1899話 栄光と犠牲

ヤバいな……少しばかり頭が痛くなってきた。

残り魔力も三割を切ったし。持久戦などする気はなかったのに、じりじりと引きずり込まれてしまった。このドラゴンってもしかして頭がいいのか?


今はどうにか拮抗しているが、あいつは魔力にまだ余裕があるはずだ。ここから逆転するアイデアは……ある。

あるよ。あるけどなぁ……タイミングがシビアなんだよ。覚えたはいいけど実戦で使ったことのない魔法があるんだけどなぁ。同じ時に覚えた自動防御はめちゃくちゃ使い倒してるってのに。


まずいな……魔力がじりじりと減っていく。


ん? あいつのブレスが乱れた!?


下からロープが……ドロガーか! よくこの高さまで届いたな!


『グォゴオォ!』


ドラゴンは一瞬だけ下にブレスを向けた。自分の邪魔をする羽虫など吹き飛ばしてやると言わんばかりに……バカが!


業炎烈風槍ごうえんれっぷうそう


くらえ十倍!


「ッギガァオアァ!」


押し切った。だが……だめだったか。

口の中から頭を貫いてやろうと思ったのに……顔が半分しか焼失してない! 下を向いたせいか……

このぐらいじゃあ終わらないのはもう分かっている……ふぅ……


「げほっ……がふっ、はぁっ、はぁはぁ……」


くそ、頭が痛い上に息苦しくなってきた。寒過ぎて空気が薄いとか? それは違うはずだが……まあいい。


残り魔力は二割。


「ガガァオオ!」


よし! クロミの魔法が直撃! 両足が氷結してやがる! できれば全身をやって欲しかったんだが……


『グォゴオオオオオオオオオオオオオオ!』


やはり全方位、いや下方に向けた広範囲ブレスか。自分の足なんか気にもせずクロミやドロガー達をまとめて始末したいらしいな。

顔が半分なくなってもまだ生きていられる生命力はとんでもないが……

バカめ、終わりだ。


『業炎烈風槍』


『キュオオオオオオオオオオオオオオオォォオォ!』


くっそ! マジでしぶとい! 即座に撃ち返してきやがった! 溜めなしでその威力かよ! またさっきと同じ展開になってしまった……トドメのつもりだったのに!


先ほどこいつの足に絡みついたロープはすでに消えている。ブレスにやられたんだろう。ドロガーもキサダーニも命からがら逃げているはずだ。

クロミは再び溜めに入っているだろう。こいつを凍らせるほどの魔法を放つなんて並大抵のことじゃないからな。


『キュオアアアアァァ!』


くそがぁ! またじりじりと威力が上がりやがる! 焼失した顔が再生しつつあるからか!

何かないか!? 少しだけでいい! もう一度こいつに隙ができる何かが……


「ギガァオオ!」

『グォゴォオオ!』


なんだ? こいつの焼失した顔、その左半分から出血が……風斬系の魔法か? そのせいか左に広範囲ブレスを吐いた!?

好機だ! あの魔法を使ってやる! できるだろうか……

チャンスは一瞬しかない……狙いは……あいつが再び私に収束ブレスを吐いた瞬間……

シビアだが、着弾のタイミングに合わせて使わないと……

失敗したら……私は、死ぬ。だが、もうやるしかない!


おら! こっち向け!


『徹甲弾』


お前の皮膚装甲は貫けなくとも傷口に当たると痛いだろうが!


『キュオオオオオオオオオオオオオオオォォオォ!』


こっちに吐いた! 防げない収束ブレスが!


今だ!


『自在反射』


「ギッ!? ガッバ……」


よっしゃああああああああぁぁ!


絶対くらってはならない収束ブレスをそのまま反射してやったぜえええええええ!

ホワイトドラゴンめ! 頭部が丸ごとなくなった! 力なく氷上へ落ちていく。

やってやった! 勝った! やったぞおおおおお!


澄んだ音を立ててその体躯が砕け散った。女神が住む泉の氷でマリンバを作ったらこんな音を奏でるのではないかというほどの妙なる調べ。


魔力反応もない。


大丈夫だよねコーちゃん?


「ピュイピュイ」


よし。コーちゃんがそう言うなら、きっと大丈夫。ついに私達は勝っ「おい魔王! 女神がやばいぞ! 降りてこい!」


キサダーニの声だ! アレクがどうし……なっ!?


両手の先が……ない!? 肘から先が……!

胴体と脚はどうにか無事……いや、ドラゴンの装備までもがボロボロになって……素肌がほぼ剥き出しに……


『風壁』


「アレク! アレク! どうしたんだよ! しっかりして!」


いやいや! こんなこと言ってる場合じゃない! ポーションを飲ませ、いやいやだめだだめだ! ポーション飲ませたら手が治らなくなる! どこだ! 肘から先はどこいった!?

カムイ! 早く! 探してきてくれよ!


「ニンちゃん! 落ち着いて! 無理だし!」


「無理なわけないだろ! 治せるだろクロミなら!」


「だから無理だし! 金ちゃんあのブレスくらってるし!」


「はあぁ!? そんなバカなことがあるかよ! きちんと距離とってただろうが!」


アレクがそんな迂闊なことするわけないだろ!


「ガウガウ」


どこにもないだと!? そんなわけあるかよ! お前の鼻なら探せるだろうがよ!


「金ちゃん近寄ったよ! あのホワイトドラゴンに! ニンちゃんが何か狙ってるって分かったから! うち止めたし! 伝言でやめろしって! でも金ちゃん……」


近……寄った?

まさか……あいつの顔から出血したのって……

アレクが……隙を作るために?

隠形を使って……近距離、横から風斬を……?


そんな……

なんて真似を……

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