1871話 ファベルの子供達

城門を取り仕切っているのは近衞騎士だった。何人もの赤兜が従順そうに動いている。


「というわけでもうじき国王陛下から命令が届くと思う。悪いが俺はその前に出させてもらう。都合のいいことを言って悪いが朝にはまた通してもらうつもりだ。首実検が必要なら朝方にうちのウリエン兄上をここに配置しておいてくれ。」


「命令が届いていない今は身分証があれば通すのは当たり前です。だが明朝については約束できません」


「それならそれでいい。こちらも朝になったら考えるさ。じゃあよろしく頼む。」


さすがにローランドの近衞騎士は頼りになるな。袖の下も効きそうにないし。




さて、ファベルに来たものの当てはないんだよな。私の知ってる奴らは壊滅したとか聞いたし。

とりあえず知ってる場所をまわってみるか。


まずは……


「あー! あん時の兄ちゃん! この前はありがとう!」


え、だれ? この子見た気はするけどなぁ……


「靴を磨いた奴だっけ?」


「違うよ! おれは道案内した方だよ!」


あー、確かジノガミの事務所まで道案内させたんだったかな?


「まあいいや。そんならまた案内してくれよ。エチゴヤがいそうな所にな。」


「エチゴヤっ!? だ、だめだよ! おれ知らないよ!」


「知らないならいいさ。じゃあな。」


「あっ、ま、待ってよ兄ちゃん! 案内する! するから!」


あらら。前回いくら払ったか覚えてないけど相当美味しかったのかな? 子供のうちから楽して稼ぐことを覚えたらロクな大人にならないぞ?


「ただしズレナがいた場所以外でな?」


エチゴヤのファベルにおける倉庫番ズレナ……あいつ生きてんのかな?


「ズレナ? って誰?」


「知らないならいい。お前が知ってるエチゴヤ関係の場所に案内してくれ。」


このファベル内では有名人だと思ったが。まあこいつは子供だしな。


「いいけど……いくらくれるの?」


「ほらよ。」


一万ナラーもあれば過分だろ。見せるだけ。まだ渡さないぞ。


「うん! 案内するよ!」


さすがに効くね。

エチゴヤの残党なんかがたむろしてる場所でもあるといいんだけど。


「こっちこっち!」


えらく元気だな。よく見れば顔なんか傷だらけなのに。


「ここだよ!」


えらく近いな。闇ギルド系の住処やさってスラムの中心近くにあるのが定番なのに。ここはまだめっちゃ外側だし。


「あの建物か? えらくボロいな。」


「そうだよ! エチゴヤの隠れ家なんだって!」


「確かめてくるからそこらで待ってな。本当だったら後で払ってやるから。」


「えー!? そんなのだめだよ! 今払っておくれよぉ! ちゃんと案内したじゃないかあ!」


「大声を出すな。気付かれるだろ。これやるから食べながら待ってろ。」


魔力庫に入ってた何かの肉。昨日の宴会の残り物かな?


あ、夢中で食べてる。では行くか。少しは手がかりがあるといいんだが……


『風球』


ボロい扉はぶち壊すに限る。


「何だぁ!?」

「テインが戻ってきたんか?」

「いや! 入口がぶっ壊れてる!」


あれ? なんだここ……子供しかいないじゃん。さっきの子よりは歳上っぽいけど。


「ここはエチゴヤとは関係ないのか?」


「はぁ? エチゴヤぁ?」

「かんけーねーし!」

「兄ちゃんこそ何の用だぁ? 扉ぁぶっ壊してくれちゃってさぁ?」


「エチゴヤの残党を探してるんだけどな。知らないか? 知ってたら十万ナラーやるぞ。」


さっきの子に一万ナラー払う約束は無効だな。こいつらがエチゴヤ関係とはとても思えないもんな。


「ふぅん兄ちゃん金持ちなんだなぁ?」

「いーじゃーん?」

「てことはもっとどっさり持ってんだろぉ? 全部置いてけぇ、な?」


おっ、三人だけかと思ったらもっとゾロゾロ出てきやがった。こんなボロい所によくもまあ。


「素直に話す気はないってことでいいな?」


「兄ちゃんこそ素直に払わねぇと死ぬなぁ?」

「いーのかー?」

「俺らぁここいらを仕切ってるドラゴンデスクイーンファングブレードだぜぇ? なめてっと死ぬぜぇ?」


ドラゴン死神デス女王クイーンファングブレード

意味がよく分からないな。


『風球』


ちょっと大人気ない気もするけど今はこいつらに付き合ってる時間がないんだよ。

一人を除いて全員を吹っ飛ばした。


「なっ!? え!? 何、が!?」


「エチゴヤの情報はあるのかないのか、はっきりしろ。十万ナラーいらないのか?」


喉元にナイフを突きつけながら問いかけてみる。そこらで拾ったしょぼいナイフだけど。


「さ、最近みんな逃げたって……ひっ、ひいっ!」


「本当だな? じゃあ拠点だった建物とかないのか? ズレナが倉庫番をしてた拠点以外にな。」


「一つだけ……知って、る!」


「案内しろ。そしたらさっきの言葉は忘れてやる。」


子供相手に何やってんだか……

やみくもに歩きまわるよりましだろうけどさ。少しでも手がかりが欲しいんだよ。ファベルに何かあると決まったわけではないけどさ。いや、むしろ無駄足に可能性の方が高いけど……くそ、アーニャ……大丈夫なんだろうな?


建物から出るとさっきの子供はいなかった。逃げたか。私をこんな所に追い込んだくせに。


「こ、こっち……」


さて、残党の一人でもいるといいんだけどなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る