1968話 新装備とカムイのブラシ

カムイを手洗いしてアレクとイチャイチャした翌日。

今日は特に用もないんだよな。よって何もしない。朝食後は村長宅の客室で朝からのんびりダラダラするのさ。なんせ私達は働き過ぎだからな。


「おお、ここにおったか。」


「おはようございます。ようやく姿を見せてくれましたか。」


村長が現れた。アレクに膝枕されたまま挨拶する私。


「来てもらおうか。大まかな形はできたからの。少々調整が必要じゃて。」


「おお、もうですか! 行きます行きます。」


すげぇなこの村長。さすがハイエルフ。仕事が早いわー。




村長について歩く。着いたのは地下室だった。


「まずはこれからだの。」


籠手だな。見た目は飾り気のない湾曲した木。それを前腕に当てて……


「やっぱ重いですね。」


鉄板を腕に巻くようなもんだからな。


「よし、では軽く魔力を流してみよ。」


「分かりました。」


どれどれ……


「うっわ! めちゃくちゃ軽いじゃないですか! イグドラシルとは思えないですね!」


「うむ。術式は正しく動いておるな。では次だの。」


そうやって全装備のチェックが終わった。どれも身につけていることが分からないほどの軽さだった。しかも消費した魔力は全然大したことない。これならアレクの分も頼んでおくべきだったか……


「ほれ、こいつはおまけだ。嬢ちゃん持ってみるがいい。」


「え? 私ですか?」


おっ、村長気が利くね。盾か、さすがハイエルフ。年の功だね。


「ここを握って魔力を流してみよ。」


「は、はい!」


おお、直径三十センチはある円形の盾が軽々と持ち上がった。これならアレクの防御も鉄壁だね。


「どうだ? 取り回しに不安はないか?」


「え、ええ、大丈夫みたいです。」


「うむ。そうやって魔力を流した後は左腕に固定することもできるでな。状況によって使い分けるがいい。」


「はい! ありがとうございます!」


おお、こりゃ便利でいいな。私が以前持ってたオリハルコンの盾を少しだけ薄くした感じか。普通に盾として使うこともできるし、握り込んでぶん殴ることもできるな。これの縁で殴られたら私の自動防御すら破れそうだ。やったねアレク。


「よし。ではこれより仕上げに入るでな。おおそうだ。はぐれ共の件、アーダルプレヒトより聞いておる。さすがはカース殿、よくやってくれた。」


「いえ、大したことでは。」


なんせ追跡も戦闘もほぼカムイだもんなぁ。頼りになる召喚獣だねぇ。まあ、今となっては召喚獣だなんて微塵も思ってないけどね。コーちゃんもカムイも大事な家族だよなぁ。うーんファミリー。


「あ、ついでのおねだりなんですけど。カムイにブラシを作ってやってもらえないですか?」


村長に頼んでやるって約束だったもんね。


「ふむ、それぐらい大したことではないが……」


「で、どうせなら最高品質のものが欲しいんですよね。こいつって贅沢なもんですから。ちょうどいい素材ってあります?」


「そうさなぁ。それならばやはり赤雷猪ルアジュレーキボアがよかろうな。探すのにやや難義するやも知れんがの。」


赤い……猪の魔物か。ヒイズルでもそうだったような。やっぱ猪の毛ってブラシに向いてるんだな。


「どこら辺にいるとか分かります?」


「所詮は猪の魔物だからの。そこら辺におるわい。てっとり早く見つけたいなら狼殿の鼻に期待してはどうかの?」


「ガウガウ」


なるほどね。


「そうなると匂いの元となるものってありますか?」


「これでどうかの?」


村長が魔力庫から取り出したのは楕円形のブラシだった。そういやエルフってみんな綺麗な髪してるもんなぁ。細くてさらさらのさ。カムイの毛並みとはタイプが違うが……まっ、それぐらい製作過程であれこれ調整してくれるよね。


「ガウガウ」


村長の匂いがするのね。当たり前か。私にはよく分からないけど。エルフって体臭もなければ加齢臭もないよなぁ。たぶん全員魔法でどうにでもできるからと見た。


「おお、ついでに柄の部分はエボニーエンツォで作ってやろうかの。繊細な作業ゆえ少々難義するが。なぁに、儂が作るわけではないしの。」


おお、それはかなりの贅沢だ。贅沢すぎる。そして村長も秘技丸投げの使い手なのね。村長には必須のスキルだよなぁ。


「ありがとうございます。じゃあ行ってきますね。」


「うむ。最初は北西に進んでみるがよかろう。大きめの谷を二つ越えた次の山がおすすめだからの。」


「分かりました。ありがとうございます。」


今日はのんびりするつもりだったんだけどなぁ……

まいっか。可愛いカムイのためだ。それに約束したもんな。

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