2407話 疑念
さてと……どうしよっかな。
「ひっ、ひいいぃ……!」
あー、このオヤジがいたか。さっきは好き勝手なことを言ってくれたよな。
「いいこと教えてやろうか。この子に何を飲ませたかって言うとな。高いお薬だよ。たった一口で、こんな銅貨ひと握りより何倍も高いんだぜ?」
「えっ、そ、それっていくらぐらい……」
「知るかよバカが! 約束だからこいつはくれてやるけどよ。」
ひと握りの銅貨。ざっと二、三十枚はあるかな。これを……
「えっ、ひひひ、くれくれくれ……えっ!?」
「とっとけよボケがぁ!」
イラつきに任せて、叩きつけてやるよ! こんな小銭でもこんだけ枚数があると! 痛いじゃ済まんだろぉオラぁ!
「へぶぉっ!」
ふん、これでもう子供とは似ても似つかない顔になったな。
後はこの子が目を覚ますのを待って……今後どうするか決めるとしよう。大丈夫かな? 呼吸はしてるしポーションだって飲んでくれた。このまま目を覚まさないってことはないと思うが……
「カース、素敵だったわ。いつも冷静沈着なカースも素敵だけど、さっきみたいに荒ぶるカースも本当に素敵だったわ。くらくら来そうだったわよ?」
素敵責め!?
「はは、そう? なぜかすごくイライラしちゃってさ。ここの村って信じられない奴らばっかりだよね。」
「本当にそうね。重さをごまかすためでしょうけど香辛料に水を混ぜるって……頭がどうにかしてるとしか思えないわね。それどころか刑罰を子供に身代わりさせるって……信じられないわ。」
「だよね。シュガーバによると、ここらの奴って家族をすごく大事にするって話だったけど。全然違うよね。」
どうなってんだかな……
「それが私も気になってたの。でね? それとは別にこの村を歩いてて気になったことがあるの。」
おっ、まさかアレクも気付いたのかな?
「たぶん同じことを考えてると思うよ。カラバでもそうだったからさ。」
「やはりそうなのね。この村に入ってから女性を一人しか見てないわ。外には何人もの男が歩いていたのに。荷物持ちをしているのも男の子だけ。明らかにおかしいわよね。」
やはりそれか。宿のババアしか見てないもんな。
カラバの街を歩いた時も少しだけおかしいと思ってたんだよね。露店はたくさんあるのに店番してるのはオッさんばかり。すれ違う人間も男しかいない。街道でもそう。一人も女を見ていない。
少し妙だなぁとは思っていたもののスルーしてたんだよね。確信を持ったのはついさっき。子供がこんな状態になってんのに母親が姿を見せないっておかし過ぎるだろ。どうなってんだよ……
「とりあえずこの子が起きてから話を聞いてみようか。」
この子には悪いが私が暴れたせいで居ずらくなると思うんだよな。ここの奴らの横暴ぶりからするとさ。どんな言いがかりをつけられるか分かったもんじゃない。こんな小さな子なのにさ。
「そうするしかなさそうね。さっき細い道ですれ違った子も気になるし。一体どんな村なのかしらね。」
「あとさ、さっき逃げた奴がそろそろ来る頃だと思うんだよね。さらに大勢引き連れてさ。」
「ああ、それもそうかしら。でもこんな村にそこまで兵力があるとも思えないわ。二十人もいれば充分じゃないかしら。」
あー、言われてみれば。兵士ってのは平時は穀潰しだもんな。これしきの村にそんなに大勢養える余裕があるようには見えないよね。
「それもそうだね。てことはもう十人ちょっとぐらい来るかな。あとさ、シュガーバみたいな奴もいると思うから一応アレクも周囲を警戒しておいてね。」
「ええ。分かったわ。」
あんな奴がそうそういるとも思えないが、警戒を怠るわけにはいかないよね。ムラサキメタリックのバリスタなんかあったら最悪だし。
来た。兵士は五人程度、あとは村人か? どいつもこいつも鍬や鎌を持ってやがる。ざっと二十人ぐらいか。この時間によく集まったな。やはり女は一人もいない。
「さっきはよくもやってくれたなあ! もう許さんからな! お前たち! 囲めえい!」
懲りない奴らだな。
「おい、いい加減にしておけよ。子供をこんな目に遭わせて心は痛まないのか?」
「ふざけるな! 罪は罪だ! よそ者が口出しすることではないわあ! やれえい!」
『氷散弾』
囲まれたから仕方ない。せっかく魔法なしで相手してやろうと思ってたのに。
「なっ……そんな……」
「ここまでにしとけ。お前は無傷で終わらせてやったんだからさ。村のメンツとかあるんだろうけどさ、あんなクズのために子供を犠牲にするなんてあんまりだろう。」
「くっ……おのれぇ……」
正論だと思うけどなぁ。こいつまだやる気なの?
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