2154話 夕闇のチェイス

残念ながら何の成果もなく日没。ここで捜索は断念。そりゃあ私とコーちゃんなら暗闇でも捜索ぐらいできるけどさ。アレクとカムイもね。

だけどさすがにそこまでやる気はない。腹もへってきたし。一人捕まえただけで上出来すぎるよな。


コーちゃんの案内に従ってアレク達を迎えに行く。結構山奥まで行ってるのね。


おっ、いたいた。山の中って日没前からすぐ暗くなるんだよな。


「おーいアレク。どうだった?」


「あ、カース。さっきからカムイったら何か見つけたみたいでずっと走り続けてるの。」


おっ、さすがカムイ。やるじゃん。でもそろそろ真っ暗になるぞ? カムイやコーちゃんには関係ないんだろうけどさ。


どうなんだカムイ? 何か気になることがあるのか?


「ガウガウ」


それが分からないから追ってるんだと? そりゃそうだ。仕方ないなぁ。もう少しだけだぞ?


「もう少しだけ追いかけてみようか。アレク、お腹はすいてない?」


「ううん、大丈夫よ。カースは?」


「僕も大丈夫だよ。カムイに期待だね。じゃあ隠形おんぎょうを使うから来て。」


本当はへってるけど、アレクがそう言う以上我慢するのが男ってもんだろう。




カムイはどんどん山奥方向へと向かっている。一気に飛びたいところだが、そうすると匂いが追えなくなるかな。私も足元なんかをしっかり観察したいところだが、もう真っ暗で何も見えない。辛うじてカムイの白い毛並みが見える程度だ。暗視や光源を使うと気付かれてしまうからな。隠形ならばよほど鋭い相手でもない限り気取られることはないだろう。コーちゃんやカムイ並みにさ。


「あっ、」


「おっと、大丈夫?」


「ごめんなさい。足元がよく見えなくて……」


当たり前だよなぁ。私だって見えないよ。だから摺り足気味に走っている。しかしそうすると今度は木の根なんかにつまずいてしまうんだよな。こんな時フェルナンド先生だったら目をつぶってでも進めるんだろうなぁ。私はまだまだだ。


「アレク、手を貸して。」


「え、ええ。」


せめて手を引こうではないか。私だってあまり余裕はないけど。


「ガウガウ」


何!? そうなの!?


「アレク、急ぐよ! 暗視を使って!」


「分かったわ!」


『暗視』

『暗視』


カムイが何かを見つけたらしく、急にペースが上がった。夜の山を全力疾走だなんて無茶なことをさせやがって。


「ピュイピュイ」


あ、なるほど! さすがコーちゃん。


「アレク乗って! そして隠形をお願い!」


板ボードの出番だ。


「ええ!」


『浮身』

『風操』


『隠形』


飛んでしまったらカムイが追えなくなる上に気付かれやすくなる。だから走って追いかけていたのだが、コーちゃんがカムイの位置を教えてあげるから遠慮なく飛べと言ってくれた。このまま山頂方向だな。それにしても犯人も中々やるよな。こんな山奥をカムイに追いつかれないように逃げるだなんて。よほど身を隠す術に長けているんだろうか。隠形や消臭、それから消音なんかを微かに使ってる感じ?


「ピュイピュイ」


カムイが曲がった? 山頂ではなく尾根を下ってる? そっちに下るとどこに出るんだろう。薄暗くてよく見えないんだよな。でもコーちゃんとカムイの連携はバッチリだろう。よもや逃すことなどないはず。


『グオオオオオオオォォォーーーーーーン』


おお、カムイの魔声ませいだ! ついに犯人に追いついたってことか? しかも無傷で制圧するために使ったのか? いずれにしても、もう遠慮はいらないだろう。


『光源』


昼になれ! カムイは……あっちか!


いた! んん? カムイが足の下に踏み潰しているのは……サルーキ狼か? 細身で無駄のない肉体に長く力強い脚。確か地上を走らせたらかなり速いんだったか。しかもこいつの首に巻かれているのは……魔力鞄!? 没収だな。中身は取り出せるか……無理か。さては入れることはできても特定の人間しか取り出せないタイプか?

こういった収納系の魔道具から中身を取り出せそうな人間と言えば……モーガンだろうな。いつだったかダミアンの魔力庫から白金貨二百枚を抜き取ってなかったっけ? いや、あれは確かダミアンを操って取り出したんだったか……まあいいや。

こいつが本命と見なそう。まさかサルーキ狼まで使っておいて陽動ってこともあるまい。普通の人間だと追いつけるはずもないし。平地を走れば相当早かっただろうに、わざわざ山越えルートを選んだのは誰にも見つからないようにするためなんだろうな。当然こいつを使役している奴がいるはずだ。それとも……カムイ、どう思う?


「ガウガウ」


ちっ、そうだったのか。だったら捕まえても意味ないじゃん。


「カムイは何て言ったの?」


「このサルーキ狼は召喚獣だって。参ったね。」


「そう。それならどうしようもないわね。魔力鞄も持ち主を離れて数時間以上経ってるだろうし、これじゃ判別の魔法も効かないわね。」


判別の魔法は持ち主の手を離れてから十分が勝負だったよな。


仕方ない。これまでとしよう。一応こいつも連れて帰るとしよう。案外誰か召喚主を知ってるかも知れないしね。それにしても私達って働きすぎじゃない?

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