていく。
そして今気付いた。
むなしさを感じた理由の一つ……この子から一言も「ありがとう」って言われてないからだ。これっぽっちも感謝されてないのかよ……あの子の中では邪魔されただけなのか? げんなりするぜ……
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