1963話 ムキになるカムイ

追跡すること一時間。薮を切り開いて歩いたり、そこそこ険しい山道を登ったり下ったり。たどり着いたのは山の中腹にある小さな洞窟だった。直径五十センチもないな。洞窟ってより狸穴まみあなか?


「ガウガウ」


ふむふむ。途中いくつか枝分かれしてたけど、ここが一番匂いが強いのね。


「ピュイピュイ」


コーちゃんが中を探ってくる? いや、行かなくていいよ。丸焼きにするから。


『火球』


カムイですら入れそうにない洞窟なんだからさ。わざわざ入ることなんかないさ。アンデッドなんて全部燃やせば一緒さ。さて、おまけだ。


『風操』


内部に空気を送り込みながら……


点火つけび


超強力火炎放射だ。洞窟内をこんがりと焼いてやるぜ。もっとも大抵のアンデッドなら最初の火球で灰も残ってないだろうけどね。洞窟がどれぐらい広いか読めないから念のために追加をしておいただけさ。


「さすがカースだわ。全く容赦ないのね。これで元凶も燃え尽きたかしら?」


「どうだろうね? 少し待ってみようか。それで動きがなければ帰ろうよ。いや、散歩の続きかな。この山の上の方とかさ。」


「それもそうね。でも少し離れましょ。ここら一帯が熱くなっちゃってるもの。」


内部を加熱したら予熱が山にまで回ってしまったか。少しやりすぎたかな? まあ冬だしちょうどいいよね。ぽかぽかしてあったかい。


「カース、何か飲む?」


「じゃあ何か冷たいものがいいな。」


「分かったわ。少し待っ」うおっ!? アレクの言葉を遮るように山が爆発した。噴火とは違うようだが……


『水壁』


大量の土砂や岩石が降ってくるじゃないか。危ないなぁもう。うわっ、地面も崩れてきた。


『浮身』


「ギャワワッギャワワッ」


おっ、久々にコーちゃんの警告だ。粉塵が落ち着いてきた……徐々に魔力を感じてきたぞ。

こいつが岩山の内部に潜んでたってことか……まさか……極炎サラマンドル邪亀サラタニアとは……


「カース……あれって……」


「うん……やっちゃった……大失敗。」


まさか中にサラマンドル・サラタニアがいるなんて分かるわけないだろ! そりゃあせっかくコーちゃんが確認しに行ってくれるって言ってくれたのを無視したのは私だけど!


『ゴロァバオオオオオオオオオオオ!』


あーあーもう! 元気いっぱいじゃん! ちっ、やっちまったな。

元の岩山よりやや小さなドス黒い亀。つまり山とほぼ大きさが変わらない。つくづくやらかしてしまった……きっと元の体長は数メイルぐらいしかなかったんだろうに。私が火の魔法を使ったばかりに急成長させてしまったようだ……魔力、特に火の魔力を吸収して成長する珍しい魔物なんだよなぁ。


『グオオオオオォォォォオオオオオ!』


奴の魔声をかき消すようにカムイも魔声を浴びせた。そして駆け出した。でもどうするんだ? あいつって手足はおろか頭や尻尾すら出ていない。マジで巨大な亀だ。しかも本来なら手足や頭が出ているはずの穴からは真っ赤な炎が瓏々と漏れ出してやがる。手足も頭もなく、こいつはどこから魔声を発しやがった?


「ガウアァ」


カムイはこいつの甲羅に魔力刃を叩き込むが……今のところ効いた気配はない。

自分で言うのも何だが、山一つを熱くするほどの私の魔力を吸収した極炎サラマンドル邪亀サラタニアだもんな。ドラゴン並みにヤバい魔物だと考えるべきだろう。


なぜこいつがアンデッドの元締めだったのか、どうやってアンデッドを動かしてたのかは分からないが……とりあえずぶち殺す。

マッチポンプみたいだけど今のこいつはドラゴン並みの大物だ。きっと上質の魔石が取れるに違いない。せっかくここまで成長したところを悪いけど、狩らせてもらうぜ?


「ガウガウ」


はぁ? 手を出すなって?

カムイさぁ、そんなムキになるなって……


「ガウガウ」


こんなデカいだけの魔物なんてカカザンに比べれば楽勝だって? そりゃそうかも知れないけどさぁ。無理すんなって……


『ガウガウアァーー』


あーあー、やっぱムキになってるじゃん……

極炎邪亀の甲羅を縦横無尽に走り回ってるし……甲羅に魔力刃を突き立てながら。


「グオオオゥ」


おっ、危なっ。


『水球』


こいつ手足の穴どころか全身から炎が吹き出しやがった。そりゃカムイなら少々の炎なんか平気だろうけどさ。一応鎮火しておいたぞ。


「ガウガウ」


余計な手出しするなって? おお、悪い悪い。仕方ないから見守っててやるよ。体格差だと百倍どころじゃないんだけどなぁ……

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