1872話 ファベルの今と孤児院
ファベルの子供を走らせて到着した場所も、やはりファベルだった。他の場所と区別がつかない薄汚れた地域、ぼろぼろの建物。
「はぁっはぁーーここ……一時期エチゴヤの奴がヤサにしてたって……」
「そこらで待ってろ。エチゴヤの奴がいたら十万ナラーやるからよ。」
これってさっきと同じパターンなんだよな。この子供が私を危険な場所に案内してさ。魔力があんまり回復してないんだよなぁ。注意しないと……
『風球』
今度は扉ではなく壁を壊してみた。特に意味はない。
「なんじゃあ!?」
「手入れかぁ!?」
「隠せ隠せ!」
おっ、中には何人かいるようだ。少し期待できるかな?
「邪魔するぜ。お前らエチゴヤの関係者なんだってな。大人しく話せば百万ナラーやるぜ?」
「あぁ!? なんだぁこのガキぃ……」
「あれ? こいつもしかして……」
「見た気がする……」
「知ってるなら話は早い。正直に言えよ。そうすれば金だってやるし命を落とすこともない。約束するぜ。」
「ちっ、何者だぁこいつぁよ?」
「この前エチゴヤの倉庫やらハンダビラの詰所をぶち壊した奴だ……」
「確か通り名が……」
『風斬』
「そんなことはどうでもいいんだよ。話すのか話さないのかはっきりしろ。ちょいと急いでるもんでな。」
三人の頭頂部だけを切った。カッパ頭の出来上がりだ。頭皮も少し切れたかな?
「わ、わかったぁ! は、話すってっええええっごぉ」
「あっ、ああっぼぇっ」
「まおっおおっだだぉぉ!?」
よしかかった。意外とスムーズにいったな。
「さて、お前らはエチゴヤの者か?」
「ち、違う! 俺らぁジノガミだぁ!」
「ほ、ほんとだって!」
「そ、そうそう!」
嘘がつけないのは分かってるさ。
それにしてもジノガミか。あいつ、マダラはどうしてんだろうな。死んだかな? 今はあいつなんか気にしてる場合じゃない。
「エチゴヤじゃないんならいい。ジノガミとハンダビラの奴らはまだここらにいるのか?」
「い、いや、ほとんど見ねぇ……目端の利く奴らはもうとっくにイカルガ周辺から逃げたって話だ……」
まあこんな状況だしね。賢明な奴らもいるってことか。確かマダラにかけた契約魔法はローランド人を集めることだったよな。ならば逃げることは可能なわけか。まあいい。逃亡先でローランド人を見るたびに保護することになるだろうしな。
「エチゴヤの関係者も見てないか?」
「あ、ああ……長いこと見てねぇ気がする……」
ということは生き残った雑魚ですら早々と逃げ出した後ってことか。そうなると一体誰がアーニャを拐ったんだ? そりゃあアーニャの美貌を考えると誰が拐ってもおかしくはないが……
だからって誘拐慣れしていない一般人が思い付きでやったって成功するはずがない。
もしかして赤兜の残党? あいつらなら悪事は慣れてるだろうな。鎧さえ脱いでしまえば平民と区別なんかそうそうつかないだろうし。
「お前らなら……ファベルに鎧を着てない赤兜が来たら分かるか?」
「そりゃあ分かるに決まってんだろ。あいつらみてぇなお上品な外道は目立つからな」
分かるんだ……
「分かった。赤兜に限った話じゃないがファベルで見慣れない奴がいたら知らせてくれ。特に、十四歳ぐらいの細く美しい女の子を連れてたら必ず保護してくれ。拐った奴はぶち殺していい。一億ナラー出す。」
「はあぁぁぁーー!? い、一億ナラーだぁ!? 何モンだぁその女はよ!」
「そんなことはどうでもいいだろ。ローランド出身の艶やかな黒髪を持った乙女だ。もし傷ものにしてみろ。ファベルごと潰すからな? 西の山みたいによ。」
「あ、ありゃあお前が……!?」
「さあな。分かったな? こいつは前金だ。こいつを持って逃げようが一億ナラーを狙おうがお前らの自由だ。もちろん一人だけに払うわけじゃない。協力した奴ら全員に見返りがあると思っとけばいい。」
ふふ、唾を飲む音が聴こえるぜ。こんな美味しい話はそうそうないからな。ただで十万ナラーを手に入れたわけだしね。
「あ、ああ……」
「分かったら行け。連絡はイカルガの正門にいるローランドの近衞騎士に言えばいい。魔王への伝言だと言えば通じるさ。」
「まおっ!? そ、そうだ魔王だぁ!」
「シューホー大魔洞を踏破してエチゴヤにカチコミかけまくってるって……」
「ローランドの……魔王……」
やっぱ噂ってのは時間が経つほど広がるもんだな。経ちすぎると消えるんだろうけど。
「分かったら行け。二度も言わせるな。」
「ひっ、ひいいい!」
「いく、行くってぇ!」
「おたすけぇ!」
あ、結局こいつらがここで何をしてるのか聞くのを忘れてた。ここは元エチゴヤの建物なんだろうし火事場泥棒ってとこか?
次行くか……
「あ、兄ちゃん……どうだった? 今何人か出てきたけど……」
「残念ながらエチゴヤじゃなくてジノガミだったわ。他に心当たりがあるなら行ってもらうが?」
「金は……?」
「……ほらよ。残りはエチゴヤがいたらくれてやる。」
一万ナラーも払えば充分だろ。本来なら払う筋合いなんかないんだからな。
「ちっ……こっちだよ……」
なんかこのガキ生意気じゃない?
その頃、アレクサンドリーネとカムイは西の孤児院を訪れていた。
こんな時になぜ、そのような場所に立ち寄ったのか? もちろんたまたま通りかかったからということもあるだろう。
カースによる破壊の跡は外からは窺い知ることはできず、ごく普通の孤児院にしか見えないのに。虫の知らせでも囁いたのだろうか。
一歩内部に踏み入ってみれば、そこには誰一人おらず、もちろんのこと子供達もいなかった。
だからアレクサンドリーネは気になったのではないだろうか。クタナツの孤児院を訪れたこともある彼女だ。不自然な静寂に何かを感じたのではないだろうか。
素通りしようとするカムイを引き止めて、内部を見るだけ見てみようと立ち入ったアレクサンドリーネ。
果たして……その判断は吉と出るか凶と出るか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます