1918話 南の大陸の異変
結局夜中過ぎまで飲み続けてしまった。だって酒が旨いんだもん。カムイはさっさと寝てリゼットは夕方前に帰ったけど。
はぁ、我が家の大きい風呂。なんと気持ちのいいことか。やっぱ湯船はマギトレントに限るよな。最高だよ。
「カースといると……どこでも『住めば宮殿』だけど……やっぱりこの家は別格ね……」
「なんて言うか……落ち着くよね。」
楽園の我が家もここと同じサイズのマギトレント湯船なんだけどさ。なぜかここの方が落ち着く気がするんだよね。生まれ育ったクタナツでもないのに。
「そうね……あちこち旅したからこそ……この家の凄さが分かる気がするわ……」
「そうだね。部屋のおしゃれさや雅さではヒイズルの高級宿に負けてるとは思うけど、湯船では圧勝だもんね。」
なんせこの家って飾り気がないもんなぁ。壁の傷や元から刻まれてる模様なんかは別として。天井に壁画もなければ壁に絵の一つもないもんな。
だが、もうすぐ和室ができる。楽しみだよなぁ。
「やっぱりカースは何も失ってなんかないわ……楽園にはリリスもいるし……ダミアン様にラグナ、そしてリゼットにマーリン……みんなカースの帰りを待っていてくれるもの……」
「うん。ありがたいことだよね。でも僕だけじゃないよね。アレクの帰りも同じようにみんな待ってるよね。」
「うん……ありがとう……ねぇカース……わた「おうカース! ここにいたんかよ!」……何でもないわ……」
ダミアン……しかも全裸。せめて股間ぐらい隠せよ……キモっ……
「待ちなよダミアン。アタシも入る……あぁボスにお嬢も入ってたのかいぃ。邪魔するよぉ?」
もちろんラグナも全裸。こいつ、肉付きがよくなってやがるな。
アレクはダミアンを見た瞬間に着替えが終わってる。なんと素早い換装なんだろうね。一瞬にして湯浴み着を装着している。
「ピュイピュイ」
コーちゃんはダミアンと一緒だったもんね。そう、水風呂に入りたいんだね。いいとも。
『
風呂場に常備してある洗面器を冷水で満たす。たぶん外気温と同じだ。
「ピュイピュイ」
満足? よかった。
「おうおうカースよお! もっとヒイズルの話い聞かせろやあ!」
「そうだよボスぅ。特にエチゴヤの短筒とやらにゃ興味があるねぇ?」
「おう。また明日な。心配しなくても領都にはしばらくいるからさ。その間にじっくり話してやるって。」
「先に出るわね。ダミアン様、お先に失礼いたしますわ。」
アレクが出ちゃったよ。何か言いかけてたもんな。もちろん分かってるとも。よし、私も上がろう。
「あぁんボスぅ……つれないねぇ……」
「悪いな。お先。」
向かう先は、もちろん寝室だ。
領都二日目。本日の目標はベイツメントだ。最高の着心地を誇る白シャツや下着を仕立てるにはやはりこの店だからな。
朝食を済ませて早速行ってみた。
「いらっしゃいませ。これはマーティン様にアレクサンドル様。ようこそおいでくださいました」
イケオジな店員は何でもないように挨拶をする。客の名前は覚えておいて当然とばかりに。
「以前注文した白いシャツをまた頼むよ。ケイダスコットンとシルキーブラックモスで十ずつ。それから下着類も。」
「……申し訳ございませんマーティン様。実は現在ケイダスコットンが品切れとなっておりまして……シルキーブラックモスでしたら値上がりはしてございますが、対応可能でございます」
なん……だと……!? ケイダスコットンが品切れ?
「ではシルキーブラックモスは頼む。それよりケイダスコットンが品切れとはどうしたことなんだい?」
「それが、私どもにも分からないのです。南の大陸で何かがあったとは聞いているのですが。分かるのはそこまででして……」
シルキーブラックモスはノワールフォレストの森で獲れる。群生地さえ知っていれば蚕をゲットするのはそこまで難しくはないからな。親に見つかると少しばかり難易度が上がりはするが……
しかし、ケイダスコットンは違う。そもそも産地が南の大陸だもんな。
よくよく思い返してみれば……国王はヒイズルに行くのにわざわざ南の大陸を経由したんだよな? そこで何人もの宮廷魔導士をピックアップするために。ベクトリーキナーさんもその中の一人だ。勤務地が南の大陸だと聞いたが。
そしてクタナツのコーヒーもだ。あれだって南の大陸からの舶来品だよな。それが七倍近くも値上がりしてるとは……一体何が起こってるんだ?
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