1870話 大天都包囲網

くそっ!

全然見つからない! あと二時間もすれば日没だ。そうなるとますます見つけにくくなってしまう。冒険者どもやハンダビラの奴らは何してやがる!


コーちゃんの嗅覚にすら引っかからないのだから無理もないことかも知れないが……

くっ……どうしよう……

もしも、エチゴヤの残党に拐われたのだとしたら……




そうだ……あの方法なら……

多少無茶な気もするが……構うものか……




「何用ですか?」


空を飛んで天道宮に入ろうとしたら宮廷魔導士に止められた。きっちり警護してるのね。人数少ないのに。


「少し早いが陛下に会いに来た。少々急いでいるのですぐに案内してもらえるかな?」


歴戦の宮廷魔導士っぽいけどタメ口でごめんね。


「まあいいでしょう。こちらに」


話が早くて助かるね。元々訪問する予定ではあったんだし。




へー……天道宮にもこんな場所、謁見の間があったのか。いや、そりゃ王宮だから当たり前か?

さて、宮廷魔導士にはここで待てと言われたが……数段高い場所にある玉座に国王は座っていない。つーかここって誰も居ない。

見たところこの部屋で晩餐会を行う予定だったのかな。完全に勝利者ムーブだな。


「早かったな。料理が待ちきれなくて早く来たわけでもあるまいに。」


うおっと。玉座方面から現れるかと思えば私も入ってきた方向からかよ。フットワーク軽い国王だわ。護衛も一人しか連れてないし。

慌てて片膝を突く私。


「急なお目通りをお許しいただきありがとうございます。お願いがあってやって参りました。」


「ほう。珍しいな。まあ立つがよい。そして申してみよ。」


立てと言われたら立とう。


「ありがとうございます。天都イカルガを封鎖してください。誰も出られないように。地下も地上も。空の上までも。魔物や虫ですら逃げられないように。」


「ふむ。今の警備体制は概ねそのようになっておる。それをより厳重にしろと言うことだな? 何人なんびとたりとも決して逃さぬように。」


「その通りです。理由は必要ですか?」


時間はないが説明ぐらいするぞ?


「いや、必要ない。お前に報いる機会などそうはないからな。いいだろう。すぐに指示を出す。ついでに気をつけておくことはないのか?」


「あります。そもそも拐われた女の子を見つけたいのです。歳の頃は十四で………………」


探す人間は一人でも多い方がいい。ましてや歴戦の宮廷魔導士達が城壁を固めるんならアーニャの容姿を説明しておくべきだろうな。


「よかろう。すぐに動くとしよう。おお、そうだ。ついでだからお前にも知らせておくか。天王家の王妃テンリと王太后アスカは保護してある。テンリの二男イノクと長女サカエも同様だ。だが長男スザクが行方不明らしい。何かよからぬことを企んでいるのやも知れぬ。まだ十歳ぐらいだそうだが王族は王族だからな。」


「ありがとうございます。合わせて注意しておきます。では僕はこれにて。この御恩は忘れません。」


「バカを言うな。こちらが借りを返すのが先だろう。お前の今までの功労には報いても報い切れぬわ。」


「……ありがとうございます……」


そこまで評価されてるのは嬉しいな……ちょっと泣きそうになっちゃったよ。

そりゃあ自覚はあるけどさ。だからいきなり国王に面会を申し込んでもオッケーされるわけだし。でも嬉しいものは嬉しいな。


よし。これでもし誘拐されたのだとしても、少なくともイカルガから逃す可能性は減った。


冒険者は動かした。闇ギルドもハンダビラが動くだろう。ローランドの近衞騎士や宮廷魔導士も動く。そうなると他にできることは……平民か。

平民を動かすには……




「お帰りなさいませ」


「人を探して欲しい。賞金は一千万ナラー。相手はこの宿に長らく泊まっていたアーニャだ。こっちは諸費用として好きに使ってくれ。」


私達が泊まっている高級宿『若草雲荘』の客室係だ。彼ならあちこちの商会にも顔が利くだろうしね。


「かしこまりました」


「すでにギルドやハンダビラは動かしたし、ローランドの国王陛下も動いておられる。イカルガから脱出できないように手も打った。含んでおいてくれ。」


「かしこまりました」


これで見つからない時は……

全ての建物を一つ一つぶち壊してでも探すしかないな……


「おう魔王。戻ってたのか。」


「おおキサダーニ。ドロガーの調子はどうだ?」


「一応納得はしてくれたけどな……装備や持ち物だって昔とは大違いなんだしよ。それより何かあったそうじゃないか。冒険者を大勢動かしたって?」


「ああ。うちのアーニャっていただろ。そいつが拐われたらしくてな。イカルガ中をひっくり返してでも探そうとしてるところだ。あ、クロミは?」


「二人ともさっき目を覚ましたところだ。こっちの宿にいるぜ?」


「クロミにアーニャが拐われたことだけ伝えておいてくれるか。俺はもう行くから。」


「分かった。お前も落ち着かん奴だな……」


好きで動いてんじゃないってんだ……


よし行くか……

ここまでやったんだ。イカルガの内部はもう充分だろう。

ならば私が行くべき場所は天都の西側、ファベルだ。早く行かないと……国王の命令が届いてしまえば出られなくなるからな。


おそらく無駄足になるとは思うが……

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