1961話 霊廟の秘密

がさがさと茂みから現れたのは確かにアンデッドだった。犬系に狸系、それから狐系と色々いるな。辛うじて原型が残っているからその程度の判別はつくが……


「魔物じゃなかったんだね。」


「そうみたいね。どうも普通の野生動物が何らかの理由でアンデッド化してしまった感じかしら?」


「グルルルゥゥゥ……」

「グギギィィ……」

「ココココォォォ……」


「少し様子を見てみようか。」


「そうね。私達を襲ってくる気配がないものね。」


そうなんだよね。なぜかこいつら霊廟の外壁なんかに身を擦りつけたり爪でガリガリやったりしてる。あ、こっちにも来た。


先ほどまで私達が座っていた階段。アンデッド犬はそこをのそのそを登ると閉ざされた扉に頭をゴツゴツとぶつけている。何がしたいんだ?


こいつらはエルフがここにいたら来ないって話だったよな。私達とエルフの違い……

分からん……


そりゃあDNAとか違うんだろうし魔力の質だって違うだろう。見た目的には美男美女揃いってことを除けば耳しか違わないけどさ。

こんな質問ってアーさんや村長にしても答えなんか返ってこないんだよなぁ。人間のことなど分かるはずがなかろう、とか言ってさ。

もしかしてエルフって探究心とかないのか? 適当にのんびり生きていければそれでいい的な? そういやマリーが言ってたもんな。エルフは不変、普遍を好むってさ。


いやいや、今はそんなこと関係ないよな。


「やっぱり臭いね。」


「しかもうるさいわ。」


ハエなどの虫まで一緒に引き連れてきちゃってさ。夏なら三日もすれば骨だけになりそうなもんだけど今は冬だもんなぁ。それでも一週間もすれば骨になる気がする。でもよく見れば個体差があるよなぁ。まだ肉がたっぷり付いてる奴と骨が近い奴。てことは次々に生まれてるってことか? アンデッドなのに生まれてるって言い方は変な気分だな。


それより気になったことがある。


『狙撃』


「カース? どうしたの?」


「ちょっと気になってさ。見てよあれ。結構強めに撃ったのに傷すら付いてない。たぶんだけどこの建物ってイグドラシルで出来てるんじゃないかな?」


私の狙撃が効かない木材と言えばエビルヒュージトレントやエルダーエボニーエンツォの可能性もあるが、場所的にイグドラシルだろうな。


「じゃ、じゃあ私も……」


『氷塊弾』


うっわ、アレクったらえげつない。正面の扉に氷塊をぶち込んじゃったよ。アンデッド犬が全部潰れてしまった。

でも扉は無傷なのね。これで扉が壊れたら壊れたで大問題だけどさ。


「やっぱりイグドラシルなのかしら? びくともしなかったわね。」


「そんな気がするね。見た目だと全然分からないし。」


そこら辺にある飾り気のない木材にしか見えないもんなぁ。木材の目利きなんかできるわけないし。エルダーエボニーエンツォは表面だけは真っ黒で分かりやすいんだけどさ。


あ、もしかして? ここにこんなにもたくさんイグドラシル材を使ってるもんだから村を囲う柵はしょぼいのか? それって本末転倒な気もするよな。村より霊廟のガードを固くしてどうするんだ? エルフの考えることは分からんなぁ。


「グルルゥゥ……」

「グギィ……」

「ココォォ……」


あら? 帰っていくじゃないか。諦めたのか?


あ、なるほどね。アンデッドのくせにえらく敏感だね。


「来たか?」


「たくさん来たよ。今ちょうど全部逃げたとこ。アーさんが来たからだと思うよ?」


様子でも見に来たのかな?


「そうか。何か気づいたことはあるか?」


「うーん、霊廟の中にでも入りたいんじゃない? やたら外壁をがりがりしてたし。」


「ふむ、なるほどな。」


「中って何かお宝でもあるの?」


「ある。我々エルフ族の至宝とでも言うべき存在がな。」


ただの霊廟じゃないんかい! さっき言いかけたのはそれかい! どうせ誰も入れないんだから言う必要がないってか!?


「で、お宝って何? あ、言えないなら言えないでいいけど。」


「始祖エルフの即神体だ。」


そくしんたい? 即身仏みたいな?


「何それ?」


「始祖エルフはこの村のみならず全てのエルフ族の祖にあたるエルフだ。」


そっちじゃねーよ!


「そくしんたいが気になるんだけど。」


「一説によると、死期を悟った始祖エルフはイグドラシルに還ることを良しとせずこの地から村を見守る道を選んだらしい。よって自らを即神体と成したのだ。」


だーかーらー!


「そくしんたいって何?」


「生きながらにして神の領域へと立ち入るためには既存の肉体を捨てねばならないそうだ。よって何らかの禁術を使い即神体へと至ったらしい。今でも全てのエルフの守護神と言える存在だ。」


ふーん。


「具体的にはどうやってエルフを守ってるの?」


「何十年かに一度だけお言葉を伝えてくれる。太古の叡智だったり古代の呪法だったりもする。」


マジで!?


「それはすごいね。意識が戻るって感じなの?」


「知らん。この扉は年に一度だけ開くことが許されているが、その時に運がよければお言葉が我らの心に伝わってくるのだ。」


何だそれ? エルフの文化は分からないことが多すぎる……


「で、次にここが開くのはいつなの?」


「おそらくそう遠くはない。冬が終わり、南から暖かい風が吹いた翌日の正午に開けることになっている。」


あ、確かに近いかも。もう二、三週間ぐらいじゃないのか? うーん気になるなぁ……


あ、それでアンデッドはどうしよう?

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