2155話 黒幕か三下か

帰りはひとっ飛び。腹へったなぁ。


「魔王様お嬢様お帰りなさいませ!」


玄関前に着地すると担当メイドさんが待っていた。それともたまたまいたのだろうか?


「ただいま。」

「今帰ったわ。おじい様はどうされてる?」


「お館様はまだお帰りになられておりません。若旦那様ならいらっしゃるかと思います」


じいちゃんも働き者か。ジャンポールさんは屋敷で指示を出してる感じかな?


「案内なさい。叔父様でも構わないわ。」


「はい。こちらです」


情報と魔力鞄を渡さないとね。今のところ召喚獣サルーキ狼は消えてない。が、時間の問題だよなぁ。




「若旦那様、失礼いたします! アレクサンドリーネ様がお見えでございます!」


「叔父様、失礼します。追加のお土産がございますわ。」


アレクもメイドさんも返事を待たずに入るのね。まあドアは開けっぱなしだし。


「ああ、アレックスちゃんに魔王さん。この度は色々と動いてくれてありがとう。かなり助かってるよ。」


室内には大勢。慌ただしく動きまわっている。


「何者かの召喚獣サルーキ狼と小型の魔力鞄ですわ。魔力鞄は中身が取り出せない設定になっておりますので、どなたか詳しい方に見ていただくのがよいかと。」


「サルーキ狼だと? サルーキ狼を召喚獣にしている者と言えば確か……」

「領都アレクサンドリアのギルドにいたと記憶しております」

「組合長を含め数人はいたかと」


ほう。そこまで分かってるのね。


「でしたら叔父様、先ほど引き渡した者の身元は分かりましたか?」


「いや、それが存外しぶとくてね。今は薬が効くのを待っているところだよ。」


おお、やっぱえげつないね。いちいち拷問するより早そうだし。


「そうでしたか。アレクサンドリアのギルドに報復の依頼がございましたら受けることはやぶさかではありません。ご相談くださいね?」


私もアレクと同意見だ。まだ証拠としては弱いけど依頼されるなら受けてもいい。それにせっかくアレクサンドル領に来てるんだし領都にも行ってみたいしね。


「それは心強いね。じっくり検分してから相談するよ。今回の件もありがとう。もちろんお礼はするから楽しみにしておいてね。」


「ピュイピュイ」


コーちゃんたらお礼は酒樽でと言っている。すでに二つあるのに。でも、いくらあってもいいもんね。


「ありがたくいただきますわ。では私達はこれで。」


「うん。ありがとう。ゆっくりしてね。」


これで心置きなく夕食が食べられるな。調理場担当もてんてこ舞いだろうけど、そこは気にせず用意してもらうとしよう。なんせ私達はたくさん働いたんだから。




翌朝。私は目が覚めても客室のベッドから動かずアレクの寝顔を眺めている。昨夜の晩飯も美味しかったなぁ、アレクは無邪気な寝顔まで可愛いなぁ、などとぼんやり考えながら。


そこに、すっとドアが開きメイドさんが入ってきた。


「あ、おはようございます。もう起きておられたのですね」


『消音』


アレクの周囲にだけかけておく。


「おはよ。何かあった?」


起きるまで起こさないよう頼んでいたのに入ってくるんだからさ。


「あ、いえ、お館様から魔王様とお嬢様が起きてないか確認するよう言われたもので……」


ほう。何やら動きがあったのかな。いいだろう。私は目が覚めてることだし、話ぐらい聞いてみようかな。


「分かった。アレクはこのまま寝かせておくけど俺は行くよ。」


「ありがとうございます」




そして案内されたのは昨夜と同じくジャンポールさんの部屋。じいちゃんが呼んでるんじゃなかったのか? あぁ、そもそもここってジャンポールさんの部屋じゃなくて執務室だったっけ。


「おはようございます。何かありましたか?」


「おう! 寝てるところをすまんかったなあ! ようやくあの野郎が吐きやがってなあ! アレクサンドリアのギルドからの直接依頼だとよお! 舐めた真似してくれやがってよお! こいつはやるっかねえぞお!」


あーあ。ギルドがそんなことしちゃだめだろ。まあ依頼があったからなんだろうけどさ。しかもギルドを動かせるほどの依頼人と言えば……やっぱアレクサンドル家か?


「魔力鞄やサルーキ狼はどうでした?」


「狼はすぐ消えちまったからなあ。魔力鞄はお手上げだあ。下手に手え出すと中身が消えちまうみたいでよお」


「あらら、それは参りましたね。」


そんなの私にだって分からないぞ。やっぱモーガンとか魔力鞄の職人ぐらいでないと無理か?


「鞄についてはちいっと放っておくわあ。それよりはギルドだあ! ぶっ潰してくれるからよお! と言いたいところだがそうもいかねえんだあ……」


「あら、どうしたことですか?」


このイケイケじいちゃんにしては珍しいね。


「ギルドがぶっ潰れちまったら影響がでかすぎるんだあ。特に流通の面がなあ。参るぜえ?」


流通? ああ、冒険者ってよく警護の依頼を受けるもんな。商品を輸送するのに冒険者がいないと結構危ないんだよな。山間部は盗賊や魔物が出るだろうし。そもそも冒険者自身が運ぶ場合だってあるだろうし。

ワインの名産地セーラムともなると流通量も大量だろうしね。


「その辺の判断はお任せしますよ。ギルドを潰してこいって依頼なら受けることもできますので。」


「おめえも剛毅な野郎だぜなあ。いくら他領とはいえギルドを潰すざなんざよお言うなあ……」


これがクタナツギルドを潰してこいだったら断るけどね。


「ではお待ちしてますね。」


「お、おお……」


さて、客室に戻ろう。アレクの寝顔を見る作業を再開するんだ。

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