1959話 エボニーエンツォの木刀
瞬く間に過ぎた三日間。私達はせっせと大物の魔石を狙ってあちこち散歩した。その結果……
「うむ。これだけあればカース殿が望む装備を作れようて。ちなみに木刀だけはもう出来ておるぞ。」
一番後に注文したのが最初に出来ているとは……
「ありがとうございます! さっそく振ってみますね!」
イグドラシルの木刀『修羅』はあんまり使わないまま失ってしまったよなぁ……最大の見せ場は罠に落ちたカムイを助ける時だったか。
愛用していたエビルヒュージトレントの木刀『虎徹』は偽勇者に斬られてしまったし。
今度はエボニーエンツォの木刀か。おお……やっぱり軽いな。虎徹を思い出す振り心地だ。
フェルナンド先生をイメージして……切りかかる!
突き、素早く引いて、足払い、からの横薙ぎ。うほぉ……これはすごいな。すいすい動けてブンブン振れる。聴いてくれよこの風を切る音。空間ごと斬り裂くフェルナンド先生のようではないか? いや、さすがに違うか……
でも満足だ。やっぱこの村長すげぇな……
エルダーエボニーエンツォの加工って誰もできなかったから、フェルナンド先生はわざわざ王都まで行って魔法工学博士のベクトリーキナー卿に頼んだって言ってたもんな。
それをいとも容易くやってのけるとは。いや、本当に容易いのか? イグドラシルを加工することに比べたら簡単とは言っていたが……
「ありがとうございます。とても手に馴染みます。」
「カース殿もなかなか隅に置けぬ剣士ぶりだの。やるではないか。」
腐っても無尽流の剣士だからね。
「いやぁ、昔振った
魔法使いはいくつかの杖を用意して使い回すのが普通だ。しかし魔法を覚えたての頃に愛用していた初心者の杖を久しぶりに振ったとしても変わらず使える……的な意味だ。
どうしても昔とった杵柄って言いたくなるよね。あぁ、餅が食べたくなってきた。
「それはそうと、装備一式ができるまでは儂の分まで働いてもらうぞ?」
「よくないけどいいですよ。村長の代わりをやれと言われても無理ですからね?」
できる限りでいいならやってやるよ。村長ほどのハイエルフをただでこき使えるなんて思っちゃいないさ。宴会芸の優勝賞品ってことは差し引いても。
「四六時中村の周囲を警戒せよなどとは言わぬわえ。そのあたりはアーダルプレヒトが指示を出すゆえな。カース殿はその通りにしてくれればよい。」
「分かりました。無茶なこと以外はやりましょう。」
「くくく、儂には無茶なことをさせておるくせにの。人が悪いぞ?」
「そうですか? 何なら帰る前にイグドラシルに魔力を注いでおきますね。」
「無理のない程度で構わぬぞ。本来なら百年後に結ぶはずの実なのだがの。存外遠くない未来に実りそうだわえ。げに恐ろしき魔力よの。」
いやぁ照れるなぁ。化け物ハイエルフにそう言われるなんてね。私って褒め言葉は素直に受けとるタイプなんだよね。
それはそうと……新しい木刀に名前を付けないとな。本当は虎徹って名前にして、時々『今宵の虎徹は血に飢えてるぜ』って言いたいんだけどなぁ。
うーん何にしようかなぁ……
村正……なんか呪われそう。
政宗……ストレートにかっこいいな。
菊一文字……やはりかっこいい。でも長いなぁ。
九鬼……字面はかっこいいんだけど発音がなぁ。一本でも九鬼……
五虎……やはり字面はかっこいいよな。でも発音が五個だし。一振りでも五虎……
愛染……悪くないけど何だかラスボスっぽいよなぁ。気のせいだろうか……
岩砕……おっ、いいかも。確かにこの木刀なら岩だって簡単に砕けるし。やりすぎると私の手首も砕けそうだけど……
鬼斬……字面はかっこいいけど発音がなぁ……おにぎり。
うぅーん……よし決めた!
やっぱ呼びたいように呼ぼう! だからお前は虎徹だ! 決して籠手ツーではない。ふふっ。
あ、そうなると新しく生まれるイグドラシルの棍棒は何て名前にしようかな。おいおい考えておくとしよう。不動よりかっこいい名前を付けてやりたいな。
「カース? ぼーっとしてどうしたの?」
「あはは。いや、何でもないよ。今夜もアレクはかわいいなぁーって考えてただけだよ。」
「もうっ、カースったら。さあ、出来たわよ。食べましょ。」
「うん。ありがとね。おおー! 美味しそうだね! いただきます!」
今夜は村長宅の居間で普通に夕食。村長はどこかへ引っ込んでしまった。もう作り始めるんだろうか。別に急かしたりはしないのに。
それとも創作意欲が燃えてたりするんだろうか。イグドラシル製の防具を着けてるエルフなんていないもんなぁ。あ、そうか。誰も接近戦なんてしないもんな。遠距離から魔法を撃つのが常套手段だよな。
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