1919話 狩られるメガシルクスパイダー

結局シルキーブラックモスで白シャツと下着、それからTシャツを発注しておいた。やはり完成までは一ヶ月近くか……高級品で身を固めるとこの辺が大変なんだよな。原材料の入手から職人の仕事までとにかく手間がかかるもんなぁ。


これでだいたい一ヶ月後、遅くとも二ヶ月後にはほぼ揃う。そうなると最後に必要なものは……武器だ。

あの最強の棍、イグドラシル製の『不動』が欲しい。あれにはずいぶん助けられたもんな。あのくそ重い不動だからこそ私の体も強くなったし、あれでなければ貫けないものもたくさんあった。うーむ、やはり欲しい。


そりゃあ他にも衝撃吸収のサポーターとかエルダーエボニーエントの籠手とかあれば便利なものはあるが、やはり不動が最優先だろうな。なんならイグドラシルで籠手なんか作っちゃったりしてね。いや、だめだな。そんなことしたら腕がろくに動かせなくなりそうだ。絶対パワーリストより重そうだもんな。総重量では不動の方が重そうだけどさ。


「アレクはどう? 何か必要なものない?」


シルキーブラックモスの下着は要らないと言われたしな。たぶんたくさん持ってるもんね。


「ええ、何もないわ。ドレスも宝石も最高のものを持ってるから。」


杖もナイフも結構いい物を持ってるもんね。

そうなると……


「忘れてたよ。アレクに着て欲しいものがある。ムリーマ山脈に行こうよ。」


「ムリーマ山脈に? もちろん構わないわよ。」


ふふふ。狙う獲物は……




ムリーマ山脈の東側を飛び回る。この巨大山脈すら懐かしいね。前回の場所もだいたい覚えてる。よし、この辺だったかな。密林にダイブだ。


おお、いたいた。メガシルクスパイダー。脚を広げても五メイル程度、そこまで大きいやつじゃないな。


『氷壁』


前回と違うのは糸を吐くのではなく、まっさきに襲いかかってきたことか。私の行動は変わらないけどね。今こいつを仕留めるわけにはいかないんだよ。ひたすら防御を固めて待つ。さっさと糸を吐きやがれ。


なんだこいつ? 氷壁にしがみついてガジガジ噛んできやがる。蜘蛛のくせにえらくアクティブだよな。


「獲物ってメガシルクスパイダーだったのね。新しい水着を作るの?」


「その通り。僕の分もだしアレクにも必要だよね。今のやつってもうキツキツじゃない?」


「言われてみればそうね。着れなくはないけど確かに胸もお尻もきついわ。」


それはそれで見る分には最高なんだけどね。


「南の大陸で泳ぐかどうかは分からないけどさ。あっても損はないもんね。」


ふふふ。アレクは一つ勘違いをしているな。前回と同じデザインの水着を作るものだと。もちろん旧式スク水タイプも作るさ。

だが、本命は違う。ビキニを作るのだ。こちらでは下着にしか見えないだろうが、そんなの知ったことではない。アレクが着ればそれは下着ではなく水着になるのだ。そして私がビキニと言えばビキニなのだ。ジュダの高品質魔石爆弾並みの衝撃があるかも。


おっ、やっと離れた。氷壁がびくともしないから糸でぐるぐる巻きにすることにしたらしい。まったく、初めからそうしろってんだ。




透明な氷壁が白い糸でぐるぐる巻きにされた。真っ白で何も見えない。光源を使ってなかったら真っ暗だろうね。


そろそろいいかな。


『浮身』


氷壁を浮かせて外に出る。


『狙撃』


よし終わり。氷壁から伸びた糸を切って……収納……よし。


「ちょっと待ってね。もう二、三回やるから。」


「ええ、多めに集めるのね?」


「そうなんだよ。ちょっと考えがあってさ。完成を楽しみにしててね。」


「あら、そうなの? それは楽しみね。ありがとうカース。」


ふふふ。何か新しい水着を作るであろうことは想像できても、まさかビキニとは想像もできまい。こりゃ海辺の視線独り占めだな。もっともスク水の時点でもうすでに独り占めなんだけどさ。




よーし。充分集まったな。これでいい。問題はベイツメントで作ってもらえるかどうかなんだよな。なんせ私達の水着を作ったのはマリーだもんな。

さっきの今で行きにくいが、まあいい。相談するだけしてみよう。


ついでに何か魔物でも狩っていくか……いや、そんな気分でもないし。さっさと帰ってどこかでランチだな。




「これは……メガシルクスパイダーの糸ですね。これを使用して水中用の装備をお求めというわけですか……」


さすがの高級服飾店も困ってるな。わざわざ水中用の装備を作る者なんかいないからな。昔ラウーラさんが作ってたような気もするが。


「デザインは後で相談するとして、できそうかな? この糸をいきなり布にするわけにもいかないだろうしさ。」


乾燥なり何なりの工程が必要だろうからね。


「おっしゃる通りです。先ほどのご注文もございますので、いささかお時間いただくことになりそうかと……」


「分かった。全てお任せでいいよ。一応見本を置いていく。アレク、渡してあげて。」


「え、ええ。」


アレクの使用済みスク水。使用済みというかまだ現役でもあるが。


「なるほど……この撥水性、そして伸縮性を再現する必要があるわけですね……ほう……なんたる丁寧な魔法処理。海の魔物対策も兼ねている……これほどの達人がいたとは……」


マリーがどんな魔法を駆使してこのスク水を作ったのかは知らないが、ここの店員が唸るぐらいだから余程なのだろう。さすがマリー。


それにしてもいい歳した目利き店員が、アレクのスク水をしげしげと見つめる姿は……奇妙なものだ。手にとり、伸ばしたり裏返したり。全てのパーツをじっくりと確認している。

表には少しも現れないが、アレクが内心恥ずかしがっているようだ。これはもしや、今夜お仕置きされてしまうパターンか?


「承りました。まずはこのデザインということでよろしいでしょうか? サイズはアレクサンドル様ですね?」


「それで頼むよ。二週間後ぐらいにまた立ち寄るから作れそうかどうか感触を聞かせてもらおうか。無理なら無理でいいから。」


「かしこまりました。必ずやご期待にお応えしたいと思います」


よし。こうは言ってるがこの店のレベルなら上手くやるだろう。少々高くつきそうではあるが。


それにしても楽しみだな。スティクス湖では全裸で泳いだこともあるアレクだけどさ。それとこれとは別だもんな。ビキニ姿だって見たいに決まってる。何色にしようかなー。うーむ悩ましいぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る