2153話 真面目なカース

こいつが飲んだのが神酒ソーマの欠片だとするなら、効き目は十分、十五分ぐらいか。長い時は一時間効く場合もあるそうだが……


『水球』

『水球』

『水球』


肉体は不死身でも三半規管は無敵じゃないだろ。特大水球で体ごとあちこちに吹っ飛ばしてやれば……ほーら、もうふらふらだ。


『氷球』


そうして無防備になった頭部にくらえデッドボール。怪我はなくとも気を失うことはあるだろ。後は……


『水壁』


閉じ込めて終わりだ。神酒の欠片が切れるまで待てばいい。もちろん頭は出してある。

ふと気になったけど、この状態で窒息させたらちゃんと死ぬのかな? 謎だなぁ。そうそう実験できることじゃないもんね。


「いやー参ったね。こいつらが犯人とは思うけど枝を持ってるのか怪しいね。」


「そうね。先に殺した二人は魔力庫を消滅する設定にしてたみたいだし。最後の一人が持ってなかった場合、すでに誰かに渡したとも考えられるわね。」


それはあり得るな。それに自分が死んだ時に魔力庫が消滅するよう設定してるのも気になった。冒険者らしくないんだよなぁ。実はどこかの間者か騎士だったりするんだろうか。

あ、しまった。いつもそうだけど、一人残ってればいいやって考えで二人殺してしまったけど、見せしめの拷問をするって手もあったんだよな。口を軽くするためにさ。ついつい契約魔法さえかければ終わりだって考えがあるもんで短絡的に行動しちゃうよね。間者なんかだったら少々の拷問だと吐きそうにないし。契約魔法だって『約束』に同意してもらう必要があるもんなぁ。うーん、少し反省。


「誰かに渡したとして、こっち側に逃げた理由が気になるね。単に山に紛れるだけだったのか、それとも陽動なのかさ。」


「そうね。本命はまだ領内にいて、警戒が緩んだ頃に悠々と脱出するってことも考えられるものね。いずれにせよ私達が打つ手はもうなさそうだわ。」


「だよね。こいつを吐かせてから考えようか。」


そもそもの目的が枝をゲットすることなのか聖木に危害を加えることかにもよるしね。危害が目的なら掘り返すなり切り倒すなりしてもよかったんだろうけどさ。いや、さすがに短時間では無理か。


『風斬』


耳を斬ってみる。うーん、まだ神酒の欠片が効いてるな。あっさり治ってるし。仕方ない、もう少し待つか。でも薬の効果が切れるのを待ってたら死んでしまいそうな気もするし。だんだん面倒になってきた。あ、そうだ。


「アレク、こいつを連れて帰ろうよ。尋問はおじい様達に任せて僕らは散歩の続きをしない?」


「それもそうね。尋問なんて別にカースでなくてもいいものね。もっともカースほど鮮やかにはできないでしょうけど。」


鮮やかな尋問って何だい……?




よし。屋敷に戻ってジャンポールさんに預けてきた。そこそこ手強かったこともきっちり伝えたし。もちろん他の二人の死体も渡した。存分に検分してね。

じいちゃんは陣頭指揮してるらしい。やっぱ現場派なのね。


では、散歩再開といこうか。たぶんもう見つからないと思うけどさ。やっぱ私って働きものなのか?


あ、そうだ。またもやグッドアイデアを思いついた。頼むだけ頼んでみよう。




「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


ふふふ。秘密兵器コーちゃんとカムイだ。さっきの男達から匂いを嗅いでもらった上で追跡してもらうのさ。この三人から他の匂いがするならそれすなわち第三者だが……あ、それはしないのね。まあいいさ。とりあえず先ほどの現場に戻ろう。


さあ、コーちゃんにカムイ。自由に追跡しておくれ。


「アレクはカムイと一緒に頼むよ。僕はコーちゃんの後ろを付いていくから。」


「ええ、分かったわ。やっぱりこんな時にも頼りになるわね。」


「ガウガウ」


まったくだよね。頼りになる子達だ。ちなみにカムイはアレクに遅れず付いてこいと言っている。他に犯人がいるなら手強そうだから少し心配だけど、カムイが一緒ならきっと大丈夫だよな。頼むぞカムイ。アレクの無事が最優先だからな。


じゃあコーちゃん。こっちも行こうか。


「ピュイピュイ」


鼻だけならカムイの方が上だろうけど、コーちゃんには不思議な力がありそうだもんね。何やら超常的な力で見つけてくれてもいいんだよ?


さて、今度は魔力探査ではなく隠形を使いながらコーちゃんの後ろをこっそり歩くとしよう。何か見つかればいいのだが……


あれ? 私ったら何を真面目に捜索してんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る