1916話 国内縦断

翌日、朝からノワールフォレストの森にやってきた。狙うはもちろん、マギトレントだ。

旅に出るからにはやはり最高の湯船が必要だもんな。


幸い乱獲の形跡もなかったので安心して斬り倒すことができた。さすがに全滅させてまでゲットする気はないからね。

ミスリルギロチンはなくとも私の『水鋸』で問題なく切れた。やっぱ私成長してるわ。嬉しくなっちゃうね。マギトレントの抵抗なんて小雨程度にしか感じなかったし。いやー必死に魔法を撃ちまくってきたのに悪いね。




昼は楽園。そこまで久々ではないが通り道だし顔ぐらい出しておいても悪くないだろう。


うむ。特にトラブルもなし。リリスはよく頑張ってるね。女の子の仕入れを頼まれたので旅立つ前までに何とかしよう。ついでに私の取り分を少しだけ貰いリゼットの取り分も預けられた。これで装備代ぐらい出るかな? 少し足りないぐらいか。




午後。クタナツに帰り木工屋クランプランドへ。ただし、前回と違って五メイル四方の湯船を二つ注文した。おまけに代金を払わなくて済むようマギトレントだって余分に渡してある。出来上がりは遅くても二ヶ月後か。楽しみだ。




夕方。アレクサンドル邸へ戻る。それにしても……いつものことだがノワールフォレストの森に日帰りだなんて正気の沙汰じゃないよな。我ながらすごいね。片道千キロル以上あるよな?




「ねぇカース。こうやって国内であちこち移動するのがすごく新鮮に感じちゃって……やっぱり生まれた街っていいものね……」


夜。アレクの部屋。お姫様が眠るような豪華なベッド。腕枕。汗ばんだ二人。まどろむひと時。後はもう眠るだけ。至福だね。


「そうだね。ノワールフォレストの森……それにマギトレント。なんだかえらく懐かしく感じちゃったよ。」


思えば、初めてマギトレントを狩った時はスパラッシュさんに案内してもらったんだよな。懐かしくないわけがない。


「カースが一人で作り上げた楽園エデンも……リリスが立派に切り盛りしてるわね……」


「そうだね。でもあいつっていつまで僕の奴隷でいるつもりなんだろうね。いつでも解放するって言ってるのに。」


「私がリリスなら……解放なんかして欲しくないわ……」


「え? そうなの?」


そりゃあ普通は奴隷でいる以上衣食住に困ることなんてないけどさ。でもあいつはめちゃくちゃ稼いでるのに。


「当然ね……リリスはカースの奴隷でいる限り無敵の傘の下にいるようなものだもの……」


傘か……使う必要のある貴族はおらず平民が買うには高い。結局誰も使わず名前だけ歴史に残った古代の遺物。

それにしても無敵の傘か。言い得て妙かも。


「なるほどね。分からないでもないね。でも今のリリスはもう楽園の代官としての立場を確立してるよね? それでも奴隷でいたいものなのかな?」


「当たり前じゃない……リリスはあんな場所で体を張って生きてるのよ? カースの奴隷、つまり魔王の所有物という肩書きは今やローランド王国内ならどこでも通用するわ。それも強力にね?」


なるほどね。分かる気がする。


「それに楽園に到達できるほどの冒険者なら尚更ね。カースの雷名は間違いなく轟いてるわ。」


「それもそうだね。それよりアレク……」


もうこのまま眠るつもりだったのに、アレクったらお喋りしながらも手がわさわさと動いて……おっふぅ……


「ねぇ……カース……」


夜はこれからだな。ふふふ。






「おはよう。起きた?」


「……おはよ……朝?」


「十時前ってとこね。よく寝てたわ。」


昨夜はアレクの方が激しかったのに私の方が疲れちゃってるとは……あ、しまった。アレクパパは早起きして稽古してるのに。私はぐーぐー高いびきかよ。ちょっと申し訳ないね。まいっか。


「何か食べる?」


「うん。お腹すいてるかな。アレクは?」


「私もよ。早く目が覚めたから少し庭で稽古してたの。」


おお、朝から偉いじゃないか。私も負けてられないな。




朝食後。領都に向けて出発。アレクママには数日ほど留守にすると伝えた。あっちでも色々と用意することがあるからな。




到着。城門にはいつもの事務的な騎士がいた。なんだか安心するね。


そして懐かしき自宅へ。今日はマーリン来てるかな?


「ぎゃははは! だからカースはよー!」

「あはははぁ! だからボスはさぁ!」

「うふふふ! だからカース様はー!」

「おほほほ! だから旦那様は。」


いた。ダミアンにラグナ、リゼットにマーリン。いつものメンバーか。


「ようダミアン。久しぶりだな。工事の調子はどうよ?」

「今帰ったわ。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


コーちゃんはいち早くダミアンのコップに首を突っ込み酒を飲んでいる。

カムイは普通にただいまの挨拶だ。


「おお! カースじゃねえか! やっと帰ってきやがったかよ! アレックスちゃんも!」

「ボスぅ! お嬢も!」

「カース様! アレックス様!」

「おかえりなさいませ。旦那様にお嬢様。お待ちしておりました。」


ダミアンとリゼットの子、カールスはいないのか。


「よっしゃ! そんじゃ飲むぜ! 土産話きかせろよ?」


昼から宴会が始まった。

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