1967話 はぐれエルフと魔入呪墨
はぐれエルフ? 初めて聞く名称だな。
「で、はぐれエルフって何?」
「そのままだ。村から追放されたエルフのことだ。つまり、もはや同胞ではない。」
おっ、これは強烈だね。エルフもダークエルフも同胞って言われると喜ぶのにさ。では同胞じゃないと言われたら……絶望なのか?
「ふーん。それとこいつもね。僕らが
エルフは何て呼んでるだろうね。魔物の名前って私達と同じだったり違ったりするもんな。
「ああ、
呪法?
「ただの魔物じゃないってこと? まあこいつがアンデッドを操れるとも思えないしね。いずれにしても後は任せていいよね?」
「ああ。問題ない。よくやってくれた。」
おお、アーさんにしては珍しいな。
あ、一つ気になったことがある。
「そういえば、このエルフってこの村出身なの?」
一目見てはぐれエルフって断定するぐらいなんだしさ。
「いや、知らんな。だがうちの村でないことは分かる。」
「それはまたどうして?」
アーさんって詳しく聞かないと教えてくれないんだよなー。コミュニケーション能力低いよなー。
「顔に見覚えがないからだ。」
あー、二百歳超えのアーさんに覚えがないってんならそうなんだろうね。
あれ? それなら……
「じゃあなんではぐれって分かったの?」
「見ていろ。」
『呪印顕現』
お、アーさんが何やら魔法を使うと背中に魔法陣らしきものが浮かんできた。
「
ふーん、期間限定の追放って感じね。ヌルいのかキツいのかいまいち分からないな。ただ村を追放されただけなら他の村に行けばいいよな? でもここは山岳地帯だからな……村から村はかなり離れてる。おまけにヤバい魔物がウヨウヨしてるもんなぁ……
「それって重罪なの?」
ダークエルフだと独房に閉じ込めるような罰もあったと思うが。
「まあまあ重罪だが極刑というほどではない。魔力や記憶は封じられてないからな。もう百年もすれば魔入呪墨も消えるだろう。」
「へー……」
気の長い話だね。それでもしばらくなのか。そして恐ろしいことを聞いてしまったぞ……魔力や記憶を封じるだと? 例えば寝てる間なんかにそれをやられたら終わりじゃん。そりゃあ普段から寝る時にだって自動防御は欠かさないけどさ。
おお怖わ……魔力、二度とを失くしたくないもんだね。
「基本的に我らは同胞を殺すことはない。だから罪に対してこのような罰を下すことが一般的だ。」
「へー……」
それは別に聞いてないけどね。確かに言われてみれば村長だって王都で暴れたエルフの母親を処罰しようとはしなかったけど、結果的に私が始末するように仕向けたもんな。自ら手を下すのと殺させるよう誘導するのも結果は同じだと思うんだけどなぁ。つくづくエルフの考えは分からないね。
そしてアーさんは去っていった。はぐれエルフと
私達は村長宅に戻った。相変わらず村長の姿が見えない。困ったな……カムイの治療を頼みたかったんだけど。
ちなみに勝手知ったる村長宅ってことでアレクは料理を開始した。
「ガウガウ」
ブラシの件はどうしたって? まあ待てって。別に忘れちゃあいないさ。どうせ頼むなら村長がいいだろ? ハイエルフが作るブラシだぜ? きっとお前も気に入ると思うぞ。最高品質間違いなしだよな。
「ガウガウ」
今夜は手洗いしろって? それはいいけど、お前それどころじゃないだろ。足はもう治りつつあるけどさ。骨折はさすがにまだ治らんだろ。
『浮身』
カムイを浮かせて外に出る。コーちゃんはアレクのところに行ってて。夕食ができたら知らせに来てくれる?
「ピュイピュイ」
うんうん。コーちゃんは素直ないい子だね。
「ガウガウ」
自分だっていい子だろって? ま、まあそうだな。
夕暮れの村をただ歩く。思えばさっきアーさんに頼めば話が早かったのに。衝撃的な話だったもんだからつい言いそびれたんだよな。カムイも平気そうな態度だしさ。
おっ、第一村人発見。よく見ればマリーのママさんじゃん。名前は、えーっと……確か……マ、マ……マルレッティーナベルタだ!
「こんばんは。先日はどーも。今ってお忙しいですか?」
「ああ、あなたね。もう帰るだけだから特に忙しいってことはないけど?」
「よかった。こいつを診てもらえません? 骨が折れてるみたいで。」
「まあ狼殿が!? 分かったわ。任せて。」
そう言ってマリーママはカムイの額に手を当てて魔力を流し始めた。エルフってみんなこれやるよな。こうやって診断してるんだろうなぁ。
「分かったわ。確かに肋骨が三本ほど折れてたわ。じゃ、治すわね。」
さすがマリーのママだけあるな。部屋が散らかってたから掃除しておいたわ。ってぐらいの物言いでたちまち骨折を治してしまった。
「ありがとうございました。これ、ほんの気持ちです。」
魔力庫から魔物をいくつかプレゼント。キノコもあるよ。
「ガウガウ」
「こいつもありがとうと言ってます。」
「どういたしまして。これぐらい大したことないわ。それよりもう夕方だし、うちに食べに来ない?」
「あー、ごめんなさい。今もうアレクが村長宅で料理してる最中なんです。だから明日の夕方お邪魔していいですか?」
「ええ、もちろんよ。待ってるわね。」
それにしても……マリーそっくりだよなぁ。親子ってより姉妹だよなぁ。
おっ、コーちゃんが迎えに来てくれた。いいタイミングだね。これでカムイも安心して食べられるだろ。よかったよかった。
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