1960話 村長代理のお仕事

「にん……カース、いるか?」


「あら、アーさんどうしたの? こんな夜更けに。」


また人間って呼びかけたな?

今から風呂に入ろうと思ってたんだけどなぁ……


「出番だ。来い。」


「あー、そうなの? 分かった。行くよ。じゃあアレクは先に寝てて。」


「アーダルプレヒトシリルールさん、それ私も行ってはだめなんですか?」


「別に構わん。」


夜のお仕事だからアレクには休んでて欲しかったんだけどなぁ……


「じゃあ私も行くわ。いいわよねカース?」


「仕方ないなぁ。いいよ。」


「カースばかりに働かせられないわよ。」


アーさんの後ろを歩く私達。コーちゃんはまだ酒を飲んでいるしカムイはもう寝ると言っていた。夜の山岳地帯、アレクと二人きりになれそうだな。ふふ。




「ここから南に霊廟があることは話したな? そこに最近アンデッドが現れるようでな。放置していても構わんのだが目障りだ。始末してきてくれ。」


「全然構わないけど、何でまた僕に頼むの? エルフのみんななら楽勝だろうに。」


「それがどういうわけか、我らの仲間が行くと姿を現さないようでな。人間であるお前なら遭遇する可能性もあると思ってな。」


姿を現さない? それまた妙だな。


「姿を現さないのになぜアンデッドだと分かったの? 誰も見てないってことだよね?」


「匂いだ。朝になっても強烈な腐臭が漂っている。霊廟の周囲には腐液や腐肉が散乱しているしな。ついでに掃除しておいてくれ。」


「うえぇ……嫌だけど分かった。で、原因に何か心当たりないの?」


「あるわけなかろう。我らの仲間は死して神木に還る。あそこには生前の思い出を懐かしむために訪れるのみだからな。もっとも、内部は別だが……」


何だそりゃ……それを言えってんだよ。

でもだいたい想像通り。基本的にエルフは死体を残さないからアンデッドになりようがない。じゃあアンデッドがなぜ集まるのって話に戻ってしまうよな。


「分かった。とりあえず行ってみるよ。」


夜の墓場でアレクとイチャイチャ……墓場とは違うけどさ。ホラー映画でよくある場面な気がするね。それでアンデッドが現れてくれたら楽でいいんだけどな。


夜の山岳地帯。村を離れるとマジで真っ暗。村と違って樹木が茂ってるもんだから星明かりすら届かないもんな。こっち方面に畑はないのかな? 道はいい感じの石畳が敷いてある。これをアンデッドに汚されたら怒ってもおかしくないよな。


「アレク、暗視の具合はどうかな? 今だと朝まで使えそう?」


「さすがに無理ね。せいぜい夜明けの数時間前までってとこかしら。」


『暗視』とか『水中視』って意外に魔力を食うんだよなぁ。あと『水中気』とかさ。ずっと使い続けないといけないもんなぁ。




着いた。一キロルちょいか。

へー。霊廟ってより屋敷って感じ? 村長宅の造りと似てるね。寝殿造的なさ。違うのは大きさぐらいだろうか。結構小さいな。左右にあんまり広がってないし。あと屋根は瓦ではなく木材なんだね。


「うえぇ……臭いね。」


『浄化』


とりあえず見える範囲はきれいにした。石畳や建物は汚れてなかったけど、その周辺の地面がやたら汚かったんだよな。


きっと石畳にまで『防汚』を付けてるんだろうな。さすがにそこらの地面にまでわざわざ付けたりはしなさそうだけど。


「で、どうするの? 周囲を探索してみる?」


「いや、ここで待ってようよ。外は寒いから中に入ってさ。」


「そうね。エルフの霊廟って興味深いものね。」


アレクにしては珍しく私の真意に気づいてない。私は霊廟なんぞよりイチャイチャしたい気分なんだよ。


と思ったら開いてないじゃん。サービス悪いな。だからアーさんもわざわざ説明しなかったのか? まあいい、入口の階段に腰かけて休憩といこう。


「鍵でもかかってるみたいだね。解呪しちゃってもいいけど、まあやめておくよ。」


「それがいいわね。また昼にでも来てみればいいわ。それより……ね?」


ふふふ、私の膝に上に座ったアレク。なーんだ、やっぱり同じ気持ちだったんじゃないか。




たっぷりと口付けを堪能し、そろそろアレクの服を脱がそうかと思っていたら……物音がした。まさかエルフが覗きに来たわけでもあるまい。


「続きは後でね。」


「ええ、さっさと片付けてしまうわよ。」


これからって時に出てくるんじゃないよ。まったく……どうせなら終わってから来いってんだ。これだから空気の読めないアンデッドは……

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