2295話 海の魔物と宮廷魔導士トーク
アレクと宮廷魔導士さんはいくつか茶葉を交換していた。実りある会話だったね。
「魔王殿がここにおられる間は後方の警備など不要なのだがな。だがこれも任務ゆえ放棄するわけにもいかぬ。楽しいひと時を過ごさせてもらった」
「いやぁこちらこそ。明日の夜からは僕らも警備に加わると思いますので。ちなみに今まで遭遇した中で一番危なかった魔物って何ですか?」
実は気になってたんだよなぁ。
「そうさなぁ……やはりハフグーバだろうなぁ」
「ハフグーバ……ですか? かなり大きいとしか聞いたことがないのですが、どんな感じだったんですか?」
なんか鯨っぽいとか聞いたような気もする。
お、おお……そうなのか。宮廷魔導士さんが言うには……
基本は鯨を大きくしたような体型だがヒレの位置に短い前脚のようなものがあるらしい。斬れ味のほどは不明だがドラゴンの前脚を思わせる鉤爪もあったとか。尾は一本だが太く短い。ゆえに直接的な攻撃に使われることはなかったものの、一度動くだけで海の流れが変わるほどだったと。宮廷魔導士さんが最も恐怖を覚えたのはサイズ。口をいっぱいに開くと先王の船、バーニングファイヤーメガフレイムをも軽く一飲みにしそうなほどだったとか。でかすぎんだろ……
そんな魔物が下から襲ってきたって話だ。そりゃあ怖いわ。二十年前に一度遭遇したきりだとしても、いつまた現れるか分かったもんじゃない。むしろその時より大きくなってんじゃない?
「ちなみにその時はどうやって撃退したんですか?」
そもそも撃退できるのか? 絶対ヒュドラやクラーケンよりやばそうじゃん。遠隔攻撃ではヒュドラに劣りそうな気もするが。
「下方担当がいち早く気付いてな。全速力でその海域を逃れたのだ。もう十秒遅ければ丸飲みにされていただろうな。その後、大口を開けたまま追ってきたのだが、総員で『轟く雷鳴』を放ったのだ。鼻先に集約させてな。それでどうにか動きを止めることができた。その隙に周辺を海ごと凍らせて、どうにか振り切ることに成功したというわけだ」
「うへぇ……たぶん死んでないんでしょうね。大きい魔物ほどしぶといですもん。その時って先王様は乗っておられなかったんですか?」
「そうなのだ。先王様がいらっしゃればヘルムートにブレスでも放ってもらえたものを。だが今回は魔王殿がおられるからな。安心しておるとも」
「はは、何事もないといいですね。」
やっぱ海の魔物ってサイズが桁違いなんだよなぁ……先王の船だって百五十メイルはあるだろ。それを丸飲みって……あーやだやだ。海は怖いな大きいな。
「うむ、では私はそろそろ交代なのでこれで。よき時間を過ごさせてもらった。願わくばまた語り合いたいものよ」
「お疲れ様でした。ではまた。」
なるほど。日が沈んだら交代なのか。夕日が眩しかったぜ。いいよなぁ。海に沈む夕日って。王国内だとあんまり見れないもんなぁ。リアルタイムで太陽がゆっくりと水平線に消えていく様子なんてエモすぎない? だんだん西の空が青から藍色になってオレンジになって赤くなるんだぜ? あー最高。明日も見よう。朝日も見たいけど起きれないだろうなぁ……でも航海中に一回ぐらいは……
「もう少しここにいてもいいかな?」
「もちろんよ。カースと一緒ならずっといたっていいわ。」
「ありがと。」
潮の匂いにお茶の薫り、そしてアレクの香り。適度な揺れに柔らかな水ソファー。暮れゆく大海原とまだ青さを残した空。天国かな? 極上すぎるぜ……
同刻、食堂には十名足らずの宮廷魔導士が集まり食事を始めていた。
「……ってわけなんっすよー。いやー魔王にあやかりたいやら金借りたいやら。こんなことなら俺も女連れてくりゃあよかったっすわ」
「ははは、バルバロッサでいい女を見つけるんじゃなかったのか? アレクサンドリーネ嬢に手を出された魔王殿がどう出るのか見てみたくはあるがな。怖いもの見たさというやつか」
「そのつもりだったんすけどねー。あーんないい女見ちまったらやばいっすよ? あれ以上の女がバルバロッサなんかにいるわけないっすよねー」
「それは行ってみないと分からんだろう。あちらも広いからな。ローランド女に比べて色は黒いがそこが堪らんという男も多い。結局は個人の好みでしかないわけだ」
「そりゃあそうっすけどー。それより皆さん見たでしょお? なんすかあの子! 俺らの世代じゃ匹敵する女いませんよ? あ、いや、第一王女のヴァランティーナ様はもちろん別格ですけど!」
「ふむ、分からんでもない。私らの世代で言えば魔女イザベル殿の若い頃を思わせる鮮烈さがある。いずれ劣らぬ高嶺の花であるな」
「ガスパールはどう思うよ? お前はあの子とだいたい同じ世代じゃん? それこそ魔女さんの甥っ子だしな」
ガスパールの父はイザベルの兄である。ゆえにだろうか水が向けられた。
「どうと言われましてもね。アレックスちゃんはめちゃくちゃ綺麗だと思いますよ。うちの姉妹も王都じゃ上の方だと思ってましたけど、あれには勝てないんじゃないですか?」
「いやいや、そういやアンリエットちゃんがいたな! あの子めちゃくちゃモテてたろ? 親衛隊が百人ぐらいいたんじゃなかったっけ!? それが今やウリエンハーレムの一人とはなぁ……あいつめちゃくちゃだろ? どうやったら第二王女ティタニアーナ様を第二夫人なんかにできるってんだよ……」
「ウリエンさんは苦労人ですよ……」
こうして話題はころころと転がっていき、最終的に剣聖ヘイライトのサウザンドミヅチ退治にまで行き着いたところで時間切れとなった。どうやら宮廷魔導士は話し好きが多いらしい。
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