1956話 魔樹木
なんだこいつ? 私すら無視するのか? どこに向かってるってんだ?
『徹甲弾』
まずは挨拶代わり。一瞬だけ動きを止めることには成功したが、またすぐに歩き始めた。無傷かよ……
「アレク、また落穴を使ってみてくれる?」
「分かったわ……」
『落穴』
やはり同じように歩こうとするトレント。だが……今だ!
『徹甲弾』
一瞬ではあるが片足を上げた瞬間に撃ち込んでやったら……なるほどね。こいつが倒れないタネが見えた。トレントらしいぜ。
こいつ、足裏から根を生やしてやがる。足を上げる時には根を引っ込め、着地したらすぐに生やす。効率がいいのかどうかは怪しいが、とにかく倒れないことを重視してるってことか? 倒れたら何かまずいことでもあるのか、それともただの意地か……
片足状態で私の徹甲弾をくらったトレントは上半身を仰け反らせたものの、倒れるまでには至らなかった。つまり、それ以上の力でぶっ飛ばせばいいってことだ。だが、そこにこだわっても意味はないな。こちらとしては、こいつの魔石さえゲットできればいいんだからさ。あと素材も。これだけ頑丈なんだからさぞかしいい装備が作れそうだもんな。
ん? 装備……
もしかして……
『徹甲十六連弾』
敢えて両足を着いている時に撃ってみた……が、これでも無傷か。胴体の一点だけを狙ったのに無傷ってことは……こいつ、もしかしてエルダーエボニーエントなんじゃないか?
「ピュイピュイ」
たぶんそうだって? 私の昔の籠手と似た魔力を感じるの?
「アレク! こいつエルダーエボニーエントだ! 気をつけて!」
「えっ!? これがあの!?」
「たぶんね……」
大きく分けると木の魔物のうち歩かないのをトレント、歩くのをエントと呼ぶそうだが……
さて困ったぞ……
こいつが本当にエルダーエボニーエントだとすると、攻撃はまず通らない。ムラサキメタリックの斬撃から散々身を守った私が誰よりもよく知ってるさ。
ならばこいつを倒す方法は?
フェルナンド先生が言ってたな。攻撃が全然通らないから魔石を突いたって。一点を狙って三百回も……
じゃあその魔石はどこにあるって話だよ……コーちゃん分かる?
「ピュイー」
分からないのね……全体から均一に魔力を感じる? 偏りがない? 難しいことは分からないけど、分からないってことが分かった。
ノワールフォレストの森で最強クラスのこいつが何故この山岳地帯にいるかも分からない。だが、逃す気も逃げる気もない。いつかは対戦してみたかった相手だもんな。本当は逃げたいけど、それは今じゃない。まだ逃げてなどやるものかよ。
太陽はすっかり山際に顔を隠してしまったが、今しばらく明るさはある。
のそのそと歩き続けるエルダーエボニーエント。ついに私の目の前二メイルにまで近寄ってきた。
『徹甲五十連弾』
以前はこれだけも連射すると頭が痛くなったものだが……今では平気だ。やはり私も成長しているな。
そして、ぶっ飛べや!
『風斬』
地面ごと根を斬ってや……なっ!? 切れてないだと!? そうかよ。根に至るまでとことんエルダーエボニーエントってわけだな。だが、むしろその方が都合がいい。お前が動かないならひたすら撃ち続ければいいだけだもんな。吹っ飛ばないなら衝撃だって逃げないだろうしさ。
では……我慢比べといこうか。
『徹甲五十連弾』
フェルナンド先生の突きと私の徹甲弾。鋭さでは先生の勝ちだろう。だが内包する運動エネルギーでは私の勝ちのはずだ。
確か先生は『硬化』と『身体強化』を使って突いたって話だったな。ならば私は……
『徹甲五十連弾』
エリザベス姉上直伝の衝撃貫通をたっぷり乗せてやるぜ。そもそも私の
徹甲弾が運良く魔石の上に当たっているなら最高なんだけどな。
『徹甲五十連弾』
くそ……余裕な顔しやがって。
いや、そもそもあれを顔と呼べるのかどうか分からないけどさ。目と口っぽい位置に円があるだけ。ただの節かも知れないのにさ。
『徹甲五十連弾』
よっしゃあ! やったぜオラぁ! 胴体のど真ん中ぶち抜いてやったぞコラぁ! 人間様を舐めんじゃねぇぞ!
「カース!」
「うおっ!?」
危ねぇ……油断してたつもりはなかったけど、いきなり枝が伸びてきやがった……
私が空けた穴から。アレクの声がなかったら顔を貫かれてたかも知れない。なんせ自動防御も張らずに全力で徹甲弾を撃ちまくってたからな……少し頬が切れたか。
くそが……枝はもう引っ込んだが……
空けたばかりの穴まで塞がりやがった!
何なんだこいつ……
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