1915話 旅の準備

アレクが起きてきたのは昼前だった。昨夜のお楽しみが激しかったせいだけでなく、飲み過ぎたせいもあったようだ。


そしてアレクの回復を待っておでかけ。色々と用事があるんだよね。

まずは……


「こんにちは。」

「お邪魔するわよ。」


「いらっしゃーい! ひっさしぶりー! 聞いてるよー! ヒイズルから帰ってきたんだってねー。早速来てくれて嬉しいのねー! 今日は何なのねー?」


仕立て屋ファトナトゥールのラウーラさん。ドラゴン革を扱ってもらうならやはりこの店この職人だ。


「ウエストコートとトラウザーズ、そしてコートを二人分頼みます。革はこれで。」


タイショーの神は親切にもなめし済みの革をくれたんだよな。


「へぇー? これ何なのねー? ドラゴンー? 見覚えのないやつなのねー」


「白いドラゴン、白王龍って言ったかな。その革を黒く染めてもらったやつです。いつも通り防汚、サイズ自動調節、温度調節、汗排出なども付けてもらえますか?」

「魔石はこれね。足りない分は現金で払うわ。」


ジュダを仕留めに迷宮に潜った時の物だ。高速で飛ぶボードの上からアレクが集められるだけ集めたらしい。


「ひえぇー! そんなドラゴン初めて聞いたよー! これは腕がなるねー! よーし承ったよー! うん、魔石も足りそうなのねー。それじゃあ寸法頂戴するのねー!」


なんだか懐かしいなぁ。初めてここで作ったウエストコートはサウザンドミヅチの幼生の革だったか……いや、トビクラーのだったかな?


シャツや下着類も発注したいが、それは別の店にしておこう。これだけ注文すると、さすがに手一杯だろうからな。領都の高級店ベイツメントあたりがよさそうだ。


「よーし。二人とも寸法ばっちりなのねー。この分だと一ヶ月もあればできるよー。仮縫いもしたいから二週間後ぐらいに一度来て欲しいのねー。それから前金で大金貨一枚置いてって欲しいのねー。たぶん足りないと思うけどー。」


普段なら余った革をあげるから安くして、と言うところだが今回は少ししか余らないんだよな。しかもその革にも使い道があるし。幸い金ならどっさりあるし。昨日ギルドでおろしておいてよかったよ。


「じゃあこれで。」


「はいはーい。しっかり作っておくのねー! 毎度ありー!」


よし。次の店だ。

靴屋のチャウシュブローガ。


「こんにちは。」

「お邪魔するわよ。」


「やあいらっしゃい。おやおや元気そうで何よりだよ。注文かい?」


「ええ。前回と同じブーツを頼みます。革は後日ファトナトゥールから届きますので。」


やはり私の靴はウエスタン風黒いとんがりブーツでないとね。


「ほう? それは気になるね。では久しぶりだし寸法頂戴しようかね」




ラウーラさんもだが、やっぱクタナツの職人は手際がいいよな。さすがは名人サントリーニ親方だ。


「で、親方。相談なんですけど、靴底に何かいい素材はないですか?」


「そうだねぇ。さすがにドラゴンゾンビの牙を上回る素材なんてないけど……これなんかどうだろうかね?」


おっ、木材だ。どこか見覚えがあるな……


「エビルヒュージトレントだよ。防御力では古龍の牙に劣るけど、魔力の伝導率ならわずかに上回るかね。もっとも、君にとっては誤差でしかないだろうねえ」


おお……エビルヒュージトレントか。なんと懐かしい。フェルナンド先生から貰った木刀を思い出すなぁ。かなりいい木だよな。


「それでお願いします。そのうちもっといい素材が手に入ったら作り直しを頼むこともあるとは思いますけど。」


「いいとも。出来上がりは革が届いてから一ヶ月ぐらいを見ておいてくれるかね」


「ええ、頼みます。これは前金です。」


大金貨を一枚。


「預かっておくよ。正確なお代は革を見てからになるけど、結構かかるとは思うよ。また来てみてね」


よし。これで靴も大丈夫だ。後は……




鍛冶屋ラジアルでアレクの短剣を砥ぎに出し、私もミスリルナイフを発注した。やっぱナイフぐらいないと不便なんだよね。せっかくアレクが手に入れてくれたムラサキメタリックの短剣も失くなったし。




そして今は日暮れ前。これまた久しぶりのカフェ、タエ・アンティ。


「いやー有意義な買い物だったね。」


「そうね。総額でいくらかかるのか恐ろしくなるわ。それなのに少しも躊躇わないなんて。さすがカースね。」


「この浴衣も悪くないけど、やっぱりいつもの魔王スタイルでないと落ち着かないんだよね。白いシャツも欲しいしね。」


「うふふ、そうね。カースはどんな服を着ててもかっこいいけど、やっぱりいつもの服装が一番似合ってると思うわ。」


「ありがと。旅をするなら防御力も大事だしね。」


どこに行くのかまだ未定だけど、やっぱ防御はガチガチに固めておかないとね。


「そうね。私も装備のおかげで命拾いしたものね。大事なことだわ。」


そのせいでアレクはドラゴンのウエストコートを失ったんだもんなぁ。あのホワイトドラゴンのブレスは超危険だね。ほんと生きててよかった。


それにしても……久々にこの店で飲むコーヒー。旨いなぁ……酒もいいけど、コーヒーもいいよね。いつぶりだろ。えらく値上がりしてるけど……記憶では一杯金貨二枚だったはずだが、今では金貨十三枚だって? どうしたことなんだろうね。


「それよりカース。いつも贅沢させてくれてありがとう。そもそもカースと一緒にいられることが最高の贅沢なのに。」


「それは僕もだよ。アレクと一緒にいられるだけで信じられないぐらい贅沢なんだからさ。それに比べたら服やコーヒーの値段なんて安いものだよ。」


間違いないね。こればかりはいくら大金を積もうと無理なもんは無理だからな。はぁ、おいしい……至福の時だな。


やっぱ故郷っていいなぁ……

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