2286話 ゼマティス家の団欒

第一城壁内の屋台で食べ歩き。たまにはジャンクなのも悪くないよな。


さて、腹も膨れたことだしゼマティス家に戻るとしよう。今日はデメテの日だしシャルロットお姉ちゃんはいるかな? いや、デートだろうな。




結局あちこち歩き回ったので二時間後、ようやくゼマティス家に着いた。今さらだけどアレクもよくこれだけ歩いて平気だよな。すっかり慣れてしまったんだろうけどさ。そこらの上級貴族令嬢だったら五分も歩かせたら文句言いまくりだろうに。


「おかえりなさいませ」


メイドさんが出迎えてくれた。珍しく正門が開いてたんだよな。


「ただいま。伯母様かお姉ちゃんはいるかな?」


「いえ、お二人とも外出されてます。お戻りは明日の夕方になるかと」


あらま。伯母さん最近よくお出かけするなぁ。伯父さんのところかな? お姉ちゃんはデートだろうけど。


「ところで王宮から連絡は来てないよね?」


「はい。ございません」


「分かった。ありがとね。」


だいたい十日ぐらいって言ってたからもう二、三日か。でもさっき見た感じだともうすぐ準備も終わりそうな気もするが。まいっか。もう用事もないことだし、ゼマティス家でだらだら過ごさせてもらおう。




翌日、パイロの日の夕方、王宮からの知らせが届いた。明後日アグニの日。日の出とともに出港するとのことだ。知らせを持って帰ってきたのはガスパール兄さん。任務で王都を離れるため明日が休みになったらしい。たった一日しかないのかよ……宮廷魔導士は超エリート部隊だけにブラックなのか?


週末の夜、前世で言うところの日曜日。すでに日が暮れている。明日が月曜日だろうがもう憂鬱になることはない。

ゼマティス家はほぼ全員集合している。

伯父さんに伯母さん。シャルロットお姉ちゃんにガスパール兄さん。いないのはギュスターヴ君だけだ。アンリエットお姉さんはカウントできないか……セグノもさっきまでいたが、今は姿が見えない。


「そうか。お前もついにバルバロッサに行くか。成長して帰ってこい。」


「うん。キツいってのは聞いてるよ。どうにか生きて帰ってくるよ。」


「南の大陸って魔力が回復しないんでしょ? 兄上大丈夫なの?」


「大丈夫よ。宮廷魔導士は特製の魔力ポーションをたくさん持ち込むから。それにガスパールにはゼマティス家秘蔵のポーションだって持たせるもの。」


今夜の主役はガスパール兄さんだな。私達は静かに食事してよう。あー美味い。


「うちのポーションはよく効くよね。超まずいけど。カース君も一本どうだい?」


「では、ありがたく貰おうかな。」


ゼマティス家のポーション。私は覚えてないが、寝込んでいた時に飲ませてもらったんだったな。おかげで命拾いした面があるよな。


「そもそも今回の出港ってカースのためなんでしょ? あんたどれだけ陛下に気に入られてるのよ!」


「たまたまじゃない? 何やら荷物だってたくさん積み込んでたし。僕のためってのはただの口実かもね。」


警備に使うって言ってたしね。


「シャルロット、あっちはあっちで厳しい状況だからな。物資の補給や戦力の補強が必要なんだ。カース君が乗船する以上転覆する可能性は限りなく低い。だから限界まで積み込んでいるわけだ。機を生かしているだけだがな。」


「へーえ。カースも高く評価されたものね。名だたる宮廷魔導士達も乗船するんでしょ?」


「当たり前じゃないか。だが彼らと比べてもカース君の魔力は絶大、きっと王国一だ。そこに疑いなどないさ。」


「あ、キアラの方が上だよ。最近確認したもんで。僕を一割ぐらい上回ってたよ。」


さすがに自分のことを王国一だなんて思ってないけど、事実でないことは訂正しておかないとな。シーンとしてしまったけど。


「……そうなのかい? カース君の魔力を……キアラちゃんは上回っていると……?」


「ええ、そうなんですよ伯父さん。参りましたよ。キアラはまだ十二歳なのに。ここからどれだけすごくなることか想像もつきませんよ。」


「……末恐ろしいな……イザベルに怯えながら過ごした日々を思い出したよ。カース君は怖くないのかい?」


そういえば伯父さんって母上にビビってるんだったな。ベタにコーヒーカップを落としたりしてさ。


「今のところは。確かに底知れないところはありますけど、無邪気でかわいい妹ですよ。」


「……そうか。それならばいいんだ。確かに魔力で上回るからと言って戦って勝てるとは限らないものな。私の場合は魔力でも魔法の運用でもイザベルに遠く及ばなかったからな。」


「あなたも今やゼマティス家の当主なのよ? 自信を持ちなさいよ。イザベルさんの知らない秘伝だって極めたじゃない。」


伯母さんいいフォローするなぁ。いい夫婦だね。


「まだ極めたとは言えないさ。魔法の沼はどこまでも深いからな。」


そりゃそうだ。私だって知らない禁術がいくらでもあるだろうしさ。目が合うだけで殺せるやつなんかも最悪だし。それにしても魔法の沼は深い、か。伯父さん深いこと言うねぇ。さすがは魔道貴族だな。


「それにしても、ここの料理はいつ食べても美味しいですね。お腹も膨れたことですし、お先に風呂に入らせていただきますね。行こ、アレク。」


「おおそうかい。それはよかった。ゆっくりするといいよ。」


「ご馳走様でした。それでは伯父様伯母様、ガスパールお兄様シャルロットお姉様。お先に失礼いたします。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


今夜のところは私達とのお喋りより家族の会話が大事だろう。久々に四人揃ったんだろうしね。私だってたまには気を遣うことだってあるんだぜ? さーて風呂でアレクとイチャイチャしよーっと。

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