1868話 アーニャの葛藤
アレクの体を拭き拭きしてから浴室から出るとアーニャとばったり。
「あっ、ウリエン様はどうしたの?」
「アレクと鉢合わせになったみたいでね。裸のお見合いだってさ。」
「ええっ!? 裸の!? じゃ、じゃあウリエン様はアレクさんの裸を見たの!?」
裸を見た、見られた。なんだかすごく初々しい質問な気がする。アーニャったら中身はいい歳なのにかわいいなぁもう。
「ええ。ちょうど出るところだったもので、お互いバッチリ見てしまったわ。」
「え、そ、そんな……いいの!?」
「大した問題じゃないわ。そこらの町娘じゃあるまいし。それよりアーニャ。あなたいつまで田舎娘でいるつもり? カースの伴侶になるんでしょう? だったら『ウリエン様』じゃなく『お
おお、アレクったら言い方は厳しいけど中身は優しい。アーニャをとことん身内扱いしてるね。
「え、あ、そ、そうなの、かな……で、でも私なんかがそんな呼び方しちゃって……いいのかな……」
「いいも悪いも他に呼び方なんてないわ。私のように『お義兄さん』でもいいけれど、それこそアーニャには難しいのではないかしら?」
「あ、うん……そうだね……まだお義兄様の方が……分かったよ。がんばってお義兄様って呼べるようになるよ……」
これにて一件落着かな。そもそも大した問題じゃないけど。
「あ、その、カースは平気なの? アレクさんの裸を見られて……」
蒸し返すんかい。
「そうだね。平気かな。別にそこらのクソ男がアレクの服を脱がせたわけでもないしね。」
「アーニャ。カースはそんな器の小さい男じゃないわ。それに相手がお義兄さんなら私も見られて恥ではないわ。あなたもそこらの男には肌身を許さ……いや、何でもないわ。」
「そ、そうだね……ウリエン様ほどの方になら……それに引きかえ……私は……私はっ!」
あらら。走って行っちゃったよ……
アレクには珍しい失言だな。別にアーニャを卑下する意図などないのに。単にそこらの男に肌身を許さなければいいって言いたかったんだろうけどさ……アーニャはすでに……
今となっては何一つ経験してないことなんだから気にしなくていいのに。でもそうはいかないのが辛いところだな……
「カース! 何やってるのよ! 追いかけてあげて!」
「えっ、あ、うん!」
アレク……そんな泣きそうな顔で……
自分の失言のせいだけど、自分には何もできないから私に託すしかないって顔だな。大丈夫。任せておいて。
くっ、見つからない……
一体どこに行ったんだよ。この辺りは高級店が軒を連ねているもんだから人通りはそこまで多くない。だからすぐ見つかると思ったのに……
今日のアーニャの服装はアレクのお下がりだ。紫ラメのキャミソールに赤黒チェックのミニスカート。はっきり言ってヒイズルだとめちゃくちゃ目立つ。もちろんそれだけだと寒いから上にはコートを着ているはずだ。サウザンドミヅチの真っ赤なコートを。だからどうあがいても目立つはずなのに……
それともどこかで着替えを……
あ、換装使えるようになってんだったか。だからってアーニャはそんなにたくさん服を持ってないはずだが……
くそぉー! 分からん! 魔力探査でも見つからない! 道ゆく人に尋ねてみても誰も知らないと言うし。何か変装でもしてしまったのか?
アレクさんのバカ……
そんなこと気にせずに最後まで言ってくれればよかったのに……
変に気を使われると……余計みじめに感じてしまう……
前世も含めれば私よりかなり歳下のアレクさん。それなのに全く揺るぎない生き方をしている。あれが本物の上級貴族ってことなのかな。邪魔でしかない私のために、あれこれと助言をしてくれて……
私は処女だ。汚れてなどいない。地獄のような目に遭いはしたみたいだけど、それらは全て神様の恩恵によってなかったことになってる。私の記憶にもなければ実感もない。私は和真のために……今生を賭けて……勝った。
出会えただけで勝ちと言えるのに……なのに私は贅沢にも、これ以上を欲しがってしまってる……
今だって……和真が追いかけてきてくれることを期待して外に駆け出してしまった。こんな大きな街を一心不乱に走ってる。うっ……寒い……何か羽織るもの……
アレクさんから借りてるコート……すごくかっこいいし暖かいけど……今は着たくない……
私、小さい人間だな……
でも寒い……
そうだ。これなら寒くないかな。
『換装』
うわー。すっごい便利。今まであれだけ苦労して着脱してたのに。ひえー全然寒くない。しかもすっごく軽い。
歩くこともできずに座ってるだけでも大変だったのに。やっぱり魔法って便利なんだよね。カースやクロミさんのおかげで使えるようになったけど……
みんな私なんかのことを気遣ってくれてるのに……恥ずかしいよ。合わせる顔がない……なのに……
和真……早く追いついてきてよ……
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