1964話 極炎邪亀と白狼

炎にまみれた亀の背中をカムイは縦横無尽に駆け回っている。顔を斜めに傾けて、魔力刃を甲羅に突き立てながら。むしろ姿が見えない時間の方が長いんだけどさ……どんだけ走り回ってんだよ。

カムイらしくないな。もっと一ヶ所に攻撃を集中させればいいのに。何やってんだ?


「ゴロァバオオオオ!」


うっわ。カムイは無視かよ。首があるはずの穴からこっちに炎を噴射してきやがった。もちろん効かないけどね。いくら高温でもドラゴンブレスほどの勢いも圧力もない。周囲の様子からすると、せいぜい岩を溶かす程度の温度だな。無駄無駄。


それにしてもカムイのやつ。そろそろ熱いんじゃないのかな? 無敵の毛皮があるから胴体は平気だろうけど、足がさ。焼けた鉄板の上を素足で走り回っているようなもんだろ? 無理すんなってんだ。


「ゴオオゥッ」


おっと。反対側から炎を噴射してこっちに突っ込んできやがった。ロケットかよ。結構いい勢いじゃん。


『氷壁』


「ゴボォッ!?」


だめだめ。その程度の突進で私の氷壁は破れないぜ? 最初はドラゴン並みのヤバい魔物だと思ったが、どうやら買いかぶりだったかな。


「ゴロァバアアアア!」


おっと、今度は首っぽい穴から炎を噴射しやがった。さすがに溶かされてしまうな。でも自動防御まで貫くのは無理だね。


『グオオオオオォォォォオオオオオ!』


おっとカムイの魔声だ。自分を無視するなって言いたいみたいだね。


『ゴロァバオオオオオオオオオオオ!』


極炎サラマンドル邪亀サラタニアも対抗したのか魔声を使いやがった。実はカムイのことも意識してるのか?


んおっ!? こいつ!? 回転した!?

おおっ!? 手足の穴から細い炎が……へぇ、鋭いな。周囲の木がスパスパ切れてる。カムイの魔力刃の炎バージョンってとこか。


「ガウガウッウゥーー……」


あらら、カムイったら吹っ飛ばされてるじゃん。なら……さすがに手出しするぞ?


『徹甲弾』


回転している極炎サラマンドル邪亀サラタニアの側面にぶち込んでみた。しかし回転は止まらない。だから結果が見えないな。手応えはあったんだけどなぁ。まあいいさ。


『徹甲連弾』


側面全てをぶち壊してやるよ。


『グオオオオオォォォォオオオオオ!』


うおっとぉ! カムイのやつ……私に魔声をぶち当てやがった……

分かったってもー。もう手を出さないって。カムイはわがままだなぁ。


「ガウガウアアアァァァ!」


雄叫びをあげ、口から魔力刃を前に伸ばして突進。いや、突進なんて生やさしいものじゃない。一瞬にして口の先が奴の側面に突き刺さってる。


『グオオオオオォォォォオオオオオ!』


三度みたびカムイの魔声が炸裂した。しかも今度はあいつの内部にダイレクトアタック。その結果、極炎サラマンドル邪亀サラタニアは動きを止めた。


「ガウッ」


側面を駆け上がり、まだ炎で覆われている甲羅に乗り……立ち止まることなく奥へと走っていった。もう見えない……


「カムイ……大丈夫かしらね?」


「ちょっと心配だよね。ほら、見てあそこ。」


「え? あ、あれって……」


カムイが走ったルート。赤黒い跡が付いている。そう、血だ。


「足の裏を火傷してるみたいだね。いや、もう火傷どころか傷だらけなんだろうね。」


「無理もないわ……」


灼熱の甲羅の上を走り回ったんだもんなぁ。ほんとカムイは……無茶しやがって。


『ゴロァバァガガガガガオオオオオオオオオオオ!』


極炎サラマンドル邪亀サラタニアが荒れ狂っている。その場を動くことこそないものの、全身からこれでもかと炎を放出している。山よりも高く燃え上がり、離れて様子を見ていた私達のところにまで届くほどに。


「これ……危険なんじゃ……ここら一帯全てが燃え尽きてしまうわね……」


「だよね。かなり広範囲が燃えてるよね。」


山を二つ三つ燃やすレベルの山火事だな。まあ知ったことではない。後で消火すればいいさ。少し範囲が広いから大変だけどさ。

でも、たぶんこういった山火事ってこの山岳地帯では日常茶飯事だと思うんだよなぁ。

極炎サラマンドル邪亀サラタニアでなくとも火を使う魔物って多いもんなぁ。


カムイ……大丈夫なのか? 猛火の真っ只中で何やってんだよ……

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