1972話 炎神輝王鳥

バカが!


『榴弾』


甘いんだよ。それで私の隙を作ったつもりか? ふふ、その隙を待ってたのは私も同じなんだよ。お前がアレクを離す瞬間をな!


「ギュイイイイイィィィィ……」


全身穴だらけ。終わりだ。


『浮身』

『風操』


残念だったな。これだけ高度があればアレクをぶん投げたって地面に落ちるまでに余裕で追いつける。

私が困るのはアレクを人質や盾に使われることだ。だからそこを想定して殺傷力の低い魔法でじわじわ攻めてたんだけどな。いくら王種でも所詮は魔物か。甘いねぇ。でも甘くてよかった。


アレクを横抱きにする。外傷はないが体温がだいぶ下がってるよな。ごめんね、寒かったよね。


『風壁』


暖房を効かせようね。ぬくぬく。




よし。落ちた炎神輝王鳥ガルーダ・ガルトマーンも回収したことだし、カムイを迎えに行かないとね。すっかり待たせてしまったな。


あれ? カムイの遠吠えが聴こえたのはどっちだっけ……?




「ガウガウ」


はは、待たせて悪かったって。こっちは大変だったんだぞ?


「ピュイピュイ」


コーちゃんはお腹が空いたのね。おっ、そっちに転がってるのが赤雷猪ルアジュレーキボアだね。へー、名前の通り真っ赤な毛並みしてんのね。


「ガウガウ」


早く解体して焼けって? 生でも食うくせに。ならアレクが起きるのを待つ間に解体ぐらいしておくかな。炎神輝王鳥ガルーダ・ガルトマーンは丸ごと村長への土産でいいだろう。


水鋸みずのこ


私は落穴の魔法が使えないからな。代わりににこれで穴を掘る。よし、一メイル四方の穴ができた。

その上に、足から浮かせて……腹を割いて……内臓を落として……食道あたりを切り離す。


「ピュイピュイ」


いつものようにコーちゃんが穴に飛び込み内臓を食べてる。心臓が美味しいとか言ってるね。


で、ここからなんだよな……私が苦手なのは……

普段は肉しか取らないもんだからさ。今回のように毛皮が必要な場合の剥ぎ方を知らないんだよな。ブラシにする程度だからそんなにたくさんは必要ないとは思うんだけどなぁ。でももし「どこどこの部位の毛が要る」なんて言われた時に傷付けてたらと思うとなぁ……


よし。外すのは脚だけにしよう……




「ガウガウ」


足りないって? 贅沢言うな。残りは帰ってからな。私の分まで食いやがってさ。あー腹へった。


「カース……?」


「おっ、起きたね。具合はどうだい?」


アレクは服を脱がせて水壁の湯船に寝かせておいた。これで芯までぽかぽかさ。


「すごい衝撃の後で……体を締め付けられて……そこからもう覚えてないわ……なんだかすごく寒かった気もする……」


「実は炎神輝王鳥ガルーダ・ガルトマーンが現れてさ。一瞬でアレクを拐っちゃったんだよね。めちゃくちゃ速かったよ。」


「が、炎神輝王鳥ガルーダ・ガルトマーンが……でもカースが助けてくれたのね。ありがとう……」


アレクはカスカジーニ山かムリーマ山脈でガルーダを仕留めたことがあるんだよね。今のアレクだと王種が相手でも正面から一対一なら勝てそうな気がするね。


「大した相手じゃなかったから大丈夫だよ。隙を突かれたのはお互い様だしね。」


確かに私はアレクから目を離していたが……そうでなくても反応できたとは思えないね。あんな狭い空間を新幹線以上の速度で通り抜けたんだから。むしろよくアレクの首や手足が折れなかったものだ。一瞬にして気を失ったのが良かったんだろうか?


「痛っ……」


あ……


「首かな? じゃあこうしよう。」


『水壁』


コルセットのように魔法を展開し、首をがっちり固定した。これなら大丈夫だろ。ちなみにほんのり暖かくしてあるぜ。


「あ、あいがお……」


か、かわいい……顎まで固定してるから口が開かないアレク!


「痛みが引くまでそのままだよ。食事の時はどうするか考えるから。」


「う、うん……」


「もちろん治るまで夜もお預けね。一緒に我慢しようね。」


激しい行為で首に負担がかかるといけないからな。アレクったら腰も首も激しいからさ。


「そ、そんあ……」


絶望的な表情を浮かべるアレク。かわいすぎる……


「だーめ。ガルーダなんかに捕まったお仕置きだよ。」


さっきはお互い様とか言ったけどさ。もし私だったら気付かなくても自動防御で防いでいたもんね。だから棚に上げるのだ。


「ふ、ふん……」


首を縦に振ることもできないアレク。かわいすぎてたまらんぞ。




もっとも、村に帰ったら村長が治してくれそうだけどね。


さあ、帰ろう。私もお腹すいてきたんだよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る