1900話 タイショー獄寒洞の神

ドラゴンにとって広範囲ブレスなんて息を吐くのと変わらないはずだ……

それでも近い距離でくらってしまえば普通は塵になる。いや…近くなくても無防備で浴びれば塵になるし、良くても即死だ。

ブレスの性質はドラゴンによって千差万別だが、このホワイトドラゴンの場合は低温。


戦ってて気付いたことだが、あいつのブレスはただの低温ではない。おそらくだが分子崩壊を起こすレベルの超低温なのではないだろうか。それがマイナス何度なのかは分からないが……


そんなブレスをアレクはくらった……

いくら収束ブレスでないとはいえ……


「ニンちゃん! ぼさっとしてないで! ポーション飲ませて!」


「はあぁ!? そんなことできるわけないだろ!」


「金ちゃん死ぬよ?」


「は? アレクが死ぬわけないだろ!」


アレクは私より後に死ぬって決まってんだよ! 今死ぬわけないだろ!


「あーもーいいし! 時間ないし! うちがポーション飲ませるし!」


「バカやめろ! 腕が!」


「バカはニンちゃんだよ! ここをどこだと思ってんのよ! 腕ぐらい楽勝で治るし! その前に死んだら終わりだし!」


あ……


「それを早く言えよ! 待っててアレク! すぐ飲ませるからね!」


バカは私だ……兄上の時に引き続き二回目だってのに……


「ピュイピュイ」


そうだった! コーちゃんお願い!

国王から貰った最高品質のポーションを開ける! コーちゃんが口に含み、アレクの口から頭を滑りこませる。コーちゃん最高!

残ったポーションは体にかける!


「分かればいいし! ほんっとニンちゃんってだめだめだし! 身内のこととなるとさー!」


『液動』


おお、クロミの魔法がアレクを水で覆った。


「ニンちゃん、ここにもポーション垂らしておいて。たっぷりねー。」


「よっしゃ!」


なるほどね。クロミ特製の水ベッドにポーション入りか。しっかり治りそうだ。


あー本当に焦った。マジで目の前が真っ暗になってしまったぞ……

そりゃあ理屈で考えれば、アレクほど魔力があれば両腕がなくたって日常生活に不自由はないだろうさ。だからって、なくていいわけがないんだからさ。


ここは迷宮だもんな。踏破してから神に頼めば楽勝で治してもらえる。あーもー……焦った。

だからかな。今思えばアレクにしても、即死さえしなければきっと私がどうにかしてくれるって考えたんだろうな。信頼が嬉しいね。


いやいや、こんな所でのんびりしてる場合じゃない! さっさと神のところに行かないと!


……どこに……?


神の奴どこにいるんだよ! 大抵ラスボスを倒したら入口か何かが出てくるもんだろ!? 大抵って二回目だけどさ……


シューホー大魔洞ではラスボスのリッチーを倒したら入口が現れたよな!? 確か豪華な扉だった。どこだ? どこにそんな扉があるんだよ!?


「とりあえずさー。金ちゃんのことはうちがお願いするからさー。ニンちゃんは黒ちゃんのお願いするといーし。」


「そ、そうだな……」


アーニャ……

なんてこった……

さっきの私って最低じゃないか……ここにはアーニャを生き返らせるために来たってのに……

死んでもないアレクのことで動揺して……アーニャのことが頭から完全に抜けていた……


これが私の本心か?

それとも自分にかけた契約魔法のせいなのか?

アーニャの命なんてアレクの両腕以下だと思っているのか?

どうなんだ……


自分が分からない……

分からないけど……行くしかない。


「行こうか……」


「へ? どこに?」


「神の待つ場所へだよ。付近に扉が見えないってことはあの穴の下しかないだろ。」


この程度のこともさっきの私は気付かなかったんだな。少し考えれば分かることなのに。

ドロガーやキサダーニは分かってたみたいだな。私が落ち着くのを待ってたってとこか。


『浮身』

『風操』


全員を木の板に乗せて飛ぶ。来た時と何ら変わりはない。


『光源』


ただの暗闇じゃないな。光源を強めに使わないと明るくならない。


「うっわー。下見えないしー。」


慎重に降りたいところだが、そんな余裕はない。ほぼ自由落下の速度で降りる。ブレーキは下が見えてからでいいさ。念のため下の方にも光源をたくさん撃っておこう……




やっとかよ。どんだけ深いんだ。ここでまたドラゴンなんか出てきたらブチ切れるぞ?


「ピュイピュイ」


あっち? コーちゃんは頼りになるね。


飛ぶこと二分。見えた。シューホーでも見たような豪華な扉。精緻な彫刻が施されている。この模様の一つ一つに意味があったりするんだろうか。神の名やランクを表してたりしてさ。


私が扉に触れると音もなく開き、真っ暗だった地下世界が光に包まれた。


『よく来たな。あの白王龍はくおうりゅうを真正面から下すとは誉めてつかわす。さあ、願いを言え』


なんか前回と声が違う? いや、同じ声なんだけど威厳が桁違いな気がする……


『おお、そなた達か。久しいではないか。よくぞ参った。強者は歓迎するぞ』


さすがに覚えててくれてたのね。つーか心の声がばればれかよ。


「クロミ、アーニャを出して。」


「分かったしー。」


ふう。こうして改めてアーニャの遺体を目にすると……どうしようもなく悲しくなる……

胸には大きな穴が空いている。顔は穏やかだが無表情。

だが、もう大丈夫だ……待たせたな、アーニャ。


落ち着いて、願いを伝えよう。

ふー……はー……


「この者を生き返らせてください!」


『無理だ。他の願いにせよ』

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