1920話 ピエレマイソン商会の職人達

ランチはやっぱりベイルリパースだね。ここに来るのも久しぶりだよな。かなり高いしね。でも気にしない。昼からコースを四人前。その上コーちゃんには酒もたっぷりと。私とアレクは一杯だけ。それでもかなり贅沢しちゃってるね。

でも気にしない。ヒイズルに出発する前はギルドの口座にかなりの金を残していたが、今回は出発する時までに使い切るつもりだしね。




ふぅ。かなりおいしかった。ヒイズルで食べた味噌や米、それから魚もいいけどさ。領都で食べる魔物肉やバターが効いたキノコ類もやっぱ旨いよなぁ。甘いデザートも別腹だし。




昼からは領都の散歩。何が変わって何が変わってないのかのんびり見学だ。さすがに北の城壁はばっちり直ってたな。


「カース、何から何までありがとう。新しい水着も、ベイルリパースも。幸せすぎておかしくなりそうよ。」


「大したことじゃないよ。僕がしたいからしてるだけ。この散歩もね?」


「うふふ、そうね。カースと歩くとただの散歩でさえ幸せよ。」


アレクの腕にぎゅっと力が入る。いつものように私の左腕と組んだ右腕に。


今のご時世なのだろうクタナツも街中まちなかはそれなりに人が多かった。でも領都はそれ以上だな。これはトンネル工事で賑わってるからだけじゃないよな。小耳に挟んだ情報によると、領都からグラスクリーク入江まで街道の敷設を始めたとか。

とんでもないな。辺境伯はかなり本気のようだ。時代に置いていかれないよう必死……むしろ自分こそが先頭を走れるよう立ち回ってるってわけか。


王都からムリーマ山脈の南へ。南から北へ抜けるトンネル。トンネルから領都。領都からグラスクリーク入江。そしてクタナツの北ソルサリエや前王のいる北の領地ノルドフロンテへと。この分だとその全てが街道で結ばれることになる。 この街道がクタナツを通るか領都を通るかで今後の街の命運が決まるもんな。

クタナツを通るならば、わざわざトンネルを経由せずともムリーマ山脈の東側を迂回すればいい。むしろそれが今までのルートだよな。しかし、トンネルや街道が完成したら国内の物流が一気に変わる。同じフランティア領なのだからクタナツと領都が争う必要もないとは思うが……そこは代官や辺境伯が考えることだしな。


いやー……時代が動いているよなぁ……


もっとのんびりすればいいのに。でも、そうもいかないのが辛いところなんだろうね。権力者も楽じゃないよなぁ。いくら金があっても足るまいに。


もし、辺境伯と代官が揃って破産なんかしたら……想像したくもないね。きっとろくなことにならない。


そういう意味ではジュダの贋金攻撃が始まる前でよかったよな。今の状況でそんなことされたら……最悪の場合国内で戦争が起こりかねない。今さら戦乱の時代なんかに戻ったら……おお怖い。




あらら。適当に歩いてたら街外れの方に来ちゃったよ。人が少ない方へ少ない方へと歩いたからかな。

ここら辺にはスラムとか破極流槍術道場があるんだよな。スティード君もアイリーンちゃんもいない今、そうそう立ち寄ることもあるまい。


「あぁん? へぇーんなカッコしてやがんなぁ?」

「見たことねぇ服だぜぇ?」

「きひひっ! 女の方ぁたまんねぇなぁ!」

「よぉうお二人さぁん? どーこ行くんだぁい?」


おっ、スラムあるあるか。でもスラムの住人にしては汚くないな。冒険者でもなさそうだ。強いて言うなら少々酒臭いぐらいか。


「お前ら闇ギルドのモンか?」


「ばっ! ばか言うない! 俺たちぁただの石工だぁ!」

「おうよ。王都じゃそれなりぃ知られてんピエレマイソン商会だぜぇ!?」

「きひひっ! フランティアぁ田舎って聞いてたけどよ。まさかこぉーんないい女がいるなんてなぁ?」

「ここらぁ危ねーぜ? 引き返した方がよかーんべ?」


ピエレマイソン商会……母上からちらりと聞いた気がする。王都で家を建てる時はこの商会がいいと。


「領都で何やってんだ?」


「そんなもん呼ばれたから来たに決まってんな」

「辺境伯はご長男のご指名よぉ!」

「ばかっ! そっちぁ秘密だろぉが!」

「なんでここに隠れてっと思ってんだよ!」


バカなのか? 酔って通行人に絡むような奴らだもんなぁ……


「ドストエフの? 街道の敷設か?」


「知らんな……もういい。行け」

「あ? ドストエフ? 誰だそい「黙ってろ!」っぅごぉ!?」

「ドストエフとは俺のことだぁ。悪ぃなぁ。こいつ酔っ払っちまってんからよ?」


ふーん……何やら悪巧みの匂いがするな。それも稚拙なやつ。


「心配するな。ダミアンには黙っておいてやるよ。」


「て、てめぇ……何モンだ?」

「ダミアンって言ったなぁ。放蕩三男ダミアンのことかよ!?」

「せっかく無事で帰してやろうと思ったのによ」


あーあ。バカな奴ら。私の方こそこの場は無傷で済ませてやろうと思ってたのに。最近の私はかなり穏やかなんだぞ?

あーあー、ハンマーなんか取り出しちゃって。


「お前ら職人だなんて嘘だな。道具を武器にするような奴らがあのピエレマイソン商会にいるはずがない。何しに来たから知らんが、やるなら相手してやるぞ?」


母上が推薦するぐらいだからきっといい商会に違いないんだよな。


「死ねぇあぁー!」

「女ぁいただきぃ!」

「おらよっ!」


左腕を少し動かしてアレクを私の前に出す。


「はあぁ!?」


それに驚いたのはバカ三人だ。隙だらけ。


『氷散弾』


アレクの全方位魔法がバカどもを襲う。私にも……


「あがぁ!」

「いぎぃ!」

「うぐぅ!」


顔以外が穴だらけになるバカども。貫通はしてないだろう。手加減してるみたいだし。


「んもう! カース酷いんだから。」


「あはは。ごめんごめん。やっぱりアレクに油断なんかないよね。偉いよ。」


右手で頭なでなで。


「カースのばか……//」


さてと。それでは尋問タイムといこうかね。適当に吐かせたら後はダミアンに丸投げでいいだろ。


『水壁』


いいんだけど……誰だあいつら?


「待ちたまえ。領都の治安を乱すような真似は許さない。いくら君が魔王であってもだ」


ああ、こいつか……たまたま通りかかったようには見えんな。狙いは私……とも思えんが……

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