2293話 料理少年とナンパ魔導士
うまかった。酒は飲んでないから分からないがコーちゃんによると「そこそこ」だそうだ。あんまりいい酒積んでないのかな?
「ご馳走様。うまかったよ。」
「ご馳走様。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「おーう。ちなみにどれが美味かったんだい?」
「そうだな。二番目に出てきたやつ、ビーフシチューみたいなのが特に旨かったよ。」
「私も同じだわ。ブラックブラッドブルを使ってるわね。絶品だったわ。仕込みの段階から手間暇かけてることがよく分かる。それだけに……」
ん? 何だ?
「最初の一皿、子羊のミント煮だったかしら。一口サイズに切られていて食べやすいしワインの友としてもぴったり。でも、香辛料を何も使ってないせいかしら? 肉の臭みが残ってたわよ?」
「おーう、気付いたのかい。じゃあなぜ俺がそんなのを出したのか予想もついてるかい?」
なんだぁ? 私はさっぱり気付かなかったぞ。そりゃあ言われてみれば臭みがあった気もするが。ミントがいい感じに薫ってたし、いい摘みとしか思わなかったぞ……私も酒飲めばよかったかな?
「試したのかしら? 私達が賓客たる資格があるかどうか。」
「おーう。そんなところよ。なんせ陛下のご自室の使用を許されるほどのご一行だ。どんだけ高貴なお方か気になるじゃないの。それに長旅になることだし俺だってどうせなら味の分かるお方のために腕を振るいたいってもんさ。もっとも……」
「なにかしら?」
「子羊のミント煮を作ったのは俺じゃない。調理場の期待の新人さ。不思議に思わなかったか? 国王陛下の御座船にあんなガキが乗っるのをな。あいつはそれだけの腕を示して倍率百倍とも言われる難関を突破してこの調理場にいるのさ。」
へー。あの子ってそうなんだ。丁稚とかじゃないんだね。すごいな。
「そう。すごいわね。で、その子に責任をなすりつけるつもり?」
「いーや。あいつはその狼に気を遣ったみたいだぜ? 魔王の牙ことフェルリル狼のカムイは香辛料が苦手、なんてどこで知ったのやらな。ついでに言うと許可を出したのは俺だしな?」
「ガウガウ」
マジかよ。すごいぞ少年。でも、だったらカムイのだけ別にしろよと思わないでもないが……
「そう。ならカムイに免じて不問にしておくわ。美味しかったのは確かだもの。これからの料理に期待しておくわ。」
「おーう。任せておくんな。あの魔王と女神が相手だからな。腕が鳴るってもんさ。いい舌してるってことも分かったしな」
「期待してるよ。ご馳走様。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
あはは、コーちゃんたら正直なんだから。
「おっと、うちの蛇ちゃんが次はもっといい酒が飲みたいとさ。」
「そりゃあだめだ。ここで出せる酒は決まってるからよ。持ち込んだ酒でも飲んでてくれや」
「ピュイー」
あらら、残念だったねコーちゃん。では部屋に戻ろうか。一杯ぐらいなら何か出すよ。
「ピュイピュイ」
ふふ、ご機嫌になった。おっ、誰か来た。もう飯時か?
「ちょうどよかった。ミグランデさーん、何か食わしてくれよー」
「まだ晩飯には早えよ。出直してこい」
「えー! 魔王には食わせてんじゃーん! んん!? おほっ! 近くで見るとやっぱ超きれー! あなたのお名前なんてーの? てか知ってるし! 辺境に咲いた真紅の薔薇ことアレクサンドリーネちゃんだよな! やっぱ信じらんねーほどきれーな顔してんのな!」
何だこいつ。服装を見れば宮廷魔導士って分かるけどさ。チャラいなぁ。
「見るのと匂いをかぐのぐらいは許してやるけど、そこまでにしとけ。昔から、踊り子には手を触れるなって言うだろ?」
「まあっカースったら! 私は踊り子なの?」
「そうだよ。アレクの美しさはこの世を舞い踊るアプロディアの神子だよ。だから踊り子で間違いないんだよ。」
「もうっカースったら。嬉しいわ。」
「なんなのこいつら……付き合ってらんねーんだけど……」
ふふふ、ナンパにはのろけ返しが効くな。うかつに声をかけた己の不明を恥じるがいい。
「お前もいい女見つけろよ?」
「無茶言うなよー、こっちは任務中だってのによー……」
任務中にナンパするんじゃねぇよ。だいたいお前って王都に帰ったらモテモテだろうが。ウリエン兄上ほどじゃないけどそこそこイケメンだし。歳は二十代中盤ってところか。
「そもそもお前モテるだろ。しかも王都に女がいるだろ。浮気はよくないぜ?」
正論で追撃!
「魔王さんには分かんねーって。極上の女連れて陛下のお部屋に泊まってんだからさー。俺たちゃモテたくて宮廷魔導士やってんだぜー? いい女がいたら行くっかないっしょー?」
「そ、そうか、まあがんばれ。」
モテたくて宮廷魔導士をやる……すげぇなこいつ。しかもさらっと、俺達とか言いやがった。これは熱い風評被害ではないのか? リキームさんに聞いてみてやろ。
よし、今後こそ戻ろう。部屋に戻ってティータイムなんかいいな。
「ねえカース、戻る前に甲板に出てみない? 海が見たいわ。」
「それいいね。行こう行こう。」
アレクと眺める海。最高だな。
外に行けば今の時間帯も分かるだろうしね。
それにしても広いなここ……外に出るまでひと苦労だ。しかし通路は狭い。ぎりぎりアレクと腕を組んで歩ける程度しかない。やはり国王の御座船ではあっても客船ではないってことか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます