1955話 カムイの危機
おお、やっとワイバーンが来た。全長四メイルぐらいか? やっぱりあまり大きくないなぁ。ワイバーンらしくもない。深緑で森林に紛れたら見えにくい色してんのね。一匹でここに住んでるのか。ますます珍しい。
「ゴオオッオッオォォーーー!」
なんだ? ここから出ていけとでも言ってるのか? 大口を開けて突っ込んできやがったけど。
『風斬』
突進を上に避けつつ風斬で首を狙ったが……少しズレたか。私らしくもない。翼が切れたのみだ。
「ゴゴオオッ!」
ほう? 片翼が切れたぐらいでは落ちないか。切り返して再び襲ってくる。
『ゴオオオゥッ!』
おお、これは珍しい。風の魔法だ。まるでさっき私が使った風斬じゃないか。鋭さは全然似てないが、数だけは多い。当たるわけないけどさ。
『氷弾』
試しに額を狙ってみたが……やはりズレるな。頭を掠めたのみだ。私は魔法に自動追尾、ホーミングを使っている。だから普通ならば狙った箇所を外すことはない。外れるとするならば……
『ギィオオオオ!』
ほう? 今度は氷の魔法だと? それも無数の氷の弾丸……いや違う。ただの小さな氷の塊、さながら散弾か。だが、さっきからこいつ私の真似をしているのか? ワイバーンのくせに生意気な。魔力の扱いにそこまで自信があるってのか? だから片翼が損傷しても落ちないってわけね。
「ゴゴオオッ!」
そうかと思えば大口を開けて突っ込んでくるし。
『氷球』
口の中に押し込んでやった。
ご自慢の牙と顎で私の氷球を砕けるか?
「ゴ……ゴガ……」
ほぅら隙ありだ。上からワイバーンの首に降り立ち、頭部に手を当てて……
『乾燥』
「ギッ……ガァ…………」
そのまま収納。やっぱオディ兄直伝の乾燥魔法は効くよなぁ。問題があるとすれば、今回のワイバーンのように魔力抵抗が高い相手には直接触れないといけないってところだな。触れただけなのに手の平がざっくり切れてるし。まったく、嫌な鱗を纏ってやがる。
いつかのドラゴンもそうだったけど、魔力抵抗の高い魔物って魔法が効きにくかったり着弾点がズレたりするんだよなぁ。その先にあるのがヒュドラみたいな魔力無効なんだろうなぁ。そんな相手にはゼロ距離で無理矢理魔法を叩き込むのが有効だね。要は相手の魔力抵抗を上回ればいいんだからさ。一般的な戦法じゃないけど。
でも、やっぱ魔法ばっかに頼るのってよくないよなぁ……きちんと武器を発注する私は正しいようだな。
それからも魔物は断続的に現れた。魔法を使い続けてるんだから当然と言えば当然だけど。
もっと大きいワイバーンも現れたが、先ほどの深緑のワイバーンより手強いなんてこともなかった。
太陽がちょうど山の陰に隠れた頃、魔物も落ち着いたのでそろそろ帰ろうかと考えていると……
『カース! 来てぇーー!』
アレクが拡声を使ってまで私を呼ぶだと!? いったい何事だ!?
「どうしたの!?」
全速力でアレクの隣に降り立った。
「あ、あれ!」
アレクが指差す先にいるのは……黒い人型の……トレント?
『ガウガアアアアアーーーー!』
カムイが渾身の魔声をぶち当てた。が、トレントは何事もなかったように腕をカムイに振り下ろす。もちろんカムイに当たるはずもないのだが……
「私の魔法が全然通用しなくて……カムイが助けてくれようとしてるんだけど……カムイの攻撃も全然効かないの……そしてついに牙が折れちゃって……」
「えぇ!? カムイの牙が!?」
嘘だろ……ドラゴンの皮すら突き通すカムイの牙が!?
「
さすがに山岳地帯は甘くないな……たかだか二メイルぐらいしかない木の魔物、トレントがここまで手強いとはな……
カムイ、交代だ。退け。
「ガウガウガウ」
嫌だって? お前に勝ち目はあるのか? そりゃあ相手の攻撃もお前には当たらないんだろうけどさ。人型の割に動きは鈍いし。頭の上には数本の枝が伸びてるし数枚の葉っぱがひらひらと揺れている。まさかそれが弱点ってわけでもあるまい。
「ガウガウァァーー!」
うおっ!? 今度は全速力からの頭突き……なのに!?
「ガ……ガウ……」
びくともしてないだと!? 無傷なのは仕方ないとしても、わずかも後退しないなんて……
それどころかカムイを気にも留めずこちらに歩いてくる……だと!?
『
アレクの得意な魔法、あいつの目の前に穴が広がる。そこに足を一歩、踏み入れる。バカが! 落ちやがれ! そしたら上から上級魔法でも撃ちまくって……何ぃ!?
一瞬にして地面が元通りになっただと!? あいつの足の動きに合わせるかのように大地が復元した……
『風球』
数トンの岩を吹っ飛ばすつもりで撃ったんだがな……小揺るぎもしてない。まあいいさ。今のはお前を狙ったんじゃない。カムイを狙ったのさ。頭から血を流してふらふらなカムイではもう相手になるまい。悪いが安全な場所で見物しててもらうに限るさ。
トレントか……歩き回るタイプは初めてだな……
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