1882話 ジュダの弱さ

えーっと他に聞いておくべきことは……


「エチゴヤの会長はどこにいる?」


「僕だ……」


やっぱこいつだったか。どこまで外道なんだ……

こりゃあエチゴヤの件はもう国王に丸投げだな。拐われたローランド人救済の件も。あと魔石爆弾の処理もだな。

どうやってエチゴヤを作り上げたとか、どうやってヤコビニなんかと渡りをつけたとか。気になることは色々あるが、もうどうでもいい話だよな。丸投げ丸投げ。


「ジュダ。アーニャを抱いたの?」


んなっ!? アレク? いきなり何を……


「いや、特に何も。そのうち楽しませてもらうつもりだったが、今そんな余裕はなかった。だいたいこの体だしね……」


「そう。ならいいわ。」


アレクの意図が分からない。なぜそんな質問を……いや、それは後でいい。


「天都から逃げようとして一旦ここに身を潜めたってことだな。ん? どこでアーニャを拐ったんだ?」


「そんなの天道宮から孤児院までの道中に決まってる。逃げやすく身を隠しやすいのはどう考えても孤児院だからね……」


つまり、そのタイミングでアーニャが目に止まり……もののついでに拐ったと……便利な手駒程度のつもりで……クソが……


「改変魔法をかけたら戻せないって言ったな?」


「無理だね……忠誠の対象なんかを別人に上書きするぐらいはできるけど……」


「ヤコビニ派を支援して、本気でローランドを獲る気だったの?」


アレク……それはいい質問だな。少し前までそこにもムカついてたけど、もう気にならなくなってしまったもんな。アーニャのことに比べたら……


「そんなわけがない。無理に決まってる。どっちでもよかったのさ。ヤコビニが成功しようが失敗しようが。ローランドの国力を削れるならね……」


「ローランドを警戒しているの? ヒイズルを侵略されないかと。」


「少しはね。うちの国の迷宮はおいしいからね。南の大陸ほどの旨味はないかも知れないけどさ……」


「メリケインは? ローランドを警戒しているのかしら?」


「知らないよ。ヒイズルを足がかりにしてローランドを獲りたい奴らもいれば、こっちに興味のない奴らもいるとは聞いてるがね。」


うーむ国と国との関係も色々あるわな。つーかどうでもいい。なのに確認するアレクは心まで貴族だね。偉いね。


「私からもよいだろうか?」


宮廷魔導士も気になるよな。


「ええ、どうぞ。」


「では。貴殿とメリケインの関係はどうなのだ? 国同士の関係ではなく貴殿個人とメリケイン連合国との関係だ」


「ないな。僕は国を追われた流れ者だからね。歴代の天王と同じように淡々と貿易をするぐらいのものさ。」


「そうか。分かった。すまなかった魔王殿。私の質問は以上だ」


私も最後に何か聞いておくか……


「お前戦ってる最中はあれだけ余裕たっぷりの態度だったのに、目を焼かれたぐらいで一気に醜態を晒したのはどういうことだ? 逆転の切り札や秘策ぐらいなかったのかよ?」


「くっ……嫌な質問を……答えたくないけど口は止まらないし……僕がビビりだからだよ……痛みに弱く逆境に弱い……強者の前だと、なおさらさ……」


マジで!?


「おまけに一度死んだって事実があるからね……あの瞬間の恐怖はちょっと忘れられそうにない……おまけに目を潰されたんじゃあ改変魔法は使えない。普通の魔法や弱い洗脳魔法ぐらいしか使えないよ……どうにもならないさ……」


「切り札もないってことか?」


「切り札はとっくに使ったよ……二つしかないアンチマテリアルライフルをね……」


あー……そりゃそうか。私の籠手をぶち抜くほどだもんな。そりゃ切り札か。


「よく分かった。お前はもう無力ってことだな。おっと、命令しておくぞ。自殺するなよ。」


「しないさ……」


まだ死なれちゃあ困るからな。

さて、この辺でいいかな。気になることがあればまた聞けばいい。


それにしても……こいつの残虐性というか外道ぶりってのは弱さゆえだったってことか? 国を追われたトラウマとか、他者に虐げられることを恐れるあまり……どこまでも他人に対して残酷に無慈悲になった的な? もはやどうでもいいことだけどね。せいぜいこの世で詫び続けるんだな。


「よしアレク。少し早いけど天道宮へ行こうか。こいつは眠らせておいてよ。」


「それはいいけどカースは着替えた方がいいんじゃないかしら?」


昏睡くらみねむり


あ、もうシャツの替えがない……このシャツ高いのにさぁ……


「とりあえず行こう。天道宮なら着替えぐらいあると思うし。」


「それもそうね。私も……なんだかすごく飲みたい気分よ……」


アレクもか……飲むしかないよな。今夜はとことん。


ジュダは椅子に縛ったままジェリズンさんに任せた。用は済んだので国王への土産だ。せいぜい地獄の未来を生き続けろよ。




天道宮に到着。着心地は雲泥の差だしサイズも合ってないけど新しいシャツを手に入れた。いよいよパーティーか。

クロミやドロガーも呼んでやりたいので伝言を頼んだ。そのうち来るだろう。ドロガーは大丈夫なんだろうか。あいつも心配だよな。


「あの、魔王さん。どうも……お久しぶりです。」


後ろから声をかけられた。

あれ? こいつなぜここに……

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