2292話 宮廷魔導士デウィンと料理長ミグランデ
それから寝室に更衣室、そして居間を発見した。何だかんだで贅沢な造りをしてんのね。やっぱ国王は違うぜ。
だからアレクと居間でのんびりティータイム。今のところ揺れもほとんどないので酔いそうな気配もない。むしろアレクの紅茶がおいしいもんで眠くなってきたよ。早起きだったもんなぁ。
「アレク、寝ない?」
「えっ、もっ、もちろん! あ、待って! 私お風呂に入ってくる!」
あ……違うんだよアレク……本当に眠くなっただけなんだよ……止める間もなく部屋を飛び出ちゃったよ……アレクったら、まったくもう。
期待させて悪いけど本当に眠いや……もう寝室まで行かなくてもいっか。ここで寝てしまおう……このソファーだってやたら座り心地がいいんだから……ぐぅ。
ん……知らない天井だ……木目が美しい。
ああ、寝室か。いつの間に……着衣に乱れなし、どころかパンツ一丁になってる。だが、致した形跡はないな。普通に脱がせてくれたのか。よく見るとウエストコートもシャツもハンガーにかかってるし。アレクのことだから眠ってる私を好き放題しててもおかしくないのに。隣ですやすやと眠ってるし。天使の寝顔だ。
「ピュイピュイ」
コーちゃんおはよ。お腹すいたの? じゃあ何か食べに行こうか。兄さんは呼びに来るって言ってたけど昼飯か夕飯かどっちのタイミングで来るんだろ。確かここって朝夕の二食だった気がするんだよな。
「ガウガウ」
お前もか。ならみんなで行こう。アレクを起こすからちょっと待ってな。
でもここって客船じゃあるまいし、時間外に飯なんて食わせてもらえるんだろうか? まあ私達は賓客って話だし、それぐらいは優遇してもらってもいいよな。
アレクを起こして部屋を出る。一応鍵はかけておこうか。貴重品なんて何も置いてないけど。
「さっきは残念だったわ。せっかくお風呂に入ったのにカースったら寝てるんだもの。仕方ないからベッドに運んで服を脱がせたの。なのにカースったら気持ち良さそうに眠ったままなのよ? 私まで眠くなっちゃったじゃない。今夜はその分……ね?」
「あはは、ごめんごめん。眠くなったから寝ようって言ったのにアレクったら早とちりしちゃってさ。すっごく可愛かったよ。」
「そのぐらい分かってるもん! ちょっと早とちりして見せただけなんだからね! そしたらカースに……もらえるかもと思って……」
おぅふっ……ズキュンと来た。可愛すぎる……天使だ。昨日空から落ちてきた天使だ。大丈夫か? どこか怪我なんかしてないだろうな? 頭なでなで。頬っぺたぷにぷに。首筋さすさす。
「んもぅ……何よ……」
「ふふっ、何でもないよ。アレクは美の神アプロディアの御使いみたいに、いやそれより可愛いなぁと思ってさ。」
「ありがと……」
ふふっ、赤面アレクもかわいいなぁ。いつまでも撫でていたくなる。
「ガウガウ」
さっさと行こうって? 今いいとこなのに。カムイったら待てないのかよ。そういや『待て』とか『お座り』『お手』とかやったことないな。カムイには簡単すぎるよな。
どれ、カムイお手。
「ガウガウ」
うーん、間違ってないのに何か違う。置くってよりボフンとはたかれた。ならばこれはどうだ? 手のひらを正面に向ける。
「ガウガウ」
うん。いい感じのハイタッチだ。やっぱカムイには楽勝だったか。
「おや、魔王殿。お揃いでどうなされた?」
見知らぬ宮廷魔導士さんが現れた。
「ちょっとお腹が空いたもので。食事はどこに行けばいいんでしょう?」
「むむ? ガスパールめ、説明をしておらなんだか。これは後で仕置きが必要だな。
「ありがとうございます。ちなみにガスパール兄さんは食事の時間になったら呼びに来てくれるはずだったんですよ。その前に僕らの腹がへってしまったもので。だからご勘弁を。」
「むっ、そうであったか。ならば不問といたそう。だが魔王殿よ。そなたならば
伝言か。それはありだな。だが、無理だ。戦えば勝てるだろうが、私から見れば宮廷魔導士は全員目上。とても気軽に伝言で『何か酒とつまみ持ってきてー』などと言う気にはならないな。いくら賓客だろうと私はこの船の主ではないのだから。
「ありがとうございます。宮廷魔導士の方々に伝言はちょっと気が引けるので食事場所に案内してもらえれば充分ですよ。時間外に食事をさせてもらえるだけでも過分ってもんですし。」
「魔王殿は人格者でおられるのだな。だがもう少し強者の振る舞いをしてもらわねば下の者が恐縮してしまいかねん。私のような一介の宮廷魔導士に敬語など使わずともよいものを」
そもそも宮廷魔導士は一介じゃねぇよ! 超エリートじゃないか。どこの貴族領でも魔法部隊はエリートだ。そんなエリート達の最高峰が宮廷魔導士だぞ? どう考えても一介じゃねぇよ!
「はは、その辺はおいおいと。それにしても揺れませんね。この辺はまだ穏やかなんですか?」
話題逸らし!
「それもあるが、この船はなるべく揺れないように作られているからな。嵐でも来なければ酔うこともないだろう」
マジか。すごいなそれ。おっ、着いたか?
「ここだ。料理長に紹介しよう。その後食べたいものを言うといい」
「ありがとうございます。」
いかにも食堂って感じの部屋。だがあまり広くはない。だいたい二十席ぐらいか?
「失礼する。ミグランデはいるか?」
「は、はいっ! 呼んできます!」
こんな少年まで働いているのか……
「おーう、デウィンさんかよ。どうした?」
「お前に紹介しておこうと思ってな。今回の最重要賓客、魔王ことカース・マーティン殿とそのご一行だ。陛下に準じた接遇をするよう頼むぞ」
「おーう。そんなこと分かってるさ。で、こんな時間に来たってことは腹でもへったか?」
「ああ。四人前お任せで頼む。酒は一人分あると嬉しいな。」
こんなフランクな態度だと私もフレンドリーに接することができるんだけどね。
「お任せだあ? おーう、えらく見込んでくれたもんだな。デウィンさんはいいのか?」
「私はよい。まだ仕事中なものでな。では魔王殿、ごゆるりと」
「うん。デウィンさんありがとう。」
少しフランクにしてみた。
「おーう。んじゃ作ってくるぜ。座って待ってておくんな」
仕事を増やしてしまった気もするが、まあいいだろ。さて、国王の御座船に勤務する料理人のレベルはどれほどのものかな?
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