1971話 突風とともに

四メイル程度じゃあ巨人と言うには小さいよな。それにしてもキモい。よく見れば首もやたら長いし、口なんかめちゃくちゃ大きく開けてるし。


「カース!」『氷球』


アレクの魔法が奴の大口を塞いだ。開いた口だけで二メイルはあるな……どこまでキモいんだよ。


「ちょっとカース! ぼーっとしてたらダメじゃない! まだ終わってないわよ!」


「あはは、ごめんごめん。まさかとは思ったけど、こいつらって群体なんだね。」


一体の巨人かと思えば……数百体もの魔物の寄せ集め、集合体かよ。どこまでキモけりゃ気が済むんだよ……

群体って素材も魔石もろくに取れないんだよなぁ。手強いくせに割りに合わない。やれやれだぜ。


『火球』


全部燃えろ。群体ってことは一つ一つは小さいからな。とても燃えやすいんだよね。


おっと、散らばりやがった。でもだーめ。


『火散弾』


山の中で使う魔法じゃないけどさ。火のホーミング魔法だ。バラけたって無駄無駄ぁ。


で、改めて……『狙撃』


「ゴゴゴォォォオオオ……」


今度こそ終わりだ。残っていたのは子供ほどの大きさの魔物。こいつが本体だったのね。この手の魔物ってカムイだと苦労しそうだよな。小さくても数だけは多いんだからさ。


よし。本体だけは収納できたな。他は燃え尽きてしまってるもんなぁ。それにしても大物来ないなぁ……山岳地帯って普通のドラゴンはあまりいないって聞いてるけど、アースドラゴンとかヴェノムドラゴンとかのヤバめの変わったドラゴンはいるんだよな。

会いたいような会いたくないような……


ん!? 風が……


「カ……!」


「アレク!?」


バカな! 一瞬ガサッと音がしたと思ったら! 風が吹き抜けて……アレクの姿が消えた!?


『魔力探査』


あっちか!


『浮身』

『風操』


『風斬』


木の枝を斬り落とし山を飛び出す!

見えた! 何か鳥っぽい魔物に胴体を鷲掴みにされてる!? やばい……アレクがぐったりしてる……待てこの野郎!


空中戦で私から逃げ切れるなんて思ってんじゃないぞ? ほぉらもう追いついた……ガルーダかよ。いや!? フランティアでもたまに見かけるただの神光鳥ガルーダじゃない!


人型の胴体に鷲の頭。真っ赤な翼の表面を装飾のように走る金の模様。そして身の丈は五メイル超え……


こいつ、ガルーダの王種……炎神輝王鳥ガルーダ・ガルトマーンか!

これだけの体躯のくせに、一瞬にしてアレクを拐った手腕は褒めてやるよ。だが、もう逃がさないぜ?


『吹雪ける氷嵐』


並んで飛びつつ魔法を唱える。

もうすぐ春だけど、ここら一帯を北極並みのブリザードで覆う。この世界の北極がどんな感じかは知らないけどさ。


「キュキャアアアアァァァ!」


『氷壁』


やるな……まるでカムイのようだ。並走状態からトップスピードのまま直角に曲がり突っ込んできやがった……

しかも、私の氷壁をあっさり貫通かよ。生意気な嘴してやがる。だが、隙ありだぜ?


『風弾』


アレクを鷲掴みにしてる左脚、その付け根あたりに連射だ。


「キュキャッ!」


ちっ、離さないか。


『キュキャイヤアアアアアア!』


くっ、今度は魔声かよ。それなりに魔力が乗ってやがる……さすがにカムイ並みとはいかないようだが。


『キュイイイヤ!』


今度は翼を大きく動かして……強風かよ!

その程度で私を吹き飛ばす気……いや違う。低温の大気を吹っ飛ばしたのか。やはり鳥系の魔物は寒さに弱いようだな。


おまけに、羽矢か? 強風に乗せて打ち込んできやがった。もちろん私の自動防御を貫通するわけないけどさ。


『キュキャギャギャアアアァァァ!』


『吹雪ける氷嵐』


いつまでも好き勝手できるとも思うなよ? 寒さが苦手だってんならとことんやってやんぞ? ちっ、羽矢だけでなく風斬のような魔法まで飛んできやがる。お互い空中に留まっての撃ち合いするか!? とことんやってやんぞ?


『キュキャイイイャア!』


今度は落雷かよ。生意気に手数が多いでやんの。さらに生意気なことに、これだけの低温嵐の中で……木の葉のように揺れることなく位置をキープしてやがる。空の魔物の中でも上位に入るだけあるな。


「キュキャアアアアァァァ!」


また突進してきやがった。が……


「ギュイイイイイ!」


入手したての木刀で迎え討ってやった……痛ぇ……


嘴を避けながら上から打ちおろしたが……左脚を少し削られた。生意気に自動防御を貫きやがったか。だが……


「ギュイイイイイ!」


痛ぇだろ。頭がぶち割れたんじゃないか? エボニーエンツォ製『虎徹』だもんなぁ。カウンターで脳天直撃だぜ?


『吹雪ける氷嵐』


さあ、どんどん温度を下げるぜ? もう氷点下三十度とかじゃないか? 凍って落ちちまえよ。お前だけな。


『キュイイイヤ!』


しぶといな。まだ強風を起こせるのかよ。だが、これまでだな。翼を羽ばたかせる度に、どんどん凍りついていく。それに伴い氷嵐に抵抗できなくなっていくな。風に翻弄される木の葉のようにさ。ほら、くらえ。


『風弾』


さあ、いい加減アレクを離せ。いつまでも汚ねえ手で掴んでんじゃないぞ?


「ギュイイッ!」


なっ!? こいつ! アレクをぶん投げやがった!

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