1922話 楽園へ行く女達
「とまあ、そんなことがあったわけよ。せいぜい気をつけとけよ。」
自宅に帰ってみればダミアンもラグナもまだ居るではないか。だから先程のことを話しておいた。
「へっ、おおかたピエレマイソン商会って触れ込みで潜り込ませるつもりだったんだろうぜ。まあよぉ、本当にあそこの職人だったら喜んで使いたいからよ。当然誘いはかけてあんだがよ? あっちはあっちで手一杯だってんで誰も来ちゃあくれねぇわけよ。」
「あそこの職人どもはどいつもこいつも頑固だからねぇ。それにしてもダミアンの兄貴どもにしちゃあ随分とお粗末な策じゃないかい?」
私もそう思う。契約魔法すらかけてないんだからさ。単にこれからの予定だったのかも知れないがね。あ、もしかして弟が来たのって案外そのタイミングだったのかもね。
「そこら辺は俺にも分からねぇなぁ。だが、このまま大人しく跡目ぇ諦めるわけねぇからよぉ。まったく、厄介な兄貴だぜ。」
まあ、そりゃそうだろうな。長男であり、本来ならスムーズに跡目をとれるはずだったものがダミアンのせいでぐらぐらに揺れてるんだもんな。二男はさっさと冒険者になってしまったし。もしかしてずっと敵なし安泰だったもんだから権謀術数が苦手だったりしてね。
「とりあえず負けんなよ? よし、飲もうぜ。」
私ったらまだセブンティーンなのに。まだ日も暮れてないのに。でも楽しい酒ならいくら飲んでもいいよね。
「カース様! お待たせしました!
びっくりしたなぁもう。リゼットったらいきなり現れるんだから。
「もう? えらく早いな。」
「それはもう! 前々から準備しておりましたから! 今回は女が十三、男が三です!」
うわぁ……完全に商品扱いしてやがる。
「分かった。それなら明日にでも早速運ぶとしよう。」
「はい! 毎度ありがとうございます!」
あー……リゼットも儲かってるのね。逃げたくても行き場のない女達に最適な場所を提供してるわけだもんな。
「ねぇボスぅ? アタシもエデンとやらに連れてってくれないかいぃ?」
おや? ラグナどうした? 思えば元々はラグナが楽園を取り仕切るはずだったんだもんなぁ。
「構わんぞ。本来ならお前の職場となるはずだったもんな。」
「あぁ。それでこの際だから見てみたくなってさぁ。後輩のリリスがどんだけやってんのか気になってさぁ?」
「リリスはよくやってるぞ。ラグナもリリスの怒りに触れないように気をつけろよ? 寝てる間に殺される場合があるからな。」
先輩風吹かせに行くだけならいいんだけど。
「来るなら来いさぁ! ニコニコ商会の四つ斬りラグナぁ健在ってとこを見せてやんよぉ?」
もう酔ってんのか? まだ飲んでないくせに。
まあ、何にしてもいいタイミングだよな。どうせ近いうちにエルフの村に行く予定だったんだからさ。
「さあさカース様! 乾杯しましょ! 私たちの再会に!」
それは昨日したと思うが。
「乾杯。カールスの成長を祈って。」
「おうよ! カールスは元気だぜ! 乾杯!」
ダミアンが辺境伯になったら……カールスが次期辺境伯ってことになるのか。いや、これからまだ弟が生まれたりもするだろう。そうすると、また争いが起こるのかなぁ……
ふう。昨夜もよく飲んだなぁ。リゼットが美味しい酒をたくさん持ってきたもんだからさ。どうにも止まらなかったよ。
はぁ。朝風呂もいいねぇ。昨夜は寝室に引っ込んだ瞬間アレクに襲われたもんな。で、相当激しかったせいでそのまま寝てしまったんだよな。ふぅーいい夜だったなぁ。そしていい湯だなぁ。やっぱマギトレントの湯船は最高だよなぁ。ふぅ……
ん? 誰か来た。粗暴な足音、ダミアンか?
「あれぇ? ボスにしちゃあ早起きだねぇ?」
ラグナか。
「お前こそ早起きじゃないか。ダミアンはまだ寝てんのか?」
「ダミアンは今から寝るところさ。アタシがちっとばかり激しく責めちまったもんでねぇ?」
あーそうかい。
「それよりボスさぁ。ずいぶんといい体になったじゃないかぁい? 物見遊山って言ってた割にはえらく鍛錬したみたいだねぇ。」
お? そう?
背中なんか自分じゃ分からないもんな。
「色々あったからな。それより楽園なんかに行って何する気だ?」
「大したことは考えてないさぁ。ちっと気になる程度だねぇ。冒険者どもの間でもそれなりに話題になってるんだよぉ? ヘルデザ砂漠を越えたら天国があるってねぇ?」
ふーん。ラグナは私に嘘はつけないことだし、本当なんだろうな。そうか、冒険者の間で話題にね。分からんでもないね。過酷なヘルデザ砂漠を越えて、さらにハードなノワールフォレストの森に挑む前。そんな場所で魔物の心配をせずに体を休められるんだからな。風呂トイレ女付きで。おまけに小屋を建てるのも自由だしね。
「確かに天国だろうな。ラグナがあそこを仕切ってたら賭場だってあったかもな。おまけに金貸しまでやって冒険者から搾り取ってたりしてな。」
「はっ、そりゃあいいねぇ。でもそれボスが常駐しててくんなきゃ無理だねぇ。屈強な冒険者どもを相手にするんだからさぁ。アタシの細腕にゃあ手に余るさねぇ。」
「それもそうだな。あそこまで自力で行ける冒険者はそれなりに腕利きだからな。真正面から戦って勝つのは難しいだろうよ。」
だからリリスには霞の外套を与えたんだしね。
ふぅ。そろそろ上がるとするか。
「アレクが起きたら出発するけど、お前寝ないのか?」
「飛んで行くんだろぉ? 空の上で寝させてもらうさぁ。いいだろぉ?」
「いいぞ。寝るほどの時間があるとは思えんけどな。」
のんびり飛んでも二時間だもんな。ラグナがいいならいいさ。私はドライブ中に助手席で居眠りされても気にならないタイプだし。
さーてアレクはいつ起きるかなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます