2303話 スティルネスエナジーワームのオイル
およそ三分でカムイが吠えた。触り方が気持ち悪いとか言ってさ。あれは優しいってより艶めかしい触り方に見えたしね。この子の将来が心配になってきたぜ……
「そこまでだって。じゃ、ご馳走様。おいしかったよ。」
「ああっ、そんなぁ……カムイさん……」
「ガウガウ」
「次はブラッシングを頼むってさ。じゃ、またね。」
正確にはブラッシングならさせてやるって言ってるけどね。まあ似たような意味だし。
「はい! ぜひやらせてください!」
食堂を後にする。変わった少年もいるもんだねぇ。
「ピュイピュイ」
あら、そうなのね。
「アレク、コーちゃんが外に出たいんだって。日光浴がしたいそうだよ。」
「それいいわね。警備をしてる皆には悪いけど、甲板で日差しを浴びながらのんびりするのも悪くないわ。」
「ガウガウ」
カムイはオイルマッサージをしてからブラッシングを所望か。お前どこでオイルマッサージなんて言葉を覚えやがった……
甲板に到着。比較的酔いにくいのは真ん中辺りだって聞いたな。船首や船尾は揺れが大きいとかってさ。そうなると、あの辺かな? 見た感じただの甲板だし誰もいない。邪魔だと言われたらどけはいいよね。
「ピュイピュイ」
コーちゃんは水風呂だね。『水壁』
銀湯船があるといいけど楽園に置いてきたしなぁ。
『水壁』
『換装』
アレクは自分で水ソファーを作り、水着に着替えた。バカンスモードだな。しかも本邦初公開、領都のベイツメントで作ってもらった新品スク水だ。色もデザインも何一つ変わってないが大きく成長したアレクの体を柔らかく包んでいる。やっぱスク水はいいなぁ。青春の香りがするよね。私も着替えよ。
『換装』
私のはただのトランクスタイプの水着、スク水などではない。
「日焼けしちゃうけどいいの?」
「ええ、今日は太陽の光を浴びたい気分なの。」
後でポーションマッサージすればいいよね。
「ところでカムイがオイルマッサージをしろって言ってくるんだけどさ、何かいいオイル持ってない?」
「そうね……これなんかどうかしら? スティルネスエナジーワームの分泌物から精製したマルチベネフィットオイルよ。私は肌や髪に塗ってるけど、マッサージに使用するのも悪くないと思うわ。」
「良さそうだね。使っていい? かなり高いんじゃないの?」
アレクが何を言ってるのかよく分からないが、要は魔物から抽出したオイルってことだよな。
「それなりに高いけど、カースが私のために使ってくれたお金に比べたらタダみたいなものよ。だから気にせず使って。カムイが喜んでくれたら嬉しいわ。」
「うん。ありがとね。」
よし、ではカムイ。やってやるぜ。こっちに来な。
「ガウガウ」
まずは手の平にたっぷりとオイルを落として……
「ガウガウ」
背中から? お前も注文が多いやつだな。
まずは毛並みに沿って撫でるように手を滑らせる。オイルを馴染ませるように。ちょっと足りないか。もっと追加しよう。
よし。極上の絹織物すら凌駕するカムイの毛皮がオイルでしっとりとしてきたな。ではマッサージに入るか。まずは背骨に沿って下からゆっくりと揉み上げていく。どうよカムイ? やっぱり私のマッサージが一番だろ?
「ガウガウ」
そのまま背中一面を終えると次は肩。凝って……ないな。柔らかな手触りだわ。そして前脚を揉みほぐしていく。
「ガウガウ」
そうだろ? 気持ちいいだろ? 私のマッサージは最高だろぉ? ふふふ。
腹をなぞりながら後ろ脚へ。それから最後に尻尾を。
「ガウガウ」
首のまわりがまだだって? この甘えん坊め。こうか、こうか? うりうり。気持ちいいだろ。
よし。では仕上げにブラッシングだな。
それにしても……風呂では手洗いして、温風の魔法で丁寧に乾かして、高そうなオイルでマッサージして、最後にブラッシングって……お前はどこの貴族なんだよ。野生の誇りはないのか。そりゃあノワールフォレストの森じゃあ王族みたいなもんだろうけどさ。
「ガウガウ」
気にするなって? お前が言うな……よし終わり。ツヤツヤのピカピカだぜ。オイルが乾く頃にはサラサラになるんだろうなぁ。毛並みがどこまでも美しくなってしまうぜ。あぁ疲れた。
「お疲れ様。カムイも喜んでるんじゃない?」
「いやぁ疲れたよ。いい汗かいちゃった。カムイったらどんどん贅沢になるね。それよりアレクもどう?」
「いいわね。でも今はいいわ。今はこうしてのんびり日光を浴びていたい気分なの。」
それはそれで贅沢なひと時なんだよね。世にも危険な大海原で国王の船に乗って、こうしてのんびりと日光浴。贅沢すぎるな。最高だね。揺れは少々大きくなってきたけど、水のソファーで横になってる間はそこまで気にならないな。部屋で寝る時もこれにしようかな。
それにしてもアレクの新しいスク水、たまらんね。だが一つ気になることがある。なぜアレクは……
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