1884話 殺戮の宴

会場にはすでに大勢集まっていた。ほとんどがローランド人かと思えば、そうでもない。どうやら天都の有力者を集めたってとこか。貴族や金持ちの平民などを。

そもそもローランド人がいるはずもないわな。近衞騎士と宮廷魔導士ぐらいしか来てないだろうし。いや、近衞騎士の姿が見えないな。何してんだろうね。


「お飲み物をどうぞ」


給仕は天都の人間かな。女中やメイドはたくさんいたもんな。よく見れば首輪のある者とそうでない者がいる。あの首輪って確か……


「ピュイピュイ」


私の首に巻きついていたコーちゃんも尻尾を伸ばしてグラスを掴む。私も飲もう。

アレクと乾杯。カムイは早速テーブルの料理に口を付けている。そんなカムイを怪訝な目で見る客は多いが口に出して文句を言う者はいない。カムイのこともよく知ってるんだろうね。それにカムイって食べ方がきれいだし。皿から直接食べてるのに食べカスや汁が飛び散ることもない。

私も食べよう。そしてもっと飲もう。


『静粛に! これよりローランド王国第十六代国王クレナウッド・ヴァーミリアン・ローランド陛下がご入来なされる! 全員その場にて直立不動、脱帽の上待たれよ!』


ほう。直立不動とは意外だな。大抵は跪いて出迎えるものだが。一応は外国だからってとこかな?


会場は静まり、コーちゃんでさえグラスをテーブルに置いた。カムイも食べるのをやめて、お座りしている。


『クレナウッド・ヴァーミリアン・ローランド陛下! ご入来!』


うおっ!?

轟音が響いたかと思えば……ステージの天井から雷が落ちた……せっかく直したんだろうにもう天井ぶち抜いたのかよ……ひでぇ。


目も眩むような光がおさまると、そこに国王は立っていた。ローランド王家ってこの演出が好きなのか? 前王もやってた気がする。


『皆の者! 今宵は余のヒイズル上陸記念晩餐会によく来てくれた! お前達を抑圧し苦しめていた愚王ジュダはすでに成敗した! もうお前達を苦しめるものはない! 何も心配することはないのだ! これからはともにヒイズルの地を盛り立てていこうぞ! さあ、杯を持て! 用意はよいか! 乾杯!』


「乾杯!」

「かんぱい!」

「かんぱーい!」

「ローランド王国ばんざい!」

「ぐぼおっ!?」

「乾杯!」

「クレナウッド陛下ばんざ!?」

「げほぉっ!」

「ががっばはっ!」

「かんぱっごはあっ!?」


えっ!? 何が……


「げえっ!? な、なんだこれ!?」

「きゃああー! 血! 血を吐いてるわ!」

「だれか! 治癒魔法使いを!」

「早くしろぉー!」


『静粛に。狼狽えるでない。』


国王の声だ。ただプログラムを進行するって感じの淡々としたトーンだ。


倒れた奴らは女中が運び出していく。これまた淡々と。その後、宮廷魔導士が現れてさらりと汚れを落としていく。初めから予定通りなんだろうな。


『さて、説明しよう。今死んだ者だが、エチゴヤとの関わりが確認できた者どもだ。本来我がローランドのやり方ではそのような者でも生かして使うのだがな……闇ギルドと関わりがあったとなるとそうもいかぬ。よってこの場を借りて始末したということだ。』


あー……そういえば母上も言ってたな。闇ギルドと関わったものはどんな契約魔法をかけられてるか分かったもんじゃないから真っ当に使えないって。


『逆に言えば今、この場で生き残っているお前達。お前達は新生ヒイズルで生きることを許されたとも言える。今後よこしまなことを企まない限りだがな! では宴の続きだ! さあお前達! 飲むがいい! 乾杯!』


と言われても会場は冷え冷えとしてる。目の前で数十人が死んだってのに平気な顔して飲める奴が……

つーかどうやってターゲットだけに毒酒を飲ませたんだ? 乾杯の合図前に飲む奴だっていただろうに。


まあいい。私が気にすることじゃないさ。あー酒が旨い。今日はもう後先考えない。飲みまくってやる。カムイ、悪いが護衛を頼むよ。自動防御だって張ってないんだから。


「ガウガウ」


仕方ないなーって? このやろ。

お前ジュダの改変魔法をくらいかけたんだってな? コーちゃんに感謝しろよ。ギリギリだったそうなんだから。


「ガウガウ」


当たり前だって?

まあアレだ。カムイですら危なかったんだからさ。アーニャだとどうにもならないよな。魔力が著しく減ってたとは言え、私だって危なかったんだから。でも、そんなジュダも終わりだし。少しはスッキリしたよな。少しは……


「あの、ま、魔王様、手前どもは……」

「私はイカルガで材木商を営んでおり……」

「原石を取り扱っておりますオオイシ商会と……」


おっと、囲まれてしまった。見たところ商人達か。私のことも当然知ってるわけね。商魂たくましいねぇ。


「何か用か?」


用も何も全員一斉に喋られたんじゃ何も聞き取れないんだけどね。


「ぜひ手前どもの天鵝絨を……」

「家をお建てになるなら……」

「お近付きのしるしにこの原石を……」


「一人ずつ喋ってくれ。そっちのお前から右回りで。」


「は、はいっ! て、手前どもは…………」




切りがない……一体何人いるんだ?

何かを差し上げるとか用意するとか言ってたけど途中からアレクに丸投げしたんだよな。とてもややこしい話をする気分ではない。とにかく今は飲みたいんだからな……


ん? 音楽が止まった……


『皆様、静粛に願います。我らが国王陛下より発表がございます。ご起立、脱帽の上、謹聴ください』


またかよ。最初に済ませておけよな。でも意外といいタイミングかも。周りのうるさい奴らが黙ってくれたし。


今度はゆるりと歩いてステージに登る国王。

さあ、何の発表だ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る