2304話 見張りと船酔い
気になること、それはアレクがなぜスク水を着ているのかということだ。
「ねえアレク、日光浴したいって言ってたけどなぜ水着はそっちなの?」
日光浴がしたいならビキニでいいのでは?
「だって……さすがに恥ずかしいわよ……ただでさえみんな見てるのに……」
あ、そりゃそうか。ビキニなんてローランド王国的にはほぼ下着だもんな。
そもそもスク水程度の露出度でさえ貴族的には有り得ないしね。ついでに言うと私の肝煎りで制定してもらった法律のせいで平民だって海で肌を晒せないもんなぁ。肌を露出できるのは貴族の特権、だけどあまり流行る気配がないんだよなぁ……別にいいけど。
「ふふ、それもそうだね。南の大陸に着いてからのお楽しみにしておくよ。」
あっちは暑そうだしね。きっとビキニの出番だってあるに違いない。アレクには赤が似合うとは思うがビキニは白で作ってもらったんだよね。白い肌に純白のビキニ。アレクほどの美人なら余計な飾りなんか必要ないんよな。シンプルな無地の白。それだけで最高の美しさが出来あがる。つくづくアレクは反則だね。世の中の女性たちの嫉妬が止まらないだろうよ。
「カースが望むなら……」
そういや
それから、二時間で三人の宮廷魔導士が飲みものなど差し入れを持ってやって来た。お目当てはアレクの肌を間近で見るため。三人とも隠そうとすらせずガン見だった。正直な奴らだわ……一人は明らかに五十過ぎって感じだったのに。やはりアレクは魔性の女だな。
なお、マストの上で見張りをしている船員も時々アレクを覗いていたらしい。遠見の魔道具を使って……覗くのは構わないが安全には気をつけてくれよな。
客室に戻り肌のケア。特にアレクにはポーションマッサージを施さないとね。遮るもののない海でたっぷり日差しを浴びたんだからさ。南の大陸では命綱ともなりそうなポーションを使っていいのか少し気になったが、アレクの美肌より優先するものはそう多くはない。だからいいのだ。
それからオイルマッサージを始める頃にはアレクったら眠ってしまったじゃないか。全裸でうつ伏せ、私を誘いつつ眠り込むなんて悪い子だぜ。でもマッサージは続行。万全のスキンケアを行ってやるぜ。
そしてまた、当直の夜が来る。
幸い今夜は何事もなく終了、ではない……
問題大ありだ……うえっ……ふぅー……
揺れる密室で海底の映像なんて見てたら……酔うに決まってる……最悪の気分だわ……あーくそ……確かに最も大変なポジションかもな……
酔い止めとかないのかよ……うぷっ……明日からどうしよ……
ラッキーなことに、客室に戻る前にすれ違った宮廷魔導士が回復魔法をかけてくれた。体力以外も回復できるもんだな。さすが宮廷魔導士だわ。はぁーすっきり。
こうして、怠惰かつハードな日々を送ること三日。どうも今日の昼ぐらいに変針するらしい。今までは南に向かっていたところが東へと。つまり、バルバロッサまで最短ルートではなく安全な航路をとってるってことだろうか。
ここからは海流に乗るため速度が上がり、また揺れも大きくなるそうだ。
もちろん魔物の危険度も増すだろう。やっぱ船旅って楽はさせてもらえないよなぁ……こりゃあ昼間の日光浴は控えめにしておくべきか。
そんな日の真夜中。船酔いと戦いながら遠隔視の魔道具を見つめている。昨日までと同じく底は見えないが、昨日までと違って映像の動きが速いからかめちゃくちゃ酔いそう。目視を減らして魔力探査のみにしたりして、多少は酔いを軽減しているが……
「魔王殿、調子はどうだ?」
「だめです。回復をお願いします。」
当直の間に一回、宮廷魔導士に来てくれるよう頼んである。これで残り二時間がんばれるってもんだ。彼らとしては一時間ごとに来てもいいと言ってはくれているが、そこまで手間をとらせるわけにはいかない。それに魔力を無駄遣いさせるのも申し訳ないしね。だから一回だけってわけだ。
まあ、宮廷魔導士にしてみれば多少の手間と魔力を使っても私が元気で魔物を発見、撃退してくれた方が割がいいんだろうけどさ。
むっ、反応あり。後ろからか。生意気に速いじゃないか。このままだと追いつかれるな。追いついても何もできないだろうから無視しておいてもいいが……
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