1914話 アレクサンドル家の朝

この夜、アレクパパが帰ってくるまでアレクママは飲み続けた。初対面の時は迸るほどスパークしていた上級貴族オーラが見る影もなくフレンドリー。まるで娘と友達のように接する、ごく普通のママのようだった。

きっとアレクが帰ってきたことが嬉しくて仕方ないんだろうな。思えば弟のアル君はもうすぐ領都の騎士学校を卒業だもんな。子供が全員巣立ってしまう。同居してないのは四年以上前からだろうけどさ。それでも心情的に寂しくなるのは止められないだろうな……


「アルベルティーヌ、今夜はここまでにしておこうか。休むとしようじゃないか。」


「ああ……あなたぁ……おかえりなさい。アレックスが帰ってきたの……本当に立派になって……」


「分かっている。ヒイズルでかなりの戦果を上げたようだ。きっと君に似たんだな。」


「違うわよ……名門アレクサンドル家の血を引くあなたに似たの……」


パパとママはイチャイチャしながら寝室に引っ込んでいった。酒も料理もまだ残っている。夜はこれからだぜ。ここ最近飲み過ぎな気もするけど。


「カース……私達も……ね?」


アレクったらもう。


「うん。まずはお風呂だね。」


「ピュイピュイ」


「ガウガウ」


コーちゃんはこのままここで飲んでいると言い、カムイは手洗いしろと言ってきた。仕方ないなぁ。ブラッシングまでは勘弁しろよ。




風呂で軽くイチャイチャ。

寝室でがっつりイチャイチャ。彼女の実家、彼女の部屋。これは初めてじゃなくても燃えるよな。アレクだって燃えてるし。そもそもかなり久しぶりの逢瀬だもんな。なんせ色々あったもんなぁ……


忘れさせてくれよアレク……







朝か……喉が渇いたな。

アレクは……ぐっすり寝てる。むしろぐったりかな。昨夜はかなり激しかったからな……


少し散歩するか。ここの庭はなかなか広いからな。うーん、まだまだ朝は寒いね。


ん? 何やら物音が……庭で何かやって……


「次! ファロス!」


「はい!」


朝から剣術の稽古かよ……パパが全員に稽古をつけてるのね。あの人は見覚えがあるな。ファロスさん……私とアレクの初デートで護衛をしてくれた人だ。


あ、終わった。パパの木剣がファロスさんの胴を叩いて。


「よし! では全員隣の者とかかり稽古だ! 始め!」


アレクサンドル家の護衛だけじゃないな。メイドや執事まで混ざってないか?


「早起きではないか。来い。相手をしてやろう。」


ちっ、見つかってしまったか。


「押忍! あればでいいんですが棍はお持ちじゃないですか?」


「ほう? 棍とはこれまた珍しいな。よかろう。しばし待て。メイジャー! 倉庫から棍を持って参れ!」


「かしこまりました」


「棍など普段使わぬのでな。魔力庫に入っておらんのだ。」


「普通そうですよね。どうも僕は剣より棍の方が相性がいいみたいで。」


パパは素振りを始めた。私は準備運動でもしておくか。と思ったらもう戻ってきた。さすがに最上級貴族家の執事だけあるね。




ふぅ。朝からいい汗かいちゃったよ。


「驚いたぞ。いつぞやの剣よりよほど手強いではないか。特に最後の突きにはひやりとさせられたぞ。」


「あれは前校長の技を真似たものですね。さすがに校長ほどの威力は出ませんけど。」


身体強化も使ってないしね。ただ、つい最近までくそ重い不動を振り回していたせいか、普通の棍がめちゃくちゃ軽いんだよね。かなりの速度で振ることができてしまった。そりゃあパパも驚くよね。ギリギリって感じはしなかったけど、軽々と捌けるってほどでもなかったな。手応えありだ。


「ベヒーモスをも仕留めた突き技だそうだな。恐ろしい先達もいるものよ。よし。朝食にするか。今朝はここまでだ!」


パパが号令をかけると稽古をしていた人達はすっと屋敷に戻っていった。




朝食はアレクもママもいなかった。二人ともさぞかしよく寝ていることだろう。

パパと二人だけだと気まずそうではあったが、コーちゃんとカムイがいるから特に問題はなかった。しかもパパは食べるのがやたら早く、私が半分も食べてないのに全てたいらげて出仕していった。騎士長ってのはすごいものだ……


ふぅ。うまかった。やっぱマトレシアさんの料理は最高だね。さすが料理長。昨日渡したばかりのヒイズルの食材をよくもまあここまで使いこなせるものだ。


さて、何しようかな。アレクはまだまだ起きてこないだろうし。


よし。また庭に出よう。今度は心を落ち着けて座禅だ。そして錬魔循環してよう。基礎は大事だからな。


今回のヒイズルの旅。物理的な物はことごとく失ってしまったが、魔力の制御はかなり上達した。だいたい魔力消費が半分ぐらいでいつもの威力を出せるようになったんじゃないかな。実質魔力が倍になったようなもんだ。そうでなければ迷宮や最後のジュダとの戦いは勝てなかったかも知れないよな。やたら魔力を食う魔法ばっかり使ったもんなぁ。

ホワイトドラゴンとの戦いだってそうだ。よくあの土壇場で『自在反射』を使いこなせたもんだ。半分以上まぐれだけどさ。これも練習あるのみだな。


私、強くなったよな……?


魔力だけでなく体だってそうだ。身体強化を使いまくったし不動もかなり振ったおかげで強くなった。それはパパとの稽古でも実感できた。


しかし心は……分からないな。


錬魔循環しよ……

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