1880話 宮廷治癒魔導士ジェリズンとセイグナー

孤児院を出ると、周囲を囲まれていた。国王率いる近衞騎士団に。


「やはりお前達か。凄まじい魔力を感じたもので駆けつけてみれば。ん? そやつはもしやジュダの長男スザクか?」


凄まじい魔力……たぶん私ではない。となるとカムイか?


「たぶんそうです。詳しくは後ほどお話しします。」


たぶんそうなんだろうな。てことはジュダの野郎……長男の体を乗っ取ったってことか。どうやって? どこまで外道なんだよ……


なお、ジュダには拘束隷属の首輪を巻いてある。王族用の特注だからな。お前みたいな奴にもお似合いだろうさ。その上で両手ごと胴体を縄で縛っている。


「いやに厳重に拘束しておるな。まあよい。後で聞かせてもらうとしよう。」


「ええ、落ち着いたらご報告に参ります。」


さすがに国王は話が早いな。ここまで囲んでるってことは孤児院の調査は済んでるってことか。その上で突入のタイミングを図ってたってとこなんだろうな。


「ところで問題はお前の左手だ。血を止めておらぬところを見ると、先の方は確保しておるな?」


「ええ、大丈夫です。」


ポーションを飲まずに耐えてるんだよ。半端に治してしまうと繋がらなくなるからな。そろそろ出血がやばいかな……

ポーションを使って繋ぎ合わせることもできなくはないが、せっかくクロミがいるんだもんな。安全確実に治そうと思ってるわけだ。


「ならば……ジェリズン! 繋いでやれ!」


「かしこまりました」


ん? 宮廷魔導士かな?


「魔王殿、お初に。私は宮廷治癒魔導士ジェリズン・ド・スグラッティ。腕の先をお持ちであれば治して差し上げます」


「助かります。これ、お願いします。」


「こ、これは……? 一体何が原因で……」


「そこのジュダが厄介な武器を持ってましてね。あの下に転がってると思います。」


「ジュダ? そうですか……むっ、これは中々に厄介ですな……少々お待ちください……」


「あと、ついでに首と腹もお願いします……」


シャツとウエストコートを収納。うわぁ……何これ黄紫? 腹に変な色のアザができてる……


「そちらは少々お待ちを……腕がなかなかに厄介で……セイグナー! 手伝ってくれ!」

「心得た」


ただ斬られたってわけじゃないもんなぁ。エルダーエボニーエントの籠手をぶっ壊してアーニャの胴体を貫いた上でドラゴン革にまで傷を付けるほどだもんなぁ。一発の威力は私の徹甲紫弾より上だろうな……ムカつくわー。徹甲紫弾は自分では劣化ウラン弾どころじゃないと思ってるんだけどなぁ。そのさらに上かぁ……やっぱムカつくな。


「魔王殿、すまぬが今使っている魔法を解除してくれぬか?」


「げ……分かりました……」


『無痛狂心解除』


「うぐっあうぅぅぅ……」


めちゃくちゃ痛い! 信じらんない……こんなに痛いの!? 痛すぎる……ぐおおおお……


「少々辛抱くだされ」

「いいぞジェリズン」


「骨は私がやる。肉を頼めるか? 幾分か増しが必要だ」

「心得た」


肉? まし? 痛くてたまらん……早く、なんとかしてくれぇぇぇーーーー!


骨接髄合こっせつずいごう


「いぎゃあああつっ! あがぁあつぃいいいい!」


何だこれ!? 腕の芯が熱い! 汗が! 全身から汗が吹き出る!


「動きなさるな! 男であろう!」


う、うるせぇよ……男でも女でも痛いもんは痛いに決まっていぎぎぎいぃい……


『気脈接続』


ぎゃあああああーー! ちくちくする! 神経に直接針を刺されてるみたいな! 痛ぇよぉぉぉ! あ"あ"あ"あ"ぁぁぉぁぉあぁーー!


「いいぞ! いけセイグナー!」

「心得た!」


『肌肉増完』


ぐぎいいいい! 腕がまるでプレス機に潰されてるかのような! やめろ……やめてくれ! 痛くておかしくなりそっ……ぐぎぎぎ……


「見事だセイグナー! そのまま仕上げてくれ!」

「心得た!」


ぐぎぎ……しあげ? 頼むから早く……頭がおかしくなりそうだぁ……いぎぎぎぃ……


表皮修覆ひょうひしゅうふく


「よし! こいつはおまけだ!」


『麻痺』


はぁーはぁーはぁ……ふぅ。痛みが消えた……

うおぉ汗びっしょり……


「あり、がとう、ございました……」


治ってる……ぶっちぎれた左手が……

手をグーパーしてみ……動、かない……麻痺を使ってもらったからか……

無痛狂心をかけ直すのも面倒だし、このままにしておこう。もう魔力がないとも言うが……


「陛下のめいゆえ礼には及ばぬ。それにしても見事な術式だったぞセイグナー」

「いや、貴様の方こそ繊細な魔法制御であった。これならば魔王殿の復調も早かろうて」


「では次だ。私は腹を診る。セイグナーは首を頼む」

「心得た」




治癒魔法のことはよく分からないが、この二人の腕はナーサリーさん以上母上未満ってとこだろうか。クロミと比べたらどうなんだろうな。いずれにしても助かった。

あー、それにしてもめちゃくちゃ痛かったぞ……


「陛下、ありがとうございました。それではお先に失礼します。こいつから聞くことがたくさんあるもので。」


「うむ。今夜は晩餐会の予定だったがそれどころではなかろう。延期としておこう。主役がおらぬパーティーなど詰まらぬからな。」


あ、そういえばそうだったな。


「いえ、予定通りでお願いできますか。日没時には参りますので。」


「そうか。お前がそう言うなら予定通り催すとしよう。待っておるぞ?」


「ええ、お邪魔します。では後ほど。」


派手に飲みたい気分なんだよ。今なら泥酔できるだろう。飲もう。もうめちゃくちゃに。


だが、その前に……


ジュダの尋問だ。全て吐かせてやる……ことごとくな。

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