1923話 女達の決意

アレクが寝ている間にマイコレイジ商会へ赴き女達と面談をした。一人ずつ事情を確認し、楽園の説明をする。その上で契約魔法をかける必要があるからな。




全員合意で契約魔法をかけ終わった。まあ納得してなかったらここには来てないだろうけどさ。


「ではカース様。ご無事でのお戻りをお待ちしております。」

「てましゅ」


リゼットの腕に抱かれたカールス。もうこんなに話せるようになったのか。月日の流れ早いもんだね。


「ピュイピュイ」


「コーちゃんが少しだけ祝福をあげるって。よかったね。」


本当に少しだけだとは思うが。


「まあ! コーちゃん様の! ありがとうございます! フォーチュンスネイクの祝福だなんて! よかったわねカールス。」

「こーちゃ」


ダミアンに似てどこか太々しい気もするが、リゼットに似て利発そうでもある。元気に育って欲しいね。


それよりコーちゃん様って……前は普通にコーちゃんって呼んでなかったか?




領都を女達を引き連れてゾロゾロ歩くと、やはり注目されるんだよな。いかにも売られたてですって感じだし。


「あ、あの、魔王様、なんですよね……」


「まあ、そうだな。」


さっき自己紹介したんだけどな。


「えでんって、ヘルデザ砂漠の、ま、まだ北なんですよね……」


「そうだな。」


それもさっき説明したぞ。


「本当にひとっ飛びで……」


「そうだな。あんな所まで歩いていくなんて冗談じゃないからな。で、何が知りたいんだ? 全部さっき説明したと思うが?」


「ご、ごめんなさい! その、やっと領都から逃げられるかと思うと嬉しいのに、なんだか急に不安になってしまって……」


「一応言っておくが、やめるなら今のうちだぞ? 向こうについたらそう簡単には戻れないからな?」


「分かってます……みんな、分かってます……」


領都を逃げたい女達ねぇ……夫や親から虐待されたとか食い物にされたとかって聞いたけど。リゼットもよくこんなにたくさん見つけてくるよな。たぶん氷山の一角なのかな。




「少し待っててくれ。」


我が家の正門前。アレクとカムイ、それからラグナを呼びに戻ったのだ。アレクは起きてるかなー。


「待たせたわね。準備はできてるわ。」


「おお、起きてたんだね。じゃあ行こうか。」


アレクったらうちの庭で錬魔循環しながら待っててくれたんだね。


「ガウガウ」


楽園の外を走り回りたいって? もちろんいいぞ。


あれ? ラグナがいない。置いていくぞ?


「ピュイピュイ」


おお、コーちゃんが呼びに行ってくれたよ。ありがとコーちゃん。




「悪いねぇボス……ちょいとうたた寝しちまってたよぉ……」


「コーちゃんが呼んでくれなかったら置いていったんだけどな。コーちゃんに感謝しとけよ。じゃ、行こうか。」


我が家のある貴族街から北の城門へと。ぞろぞろと歩く。城門に近付くに連れて増える人通り。

すると、必然的に現れるのが……


「クラリーヌ! 何やってんだぁ! 昨夜の稼ぎぁどうしたコラぁ!」


寄生虫のような身内。いや、ヒモかな?


「その女に指一本でも触れたら殺すぞ?」


「あぁ!? なんだぁこのガキぁ! 殺せるもんなら殺してみろやぁ! できもしねぇくせによぉ!?」


『麻痺』

『微毒』


「おごっ……おおおぼぼぼぼぉぉ……」


バカな奴。街の中で殺すわけないだろ。そのままプルプル震えながら吐き気と戦っとけ。吐きたくても吐けないって地獄だよなぁ。あーあ。


「ありがとうございます……あんなクズみたいな男のために……私は今まで……」


「殺す方法なんていくらでもあったと思うけどな。それでも自分が逃げる道を選んだってとこか。まあどっちが正解かなんて分からんもんな。」


殺せばいいってもんでもないしね。


「はい……あんなクズでも……どうしても殺せなくて……あいつ、私以外の女にも……」


うーん、殺しても許されそうな雰囲気だな。いや、まあもちろん私が手を下す気なんかないけどさ……


「まあ、なんだ。代官のリリスは頼りになる女だ。厳しい面もあるが自分の仕事をきっちりする者には優しくもある。少しぐらい甘えても許されるだろうよ。」


「代官のリリス様……ありがとうございます、魔王様……」




そして城門。アレクがいるから待ち時間なしで貴族用の門から出られる。

よし。これだけの人間を連れてるから少しは手間取るかと思えば、意外にスムーズだった。あらかじめリゼットがきっちり届け出てくれてたんだな。本当にリゼットは仕事ができるやつだわ。次期辺境伯夫人に相応しいんじゃないか?




『氷壁』


さすがにこれだけの人数を乗せる板がなかったんだよな。


『浮身』

『風操』


さあ、行くぜ楽園。

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