1917話 領都の自宅

領都で飲む王都の酒もいいものだ。センクウ親方の酒だね。しかも最初の一杯がスペチアーレとは。ダミアンめ、さすがにいい酒持ってやがるな。


「何ぃ!? あのクワナが天王、いや天公だぁ!?」


さすがに驚くよな。国を追われた男が返り咲いたわけだもんな。しかも一国の王みたいなもんだし。


「てことはダミアンは天公クワナの義兄になるのか。上手くやったもんだよな。それともサテュラちゃんに男を見る目があっただけか?」


「そんなこと読めるわけねぇだろ。サテュラも変わった妹だけどよぉ……まさかそこまで見込んでたわけねぇと思うぜ?」


そりゃそうだろうけどさ。


「それにしてもエチゴヤだってぇ? 小耳にぁ挟んだことあるけどさぁ。生意気な闇ギルドもいたもんだねぇ? でもボスに睨まれたんじゃ潰れるしかないさねぇ。」


ラグナめ、いきなり話が飛ぶなぁ。そりゃあエチゴヤのことも話したのは私だけどさ。


「完全に潰れたかは知らんがね。まあ潰れたんじゃないのか?」


「だろうねぇ。それより気になったのがボスに懸けられたっていう賞金だねぇ。二十億ナラーだってぇ? 結局元締めはどこのどいつなんだぁい?」


あ、忘れてた……

確か私にはそれだけの賞金が懸けられてるって話だったよな。元締めか……普通に考えればジュダなんだろうけどさ。確認してないや。

まいっか。ジュダってことにしておこう。そのうち王都に行った時にでも聞けばいいや。もっとも、その頃にはジュダの奴ってただの喋る人形みたいになってるんだろうな。あれこれ記憶とか消されてそう。動乱で唯一生き残ったエルフのように。どんな外法、いや禁術を使えばそんなことができるのやら。あー怖い怖い。


「たぶん前の天王のジュダって奴かな。それよりエチゴヤとニコニコ商会は付き合いがあったのか?」


ラグナの組織だったニコニコ商会。王都一の闇ギルドって話だったからな。エチゴヤと付き合いがあってもおかしくないよな。


「あるわけないさぁ。うちらニコニコ商会は王都から出ないんだよぉ。まっ、バンダルゴウに厄介そうな闇ギルドがいたってぇ話ぐらいなら聞いた気もするねぇ。」


ないのかよ……


「シーブリーズやスローターズは? 聞き覚えあるか?」


海からの冷たいそよ風シーブリーズとはね……闇ギルドのくせにふざけた名前だが、バンダルゴウに根を張ってやがったもんな。ヒイズルに渡る前に潰したが、あの時のあいつ……タムロっていたよな。バンダルゴウの地回り……ランディ兄貴に預けたが……


「知らないねぇ。どうせしょぼい組織なんだろぉ? ボスが気にするようなもんじゃないと見たねぇ。」


それもそうか。


「分かった。ありがとよ。悪かったな。それよりさ、こんな詰まらん話より明るい話を聞かせてくれよ。」




ほう。トンネル工事は順調なのね。今のところヤバい魔物も現れていないと。


ほう。カールスは二歳か。早いもんだなあ。今日はマイコレイジ商会に置いてきたのか。ちゃんと乳母もいるのね。


あ? ラグナに子供ができない? 知るかよ……

やっぱ神はよく見てるのかなぁ……ラグナのような極悪人にはそうそう幸せをくれなさそう。


あ、マイコレイジ商会で思い出した。リゼットに伝達事項がある。


「そうだリゼット。これ、リリスから。それから女の補充が欲しいとよ。」


「ありがとうございます。ほう、稼いでますね。さすがリリスさん、なかなかの手練れです。女の件も了解しました。男娼も含めて用意いたしましょう。」


男娼は……いるのか?


「それからマイコレイジ商会に発注がある。」


「ありがとうございます! 何なりとお申し付けください!」


「前回と同じ四角錐の建物なんだけど、大きさは倍で頼む。そして中にここと同じ台所を用意しておいてくれ。」


「ここ、とおっしゃいますと、このカース様のご自宅のですね?」


「その通り。ただ寝るだけだともったいなくてな。どれぐらいかかる?」


やっぱり旅先でもアレクの料理を存分に楽しみたいもんね。


「そうですね……実のところ、マイコレイジ商会うちもトンネル工事の関係で手一杯だったりするんですよ。でも他ならぬカース様のご依頼ですから……一ヶ月以内には仕上げて見せます!」


「分かった。それで頼むよ。」


さすがにもっと急げとは言えないわな。他の準備だってそれぐらいかかるし。まあ丁度いいぐらいかな?

あ、準備で思い出した。白シャツも発注しておかないとな。それこそ原料が他国なんだから時間がかかりそうだし。


「ちょっとベイツメントに行ってくる。お前らまだ飲んでるだろ?」


「はぁあー? そんなもん明日でいいだろうが! おらぁ今日はとことん飲もうぜぇ? なぁラグナ!」


「そうだよボスぅ! せっかく再会できたんだからさぁ。野暮は言いっこなしだよぉ?」


それもそうか。アレクだって目で私にそう伝えてくる。今日はとことん飲もうと。


「それもそうだな。アレクの瞳に乾杯!」


「おうよ! ラグナの瞳に乾杯だ!」


「ダミアンの栄達に乾杯だよぉ!」


「いやいや、カールスの成長に乾杯です!」


「バカね。カースに乾杯に決まってるわ。ね、コーちゃん?」


「ピュイピュイ」


「ガウガウ」


コーちゃんはアレクに賛同し、カムイは次の料理を持ってこいと言っている。全然まとまらないじゃないか。

まあそれはそれでいいけどさ。あー酒も料理も美味しいよなぁ。いつもダミアンが入り浸ってるけど、今じゃここが私の実家ってことになるのかなぁ。少し違う気もするが。


ややこしいことは考えずに、とりあえず飲もう。ふおっ、やっぱダミアンの野郎いい酒持ってやがるもんな。はぁ、おいしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る