2308話 中鷲フレスベルーガ

解放されたのはわずか五分後。群がるのも早かったが吸い終わるのも早いな。それにしても、どいつもこいつも当たり前のように魔力吸引が使えるんだな。かなり高等技術のはずだってのに……やっぱエリート魔法使いは違うもんだなぁ。


ちなみに船酔いはすっかりよくなった。身体強化は大正解だったようだ。


それにしても……どさくさに紛れて結界魔法陣を使ってない宮廷魔導士まで吸いに来やがって。別にいいけどさ。


「魔王殿は酒もお好きと聞いたがどうだ? 昼から海と空を眺めながら一献というのは。秘蔵の酒を出すぞ?」


「ピュイピュイ」


お約束のようにコーちゃんが返事をする。


「よぉし決まった! しばし待たれよ」


私は返事してないんだけど……

イケオジ宮廷魔導士はてきぱきとテーブルと椅子を魔力庫から出した。用意がいいな。


「さあさあ! 魔王殿もアレックス殿も席に着かれよ」


この野郎……アレックスだと? 気安く呼んでくれるじゃないかよ。


「ピュイピュイ」


「おお、コーネリアス殿。まずはこれからお試しくだされ」


ほう? いいグラス持ってんじゃん。高そうなロックグラスだな。


「ピュイピュイ」


「美味しいそうです。僕らもいただきますね。」


「おおう、気に入っていただけて嬉しいですぞ。ルケイン・スペチアーレの十二年です」


なんと! スペチアーレシリーズだったのか。ルケインってのは初耳だな。私も飲んでみよう。


「お、おお……これはいいですね……」


スペチアーレシリーズは色々あるけど、一番好きなディノ・スペチアーレにも匹敵しそうな味わいだ……これいいな。旨いわ。


「いかがですかな魔王殿? 珠玉のスペチアーレ、しかも当たり年で……ちっ、残念ながら魔王殿、仕事の時間ですな」


またかよ。昼間っから勘弁して欲しいぜ……


「どんな魔物ですか?」


「……ふむ、分かった。フレスベルーガ、体長は四メイル、体色は白銀か」


フレスベルーガ? って確か大鷲か? どんだけ大きいんだろう……四メイル?


「ふぅむ、また皆で結界魔法陣を張ってもいいが……魔王殿、フレスベルーガの魔石や素材などは入り用かな?」


別に欲しくはないが……獲物を譲ってくれようとしてるわけか。んー……魔石はあっても邪魔にならないし鷲系の魔物の羽根は高く売れる。あとは肉だけど「ガウガウ」食べたいの?

まったく、カムイは仕方ないなぁ。


「ええ、欲しくなりましたので行ってきます。前方ですか?」


「うむ。このままだと二分後にここまで到達といったところか」


「分かりました。じゃあちょっと行ってきます。アレク、乗って。」


「ええ。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


アレクだけのつもりだったのにコーちゃんとカムイまで乗り込んできちゃったよ。

まいっか。ではミスリルボードでゴー!


大鷲フレスベルーガっていうくせに四メイルだっけ? 小さくない? フルロックは百メイル超えだったよな。


「ガウガウ」


おお、見えたか。どれどれ『遠見』

……ん? 鷲じゃないのか? 言うならば鳥面人体? 両手にあたる部分は大きな羽根になってるな。ちょっとハーピーっぽくもある。ハーピーは女体だけどこいつは男体じゃん。もし胴体が羽根に覆われてなかったら超キモかったろうな……


『狙撃』


見えたなら当たる。直前で避けられなければ……


ほう、やっぱ弾きやがったか。陸地を遠く離れたこの海域を飛んでる魔物なんて強いに決まってるもんな。ならば手堅く……


『連弾』


羽根を狙ったが、さすがに避けるのか。ライフル弾を避けるってどんな目と身体能力をしてんだろうね。でも、残念。私の魔法はホーミングだからな。避けても後ろから襲ってくるんだよ。ほぉら、後ろから両羽根が撃ち抜かれた。が、落ちないのか。半分以上は魔力で飛んでるんだろうしな。高く売れる羽根を無駄に傷付けただけになってしまった……

仕方ないなぁ。もう少し接近するまで待つか。頭を一発でぶち抜けば傷も少ないってもんさ。


『キュイイイイイイ!』


魔声か、と思ったら風の魔法か。風斬系のやつだ。なるほど、宮廷魔導士が接近を嫌がるわけだわ。帆を攻撃されたらたまらんよな。

威力は大したことないけど数は多いし。風の刃を一回で百近くばら撒いてない? 標的は私らしかいないのに無駄遣いも甚だしいぞ。ホーミングでもないし。

さて、そろそろか。さすがに速いな。遠くに見えてたのがもう目の前だ。


『狙撃』


額に命中。貫通はしてないが衝撃はそれなりにあるだろ? バランスを崩して木の葉落とし状態だ。追うぜ。


『狙撃』


ひらひらと落ちるフレスベルーガの後頭部を撃つ。やはり貫通はしない。カムイの毛皮にも似た丈夫な羽根に覆われてるからだろうな。でも時間の問題だ。もう脳みそぐらぐらだろ?


『キュイイイイイイギギギ!』


おお、やるな。ひらひらの木の葉状態かと思ったらいきなり加速して急旋回、風の刃をばら撒きつつ背後をとりやがった。まあ戦闘機じゃないんだから後ろに回られても全然問題ないけどね。ボード上で振り返ればいいだけなんだから。当然いくら魔法を撃ってきても効かないぜ。


『狙撃』


終わりだ。彼我の距離はわずか五メイル。ライフル弾が額を貫通した。効かないとでも思ったか? 甘いぜ。


『風操』


引き寄せて……収納っと。

おっ、ちょうど真下に船がやってきた。いいタイミングじゃん。帰ろう帰ろう。

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